119.花が作る地獄とは
この世界の魔法と異世界の魔法にどのような違いがあるかはわからない。
だがこの世界とって異世界の魔法がそのままの状態ではよくない物だという事はミヤコにも理解できた。
「まあ何事においても、リスクの存在しない力は無いってことだよ」ね
ユカリの言葉にツカサはうんうんと頷く。
「でも食べ物だけでこの世界に順応できるようになったのは本当よかったよね。もしかしたらもっと別の、それこそこの世界で魔法を使うために必要な、世界との接続とかが要求されるようになってたら、異能なんて使うだけ世界の害悪にしかならなかったよ」
また何かしらミヤコの知らない情報が出てきたが、ミヤコがあえて聞かないふりをするので、ツカサはにっこりと笑って話を地獄の花へと戻す。
「まあ食べ物でってのはさ、クロスノックスの穴燕みたいな動物も、そういう順応の仕方が大半なんだけど、たまに順応するための機能自体が歪んでる存在があって、地獄の花はその筆頭ね。地獄の花は魔力を自己生成することもできるし、世代を重ねて世界の罅から魔力を引っ張ってこれるように変わって行っちゃったんだよね」
クロスノックスの穴燕は人の生命力、活動に必要なエネルギーを摘まみ取る。
生命活動を続けるだけならば鳥類用の雑穀や練り餌、小さな虫や、何だったら人間の食べる炭水化物系、たんぱく質系の何かでもでいいらしいのだが、卵を産んで孵化させ、成鳥まで育てるのにはどうしても人間の生命力を必要としていた。
これも魔力の代りだと思われるらしい。世代を重ねて、今は人間の生命力と、お菓子が特に有効であるらしく、雛鳥がいる時期はお菓子をねだってくる固体も多いのだとか。
そうしてこの世界になじむ生物がいる反面、元の世界の力を必要として、良からぬ形で進化している種もあった。それが地獄の花。
そう言えばとミヤコはツカサに訊ねる。
「地獄の花って、何でそう呼ばれるんです?」
聞かれると思ってたと、ツカサは苦々しく笑う。
「その花の周辺で、小動物の死体がたくさん見つかるからだよ」
その様子が地獄絵図と言えるほどで、その地獄絵図の中心に咲く花だから、地獄の花だとツカサは言う。
ユカリが百聞は一見に如かずだよと、タブレットを取り出し操作する。
「むしろ半径五十メートル以内に不自然な動物の死体が大量にあったら、地獄の花を疑うべきだね」
操作したタブレットをミヤコに差し出し、気を付けてねと念を押すユカリ。
「ちょっとショッキング画像かも」
ユカリから受け取ったタブレットの画面を見て、ミヤコはひゅっと息を飲み悲鳴をこらえる。
無数の小動物と虫の死骸が、ブルーシート状に分類分けして並べられていた。
その数は動物だけでも五十近く、虫だけでも百以上あるように見えた。
スクロールをしろとユカリが言うのでしてみると、その動物の内訳が書かれていた。
「それはね、一番最初に見せた地獄の花の周辺で見つかった、不自然に怪我も何もない動物の死骸と、やけに大量にあった虫の死骸だよ」
一番大きくて野良猫やカラス。蛇やカエル、野鼠や鼬、中には鶉も。
虫は大きい物だと複数種類のアゲハチョウ、スズメガの仲間、十センチを超えるショウリョウバッタ、トンボも数種類。中にはミヤコが図鑑でしか見た事のない鮮やかな赤い斑点を持つドレスのようにきらびやかな黒いアゲハ蝶や、天の川がきらめくような艶やかな黒い羽を持ったトンボもいた。それとここ何日かミクが喜々として捕ってきていた緑色のセミやコガネムシ、カナブンなどの樹木に集まる虫がごく少量。
「何故か植物はそこまで枯れないし、濃い色の花の咲いている期間過ぎれば動物の死骸が新たに増えることはないんだよね」
ユカリはミヤコの手からタブレットを取る。
あまり長く見せておくのも教育に悪いと思ったのだろう。
ツカサがユカリの説明の後を継ぐ。
「流石にこれを検証するにはいろいろ問題があって、まだ確定はしてないんだけど……生物の生命力すら、地獄の花は養分にしてるんじゃ泣ないかな? っていう研究が現在進行形で行われてて、まあもうすぐ結果でそうなんだよね。栽培しなきゃわからなかったんだけど、一年草に見えてたけど、冬場は地上部分が枯れてるだけで、実は根っこで越冬もする多年草だった。根が肥大化すると花株が大きくなる。どうも花株のサイズが大きいと、こうして動物が周辺で死ぬらしいんだ。あ、死んだ動物の体液で、周辺の雑草が枯れるから、過去にそこから地獄の花が咲いてるって気が付く事もあったっぽいよ。周辺の草は枯れているのに、何故か枯れない野の草がある。調べてみれば動物の骨有り。って記述がね、残ってた」
動物の体液には塩分などの植物にとっては毒となる成分が含まれている。少量ならともかく、この量の死骸が周囲にばらまかれると、流石に枯れる植物も出てくるという事だろう。
対して地獄の花は枯れずに残るので、周囲の植物が枯れた場所でより効率よく日射を集めることができるという。
生物を殺すのも、一種の生存競争からの進化かもしれない。
作中の地獄の花の発見場所は江津湖周辺を想定してます。
私は江津湖周辺で鶉や鼬に遭遇したことがあります。自然が豊かです。
鴨の仲間も多くいますが、想定してる場所が鴨がいない陸地部分なので今回の被害者にはしませんでした。
モズとかセキレイの仲間とかカワセミとかヒヨドリとかカラの仲間とかもよく見かけます。
バードウォッチングにも最適です。
江津湖って川中にできた湖なうえに、周辺水路走りまくってるうえ、滅茶苦茶湧水が多いので、江津湖周辺の水辺って書くと、どこがそうなのか分からないくらい範囲が広いです。
行ってみて欲しいです、江津湖周辺。
広すぎて車やバイクを使わずに江津湖周辺回ろうとするのは無謀なので、行く際はポイントを絞って見に行くか、全部回るなら交通機関にお気を付けて。