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118.ミヤコ君と魔法の花

 ミヤコは魔法がどういう物かを知らない。

 そう呼ばれる力、現象があるというのは見せられてきた。

 マコトの使うドウタヌキや、クロスノックス、蛍火捕獲で、見てきた魔法の力を、ミヤコはもう疑ってはいない。

 しかしそれがどういう事象を引き起こすものなのか、異能とどう違うのかは詳しくは知らない。

 せいぜい何かが違う気がする、と感じ取れるくらいだ。


「あ、そっか、魔法の説明殆どしてない」


 ツカサが説明をするべきかなと、マコトとユカリを見やる。


「今更すぎる気はするが?」


「うーんでもさ、しておいた方が良いとは思うよ?」


 二人としても説明するべきかどうかは迷うところらしい。


「別に地獄の花の薬について、詳細を知らせる必要は無いだろ。放置してれば効果が切れる薬だってのだけ分かってれば、証拠として見つけるのに時間が大敵だってのだけは分かる」


 と、マコトは否定的。


「うーん、でもさ、魔法と異界の気配の違いってどこまで詳細に分かるのかも、こっちが理解できてないし」


 できれば教えておいた方が良いのではと、ユカリは肯定的だ。


「不安にさせる可能性もあるし、僕としては今じゃなくてもいいかなって思うけど」


 ツカサとしてはミヤコの状態を見ながら話をしたいと思っているようだ。


 ミヤコは少し考えて口を開く。


「あの……危険な話なら、聞かないでおきたい、です」


 ミヤコの宣言で、どこまで話すのか決まった。 


「じゃあまあ、うんそうだね、魔法はふんわり概念でいいかな」


 つまるところ、話しを聞くのは少なくとも危険を伴う可能性があるという事。

 ミヤコはまた少し眉間に皺を寄せた。


「知っててほしい所だけ話すと……僕たちのこの世界は魔法っていう技術に使うための力が枯渇寸前だから、この世界で魔法を使える人間ってのはごくごく限られた人たちだけ。そしてこの世界は他の世界の魔法を使うための力が加えらえちゃうと、世界の罅が入りやすいってのだけ覚えておいて。異界の流入が問題視される理由の多くも、危険な動植物がって以外に、この魔法の力を持った種類の異界の動植物が流入してくるからなんだ」


 危険な動植物と言えば、水虎や地獄の花の事だろう。しかし有用な存在や無害な存在もあるのだという事も分かっている。

 クロスノックスの穴燕は有益な異界の流入物だ。


「あ……人間」


 ミヤコはふっと思った。自分は異界の人間の血をひいているから、人とは違った容姿で、人よりも扱いにくい五感を持っている。つまり過去に異界の人間がこの世界に来ているのは間違いない。

 ならば、異界の人間は大丈夫なのだろうか?

 存在するだけで世界を脅かすようになったりはしないのだろうか。


 ミヤコのつぶやきを拾い、ユカリが説明を引き継ぐ。


「ヨモツヘグイっていうの知ってる?」


 聞いたことがあるとミヤコは頷き、それを見てユカリは続ける。


「黄泉の国の食べ物を食べたら、生者の世界に戻れなくなるっていう話の類型ね。食べ物には力があって、それを取り込むことでその力を得る。それのリスクバージョンってだけで、実際は食べるってことはメリットも多いんだよ。物質がその形に作られるのに使われたエネルギーを、食べることで取り出して使う事が出来るようになる。世界に準じた存在になる。それがヨモツヘグイって呼称される現象。ただヨモツ、黄泉の国は不可逆の世界の象徴でもあるから、食べたら返ってこれないっていう話になってるだけ」


 ミヤコは小学校で読んだ本を思い出す。黄泉に渡った人は返ってこられない、それは日本の神話はもちろん、エジプトやメソポタミヤ、ギリシャ神話でもあった話だ。

 冥府に渡った物は冥府の主に握らせておくべきだ、そう啖呵を切ったのはどの神話の登場人物だったか。

 しかしその神話では世界が滅びた後、冥府に行ったはずの神が生者の世界に戻ってきていた。


「……中には帰ってくる人間もいるのにね?」


「……ツカサさん?」


 ミヤコが考えていたことと、ツカサのつぶやきが重なり、ミヤコは思わずツカサの顔を覗き込む。

 ほんの一瞬何かを嘲笑するような、歪んだ口元をしていた。

 死者がよみがえることに、まるで納得がいっていないかのように、ツカサは吐き捨てていた。


 ミヤコと視線が合うと、ツカサは悪びれる様子も無く、綺麗な作り笑いを浮かべる。


「ああごめんごめん、これも君には聞かせちゃいけない話だった……バレたらサトルに怒られる」


 ふふっと笑って誤魔化すツカサ。

 これ以上は追及しても分かりやすい作り笑いで何も答えてくれないことをミヤコは知っている。


「話を戻そうか。ヨモツヘグイの要領で、この世界の物を食べ続ければ、人間は普通にこっちの世界に順応するんだよ。ただし、こっちの世界で異能を使い続けるためには、こっちの世界の食べ物を大量に食べなきゃいけなくなっちゃうんだよね」


 だから異能を使える人間には大食いが多いのだとツカサは言う。


「エンゲル係数が生活費の半分占めるくらいならって、異能を使わない人の方が多いんだけどねえ」


 それはそうだろうなとミヤコは納得する。

 熊本に来るまで一日一食で過ごすこともよくあったミヤコだが、最近はすっかり成人男性の一日に必要な摂取カロリーの何倍も食べている。

 これが異能の代償だとしたら、それは確かに使わない方が生きていくうえで楽なのかもしれない。

本日の更新はここまで。

明日も一回以上の更新を目指します。

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