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115.地獄の花2

東バイパス走って、そこから電車通り迄行って、という道は、きっと熊本県民なら理解できる景色。

 ミヤコは窓の外を見る。

 いつの間にか電車通りに入っていた。

 路面電車の線路は無事復旧しているらしく、ちゃんと電車が走っていた。

 もしかしたら初めてツカサたちに出会った時に行った、あの拠点へと向かっているのかもしれない。


「だとしたら……確認できるかも」


 昨日熊本城の展望フロアから見た景色を思い出し、ミヤコは僅かに眉間に皺を寄せる。


 タブレットを持ったまま小さな声で呟くミヤコ。

 真剣に写真を覚えているのだろうと、ツカサは注意を促す。


「それ撮った時と季節も違えば、栽培されてるんだったら状況も違うと思う。見たままの状態であるとは限らないから、多分異界の気配を探ってもらう事になるかも。もし栽培のノウハウとかできてたら、もっと立派にたくさんの花をつけてるかもしれないし」


「異世界の気配……」


 異界の気配を探すと言えば、こちらもミヤコはすでに実績があった。


「それってあの、カフェとかキッチンカーのアイスとかみたいに、ですか?」


 振り返りつつ借りていたタブレットをユカリに差し出すミヤコ。

 ミ異界の気配を探すと言われて、思い出す事例はその二つ。

 ミヤコの言葉に、ツカサはその通りだと頷く。


「まさしくそう。それなんだよ」


 タブレットを受け取りながらユカリがツカサに続く。


「そうなんだよね。昨日のアイスの中から地獄の花の非加熱の成分が見つかって、そこから生花の存在が分かったんだよ……地獄の花って凄く特殊な条件下で咲いていた植物らしくてね」


 言いながらユカリはもう一度タブレットを操作し、それをミヤコに差し出す。

 ミヤコはユカリからタブレットを受け取って画面を見る。

 そこには先ほどの地獄の花とそっくりだが、先ほどの物よりも赤黒くなった花があった。まるで形の違うチョコレートコスモスのようだ。

 室内で栽培されているのか、背景が完全に人工物で、深めのプラスチックの植木鉢に植わっている。

 細かい茎や葉の形状までよく似ているので、同じ種類の植物だというのは分かるが、なぜこんなにも色が違うのか。


 ミヤコの疑問を察してツカサが答える。


「それね、花が咲き始める時期の地獄の花。そこから薄い色になると種を作り始めるんだけど、ちょうど今くらいの時期の地獄の花はかなり濃い色でね……色の濃い状態の地獄の花は周辺の魔力を吸い上げて、それを根に蓄えるんだって。その根に蓄えた魔力を使って、種子を作れる花に変える。色の薄い花は受粉が出来ますよっていう状態の花らしいんだ。濃い色だと花芯部分で紫外線や熱を吸収してるんだけど、薄くなると逆に反射してるのが分かってる。ちょっとタブレット画面左に動かして」


 ツカサに言われた通り、ミヤコが画面をスクロールさせると、そこには四枚の写真を一枚に合成した画像があった。

 全て同じアングルで撮られた同じ地獄の花で、色の濃い物と薄い物の通常の撮影が二枚、やはり色の濃い物と薄い物の紫外線カメラで撮られたものが二枚。

 比較してみれば面白いほどに違いが分かった。

 紫外線を吸収している時はほぼ真っ黒に写り、反射すると白く写っている。わざわざ横に紫外線吸収素材と書かれたプレートを置いて、比較検討した時の状態が分かりやすくされている。


 ユカリが後部座席からミヤコに向かって手を伸ばす。ミヤコはその手に再びタブレットを受け渡す。


 ユカリはタブレットを受け取り、ミヤコと同じように紫外線カメラの画像を見ながら、ツカサの説明の続きを引き継ぐ。


「紫外線を吸収する理由なんだけど、この地獄の花はこの世界では魔力の代りに真夏の強い日射が無いと地下茎の肥大化が見られなかったらしいんだよね。エネルギーとして、熱と紫外線が必要っぽいんだけど、魔女の家系の人が直接魔力を渡しても薄い色の状態になったから、魔力が重要なのは確定なんだけどね。まあ加工されるのは色の濃い状態の花だね」


 実験をしたのはクロスノックス。ミヤコが見せられた写真の全てに透かしのクロスノックスのロゴが入っていた。

 子会社という態であるクロノスにも情報が共有されているようだ。


 クロスノックスは異界専門の人材派遣会社のはずなのに、何故そういった異界からの流入物の調査や実験もしているのか、ミヤコとしては気になったが、それは後でも聞ける話だと、今はツカサとユカリの話に集中する。


 ユカリはタブレットの画面を一度消して鞄にしまい込む。

 気が付けばいつの間にか、ミヤコが初めてツカサたちと会った日に連れられて行ったマンションの駐車場に入る所だった。


 慣れた様子でマコトが駐車し、ミヤコたちは車から降りる。

 以前のようにマンションの一室に連れていかれ、リビングのソファに座るように促される。

 まだ一週間とちょっとしか経っていないのに、ミヤコはやけに懐かしく感じた。

BCCSK豆知識。

ミヤコ君が熊本に来てからこの話までの期間は、ロミオとジュリエットの出会ってから心中するまでの期間よりは長い。

ミヤコ君の年齢はジュリエットと同じ。

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