表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/128

114.地獄の花

「えーッと話がだいぶん逸れたね。実はミヤコ君に探してほしいものがあるんだ」


 話が飛んでしまったのはだいたいがツカサのせいだと思うのだが、熊と相撲の話題にしたのはミヤコの事を慮ってであるというのは分かっていたので、あえてミヤコは指摘しなかった。


 代わりに、自分が力を貸せることは何かを考える。

 自分が分かるのは、異界の気配と、魔法の気配。それと幽霊だ。

 それは見えること以外にも、匂いだったり音だったり温度や風の肌りだったりだ。

 もしかしたら第六感のような物もあるのかもしれないが、ミヤコはそれを言葉に表す方法が分からない。


 だから自分の知っている言葉でツカサに問う。


「探すのは、異界の流入、ですか? また罅が見えるんですか?」


 ミヤコの問いにツカサは少し考えて答える。

 ミヤコがシートベルトに阻まれつつ僅かに振り返って見たツカサの表情は、作ったような笑顔。


「うん、いや……仮称地獄の花っていう異界の植物の流入が確定していてね、それを探したいんだよ。何せどうもそれが県内で生花から加工されて、流通に乗せられてたことが分かってさ」


 仮称の時点で明らかに怪しさ満点。

 ミヤコはゴクリと唾を飲む。

 もしかしたら大麻とか芥子とか見たいなものかもしれない。


 ミヤコは過去に芥子の花を見つけたことがあった。

 最初はアイスランドポピーの珍しい品種なのだと思っていた。小学校に同じ花があったのだ。

 お椀型の花も、薄く光沢のある花びらも、剛毛の生えたガクもよく似ていた。

 妙に紫の濃い中心部分が気になりはしたが、それもきっと花の見栄えをよくしようとした結果の品種だろうとミヤコは思っていた。


 小学校の保健室の教員は、中学校の教員ほどミヤコに対して過保護では無かったが、掃除当番にミヤコを指定して保健室にかくまう時間を延ばすくらいには、ミヤコを心配していた。

 今思えばそれほどミヤコの状態が異常だと分かっていたのだろう。


 その保健室の教諭に見かけた珍しい花の話をした。

 翌日保健室の教諭から、それが芥子という危険な花だという事教えられた。今後同じ物を見かけたら、迷わず先生に教えてくれと、保健室の教諭は強く強くミヤコに言い含めた。

 ちなみに、そのすぐ後大麻も見つけてしまった。その時は芥子の話に興味を持ち、図鑑で芥子と並んで駄目な植物と見た直後だったので、運悪く見つけてしまったのだと思う。


 保健室の教諭は、ミヤコの見えすぎる目の事を、しっかりと中学の保健室の教諭に申し送りをしていたらしい。

 中学の時にも大麻を見つけてしまい、それを伝えたら、やっぱりそういうの分かるんだと驚かれたのだった。


 だから、姿さえ分かれば探し物は得意だ。


 見れば細かい差異が理解できるほど、ミヤコの「目」は優れている。

 葉っぱ一枚とっても、形状はもちろん、葉の厚さ、艶、縁がなめらかか、鋸状になっているか、切込みは入っているか、毛は生えているか、葉の付け根の色に赤みはあるか、葉脈は目立つか、それらを瞬時に見て取れるし、情報として脳が受け止める。

 そのせいで今日は野菜や果物を見過ぎて目を回してしまったが。

 知ってさえいれば探し出せる。


 そこに匂いや異界の気配という情報が加わればより明確に見分けられる自身がミヤコにはあった。


「見た目はこれだよー」


 ユカリが仕事用のタブレットパソコンを、背もたれ越しにミヤコに差し出す。

 ミヤコは一瞬ビクリとするも、ユカリからタブレットを受け取り、映し出されていた画像をまじまじと見つめる。


 それは一見すると何処にでも生える雑草のようにしか見えなかった。

 キク科の植物に似ていた。茎も葉もひょろひょろと細長く、花は花弁が極端に小さく、濃い黄色の花芯の部分だけがこんもりとしている。秋の草らしく、周囲に生えていたススキのような植物と比べると、大分草丈が小さく、ミヤコの膝まであるかないか。

 ミヤコの記憶にある日本の山野に生える植物でよく似たものがあった。

 センダングサの仲間だろう。所謂ひっつき虫と呼ばれる人や動物に引っ付いて拡散させる種を作る。

 花芯部分のこんもりとした形は、間違いなくキク科の植物のそれ。種も同じような形状になると予想が出来た。


 ミヤコはひゅっと息を飲んだ。

 地獄の花という名称を持ち、ツカサたちが危機を感じてミヤコに捜索を頼む理由を一瞬で理解した。

 この花は、秋に種を付けたら、野良や野生の動物に引っ付いて、至る所に拡散する危険性がある。


 まだ種を付ける前の今、急いで見つけて対策を打たねばならない植物だ。


 この地獄の花にどんな作用があるのか、ミヤコは知らない。

 しかしミヤコは芥子も大麻も見つけたことがあるから知っている。

 そこに有ってはいけない植物は、それこそ根こそぎ除去しなくてはいけないのだ。

 根の一片も残すまいと、執拗に掘り返され、その後ビニールシートで日光を遮り養生された土を思い出し、ミヤコは大きく息を吐く。


「必ず、見つけます……」

世の中には図鑑を読むのがライフワークな人間がいるんですよ。

私だ!

大量の情報を一度に頭に入れても半分も覚えないんで、時々読み返してニヨニヨするのが楽しいのです。


本日の更新はここまで。

明日以降も一日一回以上の更新を目指します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ