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113.はっきようよう

はっけよいのこった!

相撲と言えば熊か河童。

河童と言えば、熊本は三船。

三船のがあーっぱ祭り、一度行ってみたいです。

 熊本県の大動脈事東バイパスに車を走らせながら、マコトがちらりとミヤコを見て行った。


「一昨日は大変だったようだな」


 一昨日大変だったことと言えば、蛍日捜索に駆り出されて、思いがけない反撃を食らったことだろう。

 ミヤコは首を横に振る。


「えっと……蛍火の事なら、俺よりも、シオリさんの方が……」


 自分は何もできなかった。大変だったのはシオリだとミヤコは言う。


「だとしてもだ、お前が苦労しなかったわけじゃない」


「そうでしょうか?」


 何もできずにシオリを危険な目に合わせてしまったのに、誰もミヤコを責めない。

 ミヤコが動けなかったことを責める理由が無いと、皆思っているようだ。


 だというのに、自分は水前寺夏祭りの時に、動かなかったアセビたちを責めてしまった。ミヤコは思い出し後悔で俯いてしまう。


 落ち込むミヤコに追い打ちをかけるわけにはいかないと、マコトは話の矛先をツカサに向ける。


「そもそも戦闘要員ほぼ連れずに怪しい物に近付くのが間違いだ」


 話の矛先が自分に向かった時が付き、ツカサはほんの少し身を前のめりにする。


「うん、ごめんなさい。僕一人で十分だと思ったんだよね」


 素直にツカサが謝罪するが、その後に続く言葉にミヤコは驚く。


「妖怪だったら熊と相撲しても勝てるしさあ」


 おどけたようなツカサの物言いに、ミヤコは首をかしげる。


「するんですか?」


 熊出妖怪と言えばクロスノックスの熊の事だろう。

 しかし相撲で勝てるというのは、きっとあの異能を使ってのことだ。

 ミヤコはツカサと出会った初日に、バスと同じくらいに巨大な馬を異能を使って抑え込む様子を見ていた。

 怪力さえあればどうにでもできる、そうツカサが思っていたとしてもおかしくはないだろう。


「たまにね、暴れさせてあげないと悪戯したがるから」


 ツカサは楽しげに言う。

 ツカサは一見すると男とも女ともつかない細く、夕方に伸びる影のような姿形をしている。とてもではないが相撲をするような見た目には見えない。

 ミヤコはツカサが相撲を取る姿が想像できずますます首をかしげる。


「あれはな……活力が有り余ってるんだろうが、他に発散する方法はないのか?」


 マコトもクロスノックスの熊は知っているようで、盛大にため息を吐きながら、バックミラー越しにツカサを睨む。


「俺にも挑みたがるのは止めてくれるよう言え。あいつと言葉交わせるだろツカサ」


「悪意はないし、適宜相手してあげるしかないよ。妖怪ってのはそういう物でしょ」


 マコトはツカサと違って熊との相撲は楽しくないらしい。

 マコトの異能は身体能力の向上。よくある異能だが、マコトの力はそこらの身体能力向上とは段違い、それこそ牛一頭や二頭、二トントラックの一台は軽く持ち上げられるほどだという。

 そんなマコトが嫌がる熊との相撲。もしかしたら自分が想像してる物と違うのだろうかと、ミヤコの疑問は増すばかり。


 妖怪とはそういう物、ツカサはそう言ったが、ミヤコとしては相撲を取りたがる妖怪など河童くらいしか知らない。

 そんなことをミヤコが考えていると、背後からのんきなユカリの声が聞こえた。


「河童とかと同じだよねえ」


「え? 本当にいるんですか河童?」


 思わず尋ねるミヤコに、ユカリはけらけらと笑って答える。


「いるよいるいる。雪女もいるよ。じゃなきゃ小泉八雲の研究がこんな時代まで受け継がれないって」


 確かに小泉八雲は妖怪やら幽霊の話やらを集めた「怪談」という本を発表している。しかしそれが実在するのだとミヤコは思っても見なかった。


 いや、クロスノックスで何度も見た光景を想えば、今まで常識だったことが覆るのは容易だった。

 ミヤコは目を輝かせる。


「河童、ちょっと見てたい、です」


 しかしすぐに首を横に振る。

 妖怪は危険かもしれない。

 クロスノックスの熊や狐は問題無かったが、妖怪だと思って近づいた蛍火はもっと別の危ない存在だった。

 ミヤコは浮かれた自分に反省し、ぎゅうっと唇をかみしめる。


「大丈夫だ、河童は妖怪だから、人間がルール違反をしない限り対処ができる」


 ミヤコの様子に気が付いたマコトがすぐさまフォローを入れ、ユカリもその通りだと笑う。


「そうそう河童は地域性があるけど、基本的にルールさえ守ってれば命が取られることはないよ」


 二人は似たような話をしてミヤコを安心させようとするが、それは逆にミヤコを不安にさせた。


「ルール守らなかったら殺しに来るんだ……」


「あー、うん、まあ、そういう妖怪だからねえ」


「あいつらは川や池に根付いた存在だからな……どうやっても人は死ぬな」


 取り繕えなくなったので、素直に白状するマコトとユカリ。

 ツカサは一人笑う。


「要は長時間川遊びしない、川に行くときは大人と一緒、知らない人からの呼びかけに答えない、さえ守ってればいいんだよ。河童は別名川童っていうだけあって小さいんだ。水前寺公園に現れた水虎とは違って、一般の人間で十分対処できる程度の力しかない。それと、陸上に引きずり出して河童を疲弊させれば、同じくらいの体格でも相撲で勝つことは可能だよ。まあ川遊びなんてできる所は限られてるし、川遊びできる場所は基本的に監視する大人がいることが多いからね。そういうところに行けばいい。河童は現れないかもだけど」


 つまりミヤコが河童を見に行くことは難しいという事だろう。

 ミヤコは安心すると同時に、残念だと肩を落とした。


「ちなみに熊君の相撲は立ち上がりが滅茶苦茶早くて、しかも熊だから姿勢低くても強く素早く動けるし、超難敵です! 張手は控えてくれる心配りもあるよ。あれが仕事現場で使えればっきっと色々役に立つんだろうけどなあ。なかなか思い通りには動いてくれないんだよねえ。子供相手は手加減してくれるから、今度熊君と人試合してみない?」


 マコトもユカリも否定はしないので、どうやら熊との相撲は安全らしい。

 せっかく勧められたのだから、今度相撲をしてみようかなと、ミヤコはひっそり心に決めた。

熊本出身力士をご存じですか?

佐田の海関、正代関、草野関、彼らの活躍を期待したいです。


私は普段あまり相撲は見ないのですが、小兵が物理的にジャイアントキリングする瞬間がものすごく好きです。

ニュースでちらりとその様子が見えたら、思わず動画を探します。

レスリングのような重量で階級分けするスポーツではあまり見ないジャイアントキリング。最高に格好良いです。

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