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112.ミヤコ君と地下鉄が無い件

地下鉄が、地下鉄が無いのです。

熊本には地下鉄が無いのです。

コメダ珈琲も少ないです。

悲しい。


スタバとかドトールは有ります。

 ツバキたちが買い物を済ませ、ミヤコも一緒になって食材を車に積み込んでいる時の事だった。

 ツバキのスマホに着信があり、少し離れて通話をしてたあと、ツバキはミヤコに言った。


「ミヤコ君、ツカサさんから連絡がきたの。今から迎えに行くから力を貸してほしいって。一方的なお願いなんだけど……」


 ツカサからのお願いに、ミヤコは一も二も無く返事をする。


「大丈夫です、行けます」


 ミヤコにとってツカサは今の生活を与えてくれた恩人だ。その恩人が力を貸してくれというのだから、ミヤコに断る理由はない。

 それくらいの勢いでミヤコはふんすと鼻息を荒くする。


 ミヤコは一方的に与えられることに慣れてはいない。

 ただ未成年だからとめいっぱい甘やかされ、与えられ続けると、今までの生活との落差で逆に不安になっていた。

 ことある毎に、その内自分はここを去るから、と言い聞かせていないと、ミヤコの不安は増して行くばかりだった。


 だが、ミヤコがここに居ることで誰かの役に立てるなら、自分がここに居てもいいと言える理由があるのなら、不安は少しだけ軽くなるのだ。


 ミヤコ自身にその自覚はない。しかしミヤコは無意識に、自分に仕事が与えられるのを望んでいた。

 カフェや水前寺夏祭りやキッチンカーでの件で、成功体験を得たことも大きかった。


 もちろん蛍火の事で失敗をしたため、恐怖や反省をする気持ちもあったが、今回は守られるべきはミヤコだけ。シオリがいないのであればきっと大丈夫だと、過信をしていた。


 らんらんと輝くミヤコの目に、ツバキは悔しそうに下唇を噛む。


「危険な事させたくないのに……ごめんねミヤコ君……君にしか頼めなくて」


 ツバキはこの目を知っている。

 ミクが、家の仕事を手伝いたいとねだる時、同じような目をするのだ。

 何もしていない状況をよしとできない。

 何かをして褒められないと、自分がこの場にいていいのだと実感できない。

 そんな子供たちを、ツバキは見て来た。


「少し、こっちに来るまで時間はあるから……もう少しだけ、待ってようか」


「はい」


 ツカサが迎えに来たのは、それから十分ほど経ってからだった。

 ツカサと入れ替わりに、ツバキとコハナは黒江家に帰る事に。


 ミヤコはツカサから、今から異能を使うのだからと事前に間食をすることを勧められて、ゆめタウンの店舗内にあった店で購入したハンバーガーを無理やり食べさせられた。きっと以前ユカリのドーナツに押し負けたことの腹いせだったに違いないとミヤコは思った。


 車に乗り込み、急いでテイクアウトのハンバーガーを食らう。

 運転席にはマコト、助手席にミヤコ。後部座席にはツカサとユカリだ。

 戦闘技能持ちのマコトを連れているのは、きっとツカサも蛍火の事で反省したからだろう。


 ミヤコにとって遠い昔に食べたことのあるハンバーガーは、懐かしいような、知らない味のような、不思議な感覚がした。


 駐車場の車の中でハンバーガーを齧りながら、ツカサが物足りなさそうに言う。


「今度は別のチェーン店行こう。僕柔らかいバンズよりもっとハードタイプのパンの方が好きなんだよね」


「サブウェイ? 熊本県内って今どこにあったっけ? 気が付いたら店舗無くなっててちょっと悲しい」


 サブエイトというと地下鉄なのだが、地下水の関係で熊本には地下鉄を作ることができないと聞いていたので、それではないだろうとミヤコは考える。

 サブウェイはミヤコの知らない話だったが、多分ハンバーガーのチェーン店の事だろうと適当に聞き流し、チーズバーガーに齧りつく。


 ノルマとして、ハンバーガ、チーズバーガー、フィレオフィッシュ、ナゲット、ポテトとドリンクLサイズが購入されている。

 結構な量だが、運転席のマコトはとっくにバーガーを食べきり、ポテトをミヤコに押し付けて、ナゲットをつまんでいた。


 そろそろ食べ終わりそうなマコトを見越して、ツカサが後部座席からウェットティシュを投げる。


「微妙に定着しにくい全国チェーン店ってあるよね」


 サブウェイには心当たりがあるぞと、ウェットティッシュで手を拭いながらマコトが答える。


「今サブウェイがあるのは熊本駅か、光の森か、嘉島のイオンモールじゃなかったか?」


 一人先に食べ終わったマコトが車を発進させる。


 スマホで店舗を探したのだろう、マコトの言うとおりだったとユカリはため息を吐く。


「どこも微妙に遠い! 一番近い熊本駅行きたい……夏目漱石じゃないけど、熊本駅遠くて愚痴りたい。何で南熊本駅の方が中心市街地に近いんだよー」


「じゃあ今度サトルが来るからその時迎えに行って、サブウェイ食べよう」


「あーそれいいね。じゃあサトルちゃんには飛行機じゃなくて新幹線できてもらわなきゃだ」


「ふふふー、きっと地上移動の方が仕事はかどるとか言うねサトル。何で新幹線で仕事するんだろうね」


「まあサトルちゃんだし? サブウェイ楽しみだなあ」


 ノリノリでサブウェイに行く計画を立てる兄妹に、マコトは呆れたように呟く。


「お前ら質より量を取るくせに、そこは拘るんだな」


 ミヤコはひたすらポテトを口に運びながら、他人事として聞き流す。


 しかしツカサとユカリにとっては流せない話だったらしく、後部座席の二人の声が高くなる。


「何? お金があるならもっと高い物食べろとか言っちゃう派? 分かるでしょ? 味だけ気にしてたら量を摂れないんだよ。味と量食べたいなら、チェーン展開してる店でお気に入り探すのがモアベターなの。まあ、それでも足りないとかいざとなったら、それこそ油で練った砂糖食べるくらいの心づもりだからね僕ら。それにマコトは揚げ物買い込んでドカ食いするタイプのくせに、人の事言えないでしょ」


「そうだよマコトちゃん。マコトちゃんだって冷凍のチャーハンにコンビニで買ったフライドチキン乗せてるの知ってるからね。あとエナジードリンク致死量飲むのやめなよ。マコトちゃん私たちよりよっぽど食生活拙いと思うよ! 命張るなら別の所で張りなよ」


 キャンキャンと吼える様に文句を言う二人。

 思った以上に異能持ちの食生活は維持するのが大変なんだなと、改めて食事怖いと身を震わせるミヤコだった。

本日の更新はここまで。

明日以降も一日一回以上の更新を目指します。

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