108.ミヤコ君と井戸2
何が私にそうさせるかって?
多分愛情。
今日は二話の予定でしたが、思った以上に筆が進んだのでたくさん更新。
本丸御殿の下を通す通路は、太い木の梁で支えられた場所だった。
気のせいだろうか、本丸御殿の真下だけ、妙にうすら寒く感じ、ミヤコは肩を震わせる。
たぶん気のせいではない。何かの気配がある。何とも言い難いが、これは幽霊の類の気配だとミヤコは知っている。
ここ何かいるんだなあ。と、ぼんやりミヤコは考える。
寒いだけで恐怖はわかないので、多分悪い存在では無いのだ。
「ここが闇り通路とか闇り御門って呼ばれてる所。お殿様が入内するときに使ったとされる通路だよ。熊本城の特色の一つだね。某有名ソシャゲにも起用された、熊本城の目玉スポット……って言っても、まあこの通り保全のためにバリケードで閉鎖してあるから、遠くから写真撮るだけねえ」
暗がり通路は本丸御殿の下を十字に通っており、向かって左手奥には階段のような物が見えた。
「ちなみにお城の中にも井戸があるよ」
闇り通路から急峻な坂になった通路を上ると、一気に景色が開けた。
向かって左に大きな銀杏の木。銀杏の木の背後には、鈍色に輝く瓦を有した大きな城。
格好良い。ミヤコは素直にそう思った。
青々と茂る銀杏とその背後に聳える城に見惚れるミヤコに、ユカリとミクが意気揚々と告げる。
「あちらは、加藤清正が手ずから植えたという大銀杏! 最近性転換をしたともっぱらの噂!」
「噂!」
「ミクちゃんのお気に入りです!」
「です!」
謎の豆知識を混入してくるユカリに、ミヤコは覆わず眉間を押さえた。
銀杏に雌雄があるというのは以前図鑑で見た覚えがあったが、銀杏が性転換するというのは初めて知った。
確かに珍しいし話のトピックとしては面白いのかもしれないけど、何故それを熊本城初の人間に嬉しそうに話すのだろうか。
たぶんミクが話してほしかったのだろう。目がキラキラしている。
「凄いね」
ミヤコが言うと、ミクは嬉しそうに「すごいね」と返した。
そこにすかさずツツジが一言。
「そしてあちらにも井戸!」
なぜか銀杏の向こう側に井戸がある。
「井戸……」
「ちなみにお城の中にも井戸があります」
「井戸が……」
さらに追加される井戸情報に、ミヤコはどう答えればいいのかわからない。
「帰りに城彩苑に寄るから時間的に見に行けないけど、本当は棒庵坂とかも見てもらいたかったなあ」
「何があるんです?」
まさかまた井戸なのだろうかと思いつつもミヤコは聞いてしまう。
「急峻な坂と井戸だね。たぶん銃くれの井戸はこの棒庵坂の所の井戸だったんじゃないかと言われてる」
「井戸……」
やはり井戸だった。
井戸談議にツバキも参加する。
「二の丸広場にも井戸がいっぱいあるんだよね」
何故かそこにアセビも参戦。
「そういや井戸によく石投げ入れてる子供いるよな」
「やってるやってる」
「あの井戸跡は危険だから上に乗っちゃ駄目って言われてるけど、乗りたがる子供多いんだよねえ」
「あるあるだな」
「あるあるだな」
サツキも頷く。ついでにミクも。
ミヤコは一人、置いて行かれた気分だった。
その他にも色々見たはずなのだが、何故かミヤコの記憶には、性転換した銀杏と大量の井戸が刻まれた。
加藤清正お手植えの大銀杏には、銀杏が天守閣と同じ高さまで成長したら、災厄が起きると言われていたそうで……銀杏が天守閣に届いた時、西南戦争が起き、熊本城は炎上したのだそう。
熊本城は曰たっぷりの素敵なお城です。
本日は愛情たっぷり四本立て。