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102.ツツジと冷たい物を食べたい日

実在する場所。

実在する郷土のお野菜。

架空のイベント。

架空のキッチンカー。


実在するだごまるのスパイスカレー。

美味しいだごまるのスパイスカレー。

食べたいだごまるのスパイスカレー。

 七月二十九日、月曜日。

 気温は三十七度にまで達し、猛暑どころか酷暑日だ。

 今日はサツキもアセビも休みの日だという事で、皆で出かけないかとツツジが言い出した。

 すっかり成人ずみの男兄弟なので、皆で出かけるなんてことは今まで滅多になかった。しかし今はミヤコがいる。


「せっかくだから皆で街中行こう! 中心市街地! お城の見える素敵ビューをミヤコ君に見せたい」


「せっかくだからみんなでまちなか!」


 のぼせもんと妹に評されたツツジは、まさしくのぼせ上ってミヤコを観光案内したいと元気に誘う。

 ミヤコは今日明日と予定が無かったのでもちろん構わないと返し、サツキとアセビはすっかりのぼせ上がってるうかれぽんちを放っておけないと、付いて行く覚悟を決め、のぼせもんのうかれぽんちに追従するミクと、それを保護監督するためにツバキも付いて行くことに。


 出勤してそれを真っ先に聞かされたコハナは、苦笑をしながら楽しんで来いとミヤコたちを送り出した。


「アイス食べに行こう!」


 車のハンドルを取るのはツツジ。

 人数が人数なのでワゴン車で行く。

 以前買い物に連れていかれた時は軽自動車だったなとミヤコは思い出す。

 ミヤコの疑問を察してツツジが説明する。サツキ、ツツジ、アセビ、ツバキがそれぞれ自分用の車を所有しており、いつでもシェアできるようにしているというのだ。ワゴン車はサツキの所有する車だと言う。


 中心市街地は上通、下通を中心にした繁華街他、バスターミナルを併設した大型商業施設、周辺の広場、江戸時代の地図にも描かれる歴史ある公園、史跡等、案内しようと思えばいくらでも案内できる場所があった。

 ツバキ曰く、日本初のスクランブル交差点とか、戦後の闇市から発展した趣ある商店街とか、小泉八雲の旧亭とか、何故か熊本にある柳川とか、そういうニッチ向け観光もできるよ、とのこと。

 しかし今日はツツジが目的のものがあるのだと言って、バスターミナルの傍の駐車場へと車を止めた。

 地下水のせいで地下施設がなかなか作れない熊本では珍しい地下駐車場だ。


 地上に出ると大きな交差点に、路上には路面電車の線路が見えた。

 熊本には地下鉄も作れないので、路面電車が市民の足となっているとツバキはニッチ観光案内をしてくれる。

 電車に乗って行けば熊本駅にも熊本市動植物園にも行けるぞとのこと。

 熊本市動植物園には四不象や金絲猴といった、神話の動物を見る事も出来るのだとか。

 ツバキはかなり意味深ににやりと笑みを浮かべたので、ただの動物では無いのかもしれないとミヤコは思った。


 交差点からバスターミナルを振り返れば、その前方に広がるイベント用の広場に、いくつものキッチンカーが並んでいた。


「ふっふっふっふー、夏だからね、ちょっとしたところですぐイベントをやっててね、ちょっと中心市街地でキッチンカーの祭典をやってたんだ」


 目的のものが何なのか、車の中でツツジは頑なに言わなかったが、ツバキやアセビは気が付いていたのか、やっぱりねという表情。

 サツキはなるほどと頷き、ミクは無言でぴょんぴょんと跳ねる。


「昨日夕方の情報番組で見て、行きたいって言いだしたんだよ」


「真剣に見てたし、誘う相手がいるなら誘いそうだなとは思ってたよ」


「ああ、いいな、キッチンカーの祭典」


 跳ねるミクを抱え上げ、サツキはツツジに問う。


「で、何を買いに行くって?」


「阿蘇の濃厚ジャージー牛乳を使ったアイスクリームのキッチンカーっての最近バズってるらしいんだ」


 そう言ってツツジが掲げたスマホには、リピートが止まらない! 最強ジャージー牛乳アイス、と書かれたSNSの投稿。

 ジャージー牛乳のミルクアイスをベースに、チョコや抹茶のスタンダードフレーバー、柚子やデコポンといったご当地フレーバー等があるらしい。レアフレーバーとして水前寺菜というご当地野菜のフレーバーが登場する時もあるとも書かれていた。


「水前寺菜以外特に目新しい感じ無いのな」


「アイスなんて店行って食べた方がよくないか?」


 アセビとサツキはアイスに興味が無いらしく、あまりいい顔はしていない。


「いいね! 私ジャージー牛乳好き! 水前寺菜ってのも面白そう」


「水前寺菜ってのも面白そう!」


 ツバキとミクはアイスに興味津々のようだ。特にミクは水前寺菜に食いついている。


 アイスに興味ない二人と、アイスの情報だけで盛り上がる二人に、ツツジは苦笑して他にもあるからという。


「いやいや、アイスだけじゃなくて、美味しい物を他にも食べたうえで、アイスを食べたいんだよ。ほらサツキの好きな肉もあるし、アセビの好きな炭水化物もあるから」


 ミヤコも並ぶキッチンカーを見る。水前寺夏祭りでも見たキッチンカーもあれば、見たことの無いキッチンカーもある。

 レモンイエローやロビンズエッグブルーといった、いかにも女子受けを狙ったような車体から、シックなモカブラウン、ディープグリーン、ワインレッドのような車体もあって、見ているだけでも楽しくなる。

 ミヤコはそわそわとツツジに聞いてみる。


「……あの、美味しいカレーのキッチンカー、ありますか?」


 ツツジはミヤコの問いに驚いたように目を見開くと、並んだキッチンカーを見て、ぱあっと顔を輝かせた。


「あるよ!」


 指さす先は木材風の外装のキッチンカー。

 少し意識すればミヤコの鼻にも刺激的な香りが届く。

 どうやらスパイスカレーを売っているようだ。


 目を輝かせるミヤコ。

 サツキとアセビもアイスだけよりもよほど興味を魅かれたようだった。

四不象、金絲猴、見に行けるのは今の内。

動物園内には某一繋ぎの財宝を求める海賊漫画のマスコット、チョッパー君の銅像があります。

四不象の名前もチョッパー君です。

皆チョッパー君に会いに行こう!

もう少し涼しくなったら動植物園はコスモスが見頃ですよ!


水前寺菜は金時草や式部草とも呼ばれるキク科のお野菜です。

個人的な味の感想は……スベリヒユとホウレンソウ混ぜたような味に、シュンギクっぽい苦みと、独特な香り。

個性の光るお野菜です。

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