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100.ミヤコ君と謝罪

 ミヤコを黒江家に送り届けると、ツカサたちはすぐにクロノス社へと帰って行った。

 これからまだ仕事があるらしい。セルフブラック企業勤めをしている人が多いと言っていたが、全くその言葉通りのようだ。


 ミヤコは暗い顔をして黒江家のリビングへと入った。


 時間は八時過ぎ。夕食はすでに終わった匂いがしている。

 ミクとツバキの姿は見えなかったが、サツキ、ツツジ、アセビの三人はリビングでくつろいでいた。


「昨日はすみませんでした」


 お帰りという挨拶が聞こえるよりも先に、ミヤコは三人に向けて頭を下げていた。


 昨晩水前寺夏祭りから帰った後、迂闊だったことをさんざんツカサに叱られたらしいアセビたちが吐き出した鬱憤。

 その言葉をミヤコは言い訳だと思った。臆病風に吹かれて動けなかったことを言い訳で誤魔化しているだけだと。

 だからミヤコは自分は動けたと言った。

 自分は動けたのに、動けなかったアセビたちは何故文句を言うんだと憤った。


 しかし明けて今日、ミヤコは動けなかった。

 見えても理解できなかった。危険を理解してもとっさに体が動かなかった。

 目の前で炎に巻かれるシオリを助けることはできなかった。


 とっさに動けるなんて驕った事を言った自分が、その言葉で動けなかったアセビたちを断罪した自分が、ミヤコは許せなかった。


 だから床に膝を付き正座をして頭を下げた。


「あ、いやミヤコ君が謝る事じゃ」


「でも、偉そうな事言ったし、心配かけたのに謝ってなかったし……目の前で、人が危険な目に合うってあんなに怖い事なのに、そんな怖い事アセビさんやツツジさんに見せちゃったし、俺、凄く駄目なことしたって思って……」


 ミヤコは目からぼたぼたと涙を流して、頭を上げることが出来なかった。


 今朝気まずさから言葉もろくに交わさず送り出したミヤコが、帰って来るなり謝罪して泣き出した姿に、ツツジはもちろんアセビやサツキも慌ててミヤコの傍による。


「土下座なんかすんなすんな。泣きたいならちゃんと顔上げて泣け」


「ミヤコ君何かあった? 浴衣を用意させたことと関係ある?」


「はいティッシュ、やっぱり兄さん達に何かされたんだな?」


 サツキがミヤコを抱えてソファに座らせ、ツツジがその横に座って肩を抱く。反対側の横にはアセビが座り、ぎゅっと膝を寄せてミヤコが逃げないように囲い込んだ。


 三人はミヤコの急な謝罪よりも、その情緒不安定な様子を気にしたようで、謝罪はいらないから、今日突然帰りが遅くなった理由を話せと詰め寄る。


 アセビから受け取った箱ティッシュを膝に抱えて、ミヤコは言いどもる。


「大丈夫、ミヤコ君に昨日言われたことは気にしてないよ。というか、ミヤコ君が人助けしたのは確かだから、それを認めるべきだったと僕らも反省したし」


「俺たちが動かなかったのに文句だけ言うのは違うなってのは思ったから」


 ミヤコが話易くする為だろう、ツツジもアセビも昨日の事は気にするなとミヤコを慰める。


「認める事と危険なことをするなってのは、別立てで話した方がよかったよな。で? 今日は何があったんだ?」


 サツキに再度促され、ミヤコは今日ツカサに連れられて探しに行った蛍火と、それを捕獲するに至った経緯を話した。


 一通り話し終えるまで、三人はミヤコの話を遮ることなく黙っていた。


「シオリさんに突き飛ばされたとき、何で自分の方が危険なのにそんなことをするんだって、自分勝手なのに、分かってるのに怒りたくなって……それで、皆が、俺やツカサさんに怒るの、ちょっとわかった気がして」


 ミヤコは自分が人を助けるために動いたことを後悔はしていなかった。それでも、シオリに庇われるように突き飛ばされて、目の前でシオリが炎に巻かれた姿を見た瞬間、どうしようもない絶望に襲われた。

 自分を助けるために、目の前で人が死んだ。そう思った瞬間、足下が全て崩れ落ちてしまったかのような恐怖と、何故、どうして、そんなことを、と答えのない混乱が頭を占めた。

 シオリを助けようと動く事も出来ず、ツカサがシオリを炎の中から引きずり出すまで呆然としていた。


 無力を嘆く以上に、何もしなかった自分が酷く憎らしく思えた。

 そして……そんな自分をかばおうとしたシオリに対して、八つ当たりのような怒りがわいていた。


 お門違いの感情だ。分かっていてもミヤコは自分の中に生まれた激情を押さえるのが難しかった。

 何で俺なんかを助けようとしたんだ。何でシオリさんが犠牲にならなきゃいけないんだ。

 泣きそうになり、堪えるために無言で通した。


 本当はシオリを心配し声をかけた方がよかったと今なら思う。

 ツカサたちと一緒に幽霊を称賛しておくべきだったと思う。

 しかしミヤコはあの瞬間、ただひたすら自分とシオリに対して腹を立て、泣きそうなのをこらえるばかりだった。

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