9.三毛猫チックな少女シオリさん
部屋の玄関方のインターホンが鳴る。一応かけてあった鍵を開けてユカリがシオリを出迎える。
「はいはーいはい、いらっしゃい。おやつ時だねえ。よかったら食べてく?」
ユカリに招かれ部屋に入ってきたのは、まるで三毛猫のような少女だった。
長い三つ編みは白、赤茶、黒の三色が混じり、大きな吊りあがり気味の目は赤っぽい瞳に金色の光彩が散っている。
表情はミヤコほどではないがあまり動かない性質の様で、無表情に近かったが、それでもびっくりするくらいの美少女だとミヤコは思った。
「お邪魔します。はい、これ頼まれていた着替えです。で、こちらはアイスと焼き菓子です。おやつはたっぷり食べさせなさいって母が持たせてくれたんで、おやつならこっち食べてください」
ミヤコのために服を持って来たと、ユカリに服の入ったランドリーバッグのような物を渡し、ツカサには百円均一などに売ってるような保冷バッグを差し出す。
「あらら、お気遣いありがとうございますってお伝えください。じゃあ東京のお土産あるから、シオリさんも食べてかない?」
「いただきます! あ、それと保護された子なんですけど、私が話を聞くことはできますか?」
「問題ないよー」
再びの誘いに今度は素直にうなずくシオリ。
ツカサは保冷バッグを持ったままリビングへ来ると、シオリをミヤコの隣に座るように案案内する。
シオリは横長のソファのミヤコの横に座ると、あまり表情の読めない顔を向け無表情に自己紹介を始めた。
「こんにちは、初めまして、岩合汐里といいます。今後貴方のサポートをさせていただくこともあると思いますので、お見知りおきを」
淡々と名乗られたのでミヤコも同じように返す。
「……あ、はじめ、まして、太田黒、都、です」
「ため口でいい?」
僅かに表情を和らげ、目元を柔らかく細めるシオリ。表情は薄いが気遣いは感じるので、ミヤコは少し肩の力を抜いた。
「ああ、うん、もちろんいいけど……あの」
なぜ自分に構うのか、そう言いたげな都の視線を受けて、ユカリは無表情のまま答える。
「私昨日から今夏休みなのよ。だからね、将来のために母さんのお仕事手伝って、ミヤコ君の生活のサポートをボランティアですることで受験対策してるの」
「え?」
親の手伝いでミヤコのサポートというのも驚きだが、僅かに笑みの形を作るシオリの口元から、どうやらシオリがその手伝いを望んでやっていることが分かりミヤコは驚く。
夏休みと言ったら、多くの中学生は遊びと宿題とだらけるばかりと思っていたからだ。
しかしシオリはそんなことよりも自分にはやりたいことがあるんだという。
「私が行きたい学校ってね、個々人が異能をコントロールするための基礎から応用まで学べる特別学科が有るんだけど、倍率高いんだよ。異能持ちだったり、異界返りって呼ばれちゃうような容姿の人も多くてね、その分卒業資格以外にもいろいろ資格取れるし、専門的な仕事につきやすいの。ミヤコ君も一緒に目指してみない?」
ツカサもユカリもそうだったが、どうやらシオリもマシンガントーク気味に話す人らしい。
「異能……」
思いがけない誘いにミヤコはすぐには頷けない。ただ、異能をコントロールするという言葉に、ひどく惹かれるものがあった。
ミヤコが悪夢のような災害の後から悩まされてきた、他人よりも鋭敏な五感が、もしかしたら抑えられるかもしれないと思った。
人の声のわずらわしさ、見たくもない物を見てしまう恐怖、鼻につく匂いがどこにいてもある不快感、これらがすべてなくせる可能性があると考えると、ミヤコの心臓は早鐘のようになった。
「すぐに決めなくていいよ。どうせ夏休みいっぱい私は君の話し相手しに来ると思うし。あ、でもここで保護するんじゃないかもか」
ミヤコの様子に気が付いていないのか、シオリはすぐに話を変えてしまう。
「本格的に落ち着く場所が決まったら教えて欲しいな。今日はすぐに使える服だけを持って来たけど……」
シオリが持って来た服を袋から出し一枚一枚確認するユカリへと視線を向けると、ミヤコもつられてそちらへ目を向ける。
真っ黒なTシャツに、今時見ないようなドクロのイラストが入っている。
なかなかに尖った趣味だなあとミヤコはシオリへ視線を向ける。
シオリはその視線に心外だと言わんばかりに顔をしかめた。