2話 宝石ゼリーとレッドラピスラズリ
帰り道の車の中で、僕は洞窟で僕の歌と出会うまでのことを思い出していた。
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梅雨が開け本格的に熱くなり始めてきた7月19日の朝、僕は石屋『翡の丸』の前に車を駐車して、店長が出勤してくるのを待っていた。
翡の丸は、今僕が働いている所で、もうすぐ一ヶ月が経とうとしている。
翡の丸は朝糸市という、海と山に挟まれた街・朝糸市の中心地から、海側へ少し外れた場所にある。
天然石やアクセサリーの販売だけでなく、石の買取や物々交換、さらには石くじなど、ちょっと風変わりなこともやっている。
中でも他の石屋と大きく違うのは、ゼリーを販売していることだ。
『ジェム&ゼリー』通称『宝石ゼリー』はうちの人気商品だ。
近所の洋菓子店がわざわざ、うちのために作ってくれている。
かき氷のシロップで味付けされていて、誰もが食べたことがある、あのあま~いシロップ味になる。
ゼリーの型にもこだわっていて、ブリリアントカットやエメラルドカットなど、本物の宝石を思わせる形がそろっている。
一個100円、最近、物価高騰の煽りが来ているが、値段はずっと変わらずに据え置いてくれている。
店長曰く、
「宝石ゼリーで儲けようとしてないから大丈夫。」
とのことだ。
でも、このゼリーの真骨頂は、ただのスイーツじゃないところだ。そう、物々交換に使えるのだ。
物々交換とは、文字通り、ブツとブツの交換だ。お金ではない。
この場合、交換を提案してくるお客さんは石を持ってくる。
持ってきた石は店長が評価し何と交換するか決める。店に置いてある石や、他のものだったりもする。
一番人気は宝石ゼリー。というのも、この物々交換のメイン顧客は子どもたちだからだ。
ここ朝糸市は、海岸で石が拾える街として有名なのだ。
一番の目玉は『翡翠ひすい』で、翡翠を目当てに全国から多くのハンターが取りにやって来る。
物々交換の最初は地元の子どもたちに石拾いをハマらせたくてできた制度だった。
それに合わせて、きれいな石を拾えたご褒美として、宝石ゼリーが考案され、物々交換の目玉となったのだ。
ちなみに物々交換の評価は厳しい。
店長の審美眼は確かで、本当にお宝になり得る石じゃないと物々交換には応じない。
大きな翡翠を拾った!と大喜びで物々交換を申し込みに来たことあった。「これはキツネ石(偽物)だね」と静かに言ってからゼリーを3個をそっと差し出していた。
まぁ審美眼で評価とは建前で、物々交換を申し込んでくる人の熱意に押されたり、観光客や一見さんに弱く、よく交換に応じている。
そして、先週━━最強のブツがやってきた。
僕はそのとき休みの日で店に居なかったので、次の日の店長のテンションから察するに、
「最高にキレイな『レッドラピスラズリ』が手に入ったぞ~!」
???
レッドラピスラズリって何?赤い瑠璃?青いから瑠璃なんじゃないの?
矛盾してないか?
と疑問に思っていたが、その石を見た瞬間言葉を失った。
「・・・・・・レッドラピスラズリ、だ・・・」
この不透明な深い赤にツヤのある独特の輝き。そして所々に散るように入っている金色のパイライト。
「すごく綺麗です、どうしたんですか?」
「ヤマンバみたいな女に、物々交換で交換してもらったんだよ」
と店長が言った。
めっちゃ失礼じゃないか?
でもこの石なら・・・店長はどんなものと交換したんだろう?
「何と交換したんですか?」
「宝石ゼリー100キロ」
・・・なんか今日は自分の常識が通じない。
「100キロって、どう渡したんですか?」
できるだけ冷静を装って聞いてみた。
「渡してないよ、5キロ、20回払いのローンにしてもらった。」
「なんだそれ! そんなのありなんですか?」
「あっちから要求してきたんだよ、”ゼリー100キロでいいよ”って」
100円の宝石ゼリー1個がだいたい50グラム。
100キロで2000個。ざっくり20万円!
物々交換だからお金に計算したらダメだけど、それで手に入れられたら安いんじゃないか?
「店長が良いならいいですけど・・・」
「旭緋君、悪いけど来週の月曜にゼリーの配達に行ってくれないか?」
「えっ、良いですけど、どこまでですか?」
「実は━━青姫山なんだ・・・」
━━そして青姫山へ・・・




