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1話 出遭いと出逢い

「♪愛が世界を変える〜♪」




 歌が聞こえる。女性の声だ。


 こんな真っ暗な洞窟の奥から声がするなんて、幻聴だろうか?


 反響してエコーように重なっている。


 ここは青姫山にある洞窟。

 ——いや、正直そんなことはもうどうでもよかった。ここが配達先なのは間違いない。問題は、体力のほうだ。もう、疲れた。




 気分値82。これは、僕が自分でつけてるテンションの目安だ。

80を超えると、ハイテンション。つまり今の僕は、躁状態に足を突っ込んでいる。


 幻聴が聞こえてきても、おかしくないってわけだ。


 テンションが振り切れる前に、さっさとこのゼリーを置いて退散しよう。そう思って、洞窟の奥へ、一歩踏み出した。




 外から中に向かって涼しい風が吹いている。洞窟は真っ暗で先が見えなかった。




「♪ラ・リマ・ラマリラ〜♪」




 ——!!!


  この歌……まさか。


  聞き覚えがある。いや、作り覚えがある。

 『ラ・リマ・ラマリラ』。それは、僕が生み出した言葉とメロディだった。


 ラリマーという青い石の名前を呪文風にアレンジして遊んでいた頃があった。この“呪文”に歌詞をつけ、簡単にメロディも作って、歌って録音してたりもしたな。


 そんなものが、なぜ?こんな山奥の、こんな洞窟から女性の声で響いてくる?




 考えられるのは、僕の記憶が、どこかの神さまに盗まれた? それとも、洞窟に棲む精霊がからかってる?

 もしかして僕に幻聴として歌で呼び寄せて食ってしまおうという計画なのかもしれない。




 僕の病気は双極性障害。テンションが急激に上がる躁状態と、気分が地の底まで落ちるうつ状態を繰り返す病気。


 病状が悪化すると、妄想がひどくなり、現実と妄想の区別がつかなくなってくる。


 今回も半ばこんなありもしない妄想を信じようとしていたところだった。




(いや、これはいつもの妄想だ!正気に戻れ旭緋あさひ!)




 妄想を振り切りきった僕は妄想とは別の症状である衝動性にかられ、あることを欲していた。




(一緒にラ・リマ・ラマリラを歌いたい・・・)




「♪愛も世界も変える〜♪」




 僕の記憶では彼女は今2番の出だしを歌っている。




 このまま2番のサビで合流して一緒に歌える。




 僕はこの歌が聞こえる不気味さより、この歌を大切に歌ってくれていることに嬉しさを感じていた。




 だから、一緒に歌いたい——




 僕は考えるよりも先に歌っていた。とびっきり愛を込めて。




「ラ・リマ・ラマリラ~地球に響け~愛の世界がかすかに漂う~!♪」




 わかっていた、こうなることを。


 女性の声は僕が歌い始めた瞬間に途切れ、その後は僕一人で歌った。


歌詞がわからなくなり、歌うのをやめる。




 静まり返る洞窟内。しかし、今は確かに感じる人のいる温もり。


 誰かが歌ってくれた。そして僕も歌った。


『ラ・リマ・ラマリラ』は僕だけの歌ではなかった。


 その事実が素直に嬉しい。




 僕はそれ以上詮索しないようにした。


 確かにゼリーを届けた。それはあの洞窟に誰かが住んでいた証拠。


 今の僕にはそれだけで十分だ。




 気分値66、だいぶ落ち着いてきた。今日はかなり無理をしてしまった。




 時間は17時10分、もうすぐ日が暮れるから早く下山しないと。




 僕は、来た道を引き返し、帰ろうとした。


するとさっきの洞窟からまた歌が聞こえてきた。




「ラ・リマ・ラマリラ~あなたに届け~愛の世界で会えると良いな~!♪」




 僕は驚いた。そしてニヤッと笑った。温かい気持ちになった。




(また遭おうね、いや、また逢おう、か)




 僕は引き返すことはしなかった。戻るときっとまた居なくなるから。


 そういうものなのだろう、と僕は妙に納得した。

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