8 規格外の聖女候補
◇◇◇
「おーいテレサ。元気だったか?」
「あ、カールさん。こんにちは〜」
あれからカールは、ちょくちょく神殿に顔を出すようになった。と言っても、すっかり神殿嫌いになったカールは、礼拝堂には見向きもせず、真っ直ぐ裏庭に向かい、テレサに会いに来るのだが。
カールは買ってきた沢山のパンをテレサに手渡す。
「ほら、焼きたてだから、温かいうちに食べろよ」
「えっ?こんなに沢山いいんですか?」
「ああ。こっちは屋台で適当に買ってきた干し肉にドライフルーツだ。日持ちするものにしといたからな。一杯食べて体力つけろよ」
「えへへ。ありがとうこざいます」
相変わらずろくにご飯を貰えないテレサにとって、カールからの差し入れは大変ありがたいものだった。これで一週間くらいは過ごせそうだなと、ホクホクして受け取る。そんなテレサを見て、カールの胸は痛んだ。
「なぁ、お前、何でこんな扱い受けてるんだ?」
カールの言葉にテレサは首を傾げる。
「ろくに飯も貰えず、朝から晩まで働かされて。騎士団だって見習いにこんな扱いしないぞ。神殿の連中は頭がおかしいんじゃないか?」
まだ幼い子どもを酷使することも信じがたいが、他の聖女候補と比べて、待遇があまりにも違いすぎる。
「えっと、私の能力が低いから……って言われました」
テレサは以前バルタザールに言われた言葉を思い出す。
「私、聖力を使いすぎると、倒れちゃうんです。でも、すぐ倒れちゃうのは私の能力が低いからで、他の聖女候補たちは、倒れたり居眠りしたりしないって」
「他の聖女候補の治療を受けたことが無いから分からないが、本当は皆、テレサみたいに怪我や病気を治す事が出来るのか?」
「多分」
テレサはこくりと頷く。
「そうだったのか。聖女候補の力っていうのは凄まじいものなんだな……むやみやたらに力をひけらかせば大変なことになるから、普段は大して力のないふりをしているのか……」
実際には本当にかすり傷を癒す程度なのだが、テレサの規格外の力を目の当たりにしたカールは、すっかり聖女候補の聖力は、世間一般で言われているより物凄いものなんだと勘違いしてしまった。
だが、
「私にできるのは、薬草を育てたり、薬を作ったりすることくらいで、他は役立たずみたいです」
しゅんと肩を落としたテレサの言葉に、カールは思わず耳を疑う。
「もしかして……テレサが薬草を育てたり、薬を作ったりしているのか?」
「はい!お前には庭師の才能があるって、神官さまに初めて褒められました!」
嬉しそうに微笑むテレサ。
「ちなみに、他の聖女候補様たちも、薬草を育てたり薬を作ったりしてるのか?」
カールの言葉にテレサは首を横に振る。
「薬草は私一人で育てています。本当はもっと沢山薬を作りたいそうなんですが、庭師さんとか、他の人が育てるとなぜか枯れちゃうみたいで。どうしてかなぁ。調合方法も、他の人には難しいみたいで。その人の体型とか症状に合わせて、ちょっとずつ配合を変えるのが上手く作るコツなんですけど」
カールはこのとんでもない少女が、あの薬をたった一人で作っているという事実に、気が遠くなりそうだった。けれど、規格外の薬の効果は、何か聖力に関係があるのかもしれない。そう思うと目の前のこの少女が、どれだけ特別な存在なのか、あらためて胸に刻む。
「テレサ、薬草作りはテレサにしか出来ない特別なことだろう?お前の薬のお陰で、沢山の人が救われたんだ。お前は立派な聖女候補だ。もっと誇って良いと思うぞ」
初めて立派な聖女候補と言ってもらえたことが、テレサにはとても嬉しかった。
「もっと沢山の薬草を育てて、困ってる人に届けられたらいいなぁ」
張り切って薬草園のお世話を続けるテレサ。キラキラと無意識に聖力を与えて育てられた薬草が、奇跡と言われるほどの効果をもたらしているとは、神殿の誰も――本人ですら、気付いていないのだった。




