7 聖女候補と騎士団員
◇◇◇
「おい!薬を出せ!どうせどこかに隠してるんだろう?」
王都周辺の警備を担当している王国騎士団員のカールは、朝から神殿の事務方に詰め寄っていた。
「残念ながらストックがございません」
「クソっ!一体いつになったら手に入るんだっ!」
神殿の窓口では、カールと同じように薬の入荷待ちをしている、貴族の執事や商会の従業員で溢れていた。
最近神殿で販売されるようになった傷薬や風邪薬は、その効果の高さから瞬く間に人気を集め、今では王族や高位貴族でもなかなか手に入らない代物となってしまった。
最初の方こそ騎士団にも売ってもらえたのだが、今ではけんもほろろの扱いだ。騎士団では、魔獣との戦いによって体調を崩したり、怪我を負ったりする者が後を絶たない。良く効く薬は、どんなに金を積んでも欲しい代物だった。
カールもまた、先の戦いで利き手に傷を負っていた。何とか傷口は塞がったものの、痛みで剣を握ることすらできない。せめてこの痛みが少しでもマシになれば、と思うのだが、どうしようもできない状況に焦りが募っていた。
神殿の裏口で、一人座り込むカール。ズキズキと熱を持って痛む腕をそっと押さえた。そのとき、一人の少女がひょっこりと顔を覗かせた。薄汚れたワンピースに擦り切れた靴。自分で手入れをしているのか、髪の毛はボサボサで前髪はガタガタ。
けれども、日の光を浴びて輝く金色の髪と、神秘的な紫水晶の瞳は、幼いながらも圧倒的な美しさを備えていた。
(ただの下働き……じゃあ無いよな。一体何者だ……)
「あの、そこ、今から洗濯物を干したいのですが」
申し訳なさそうに話し掛けられ、慌てて立ち上がる。
「すまない、邪魔したな……つう……」
急に立ち上がったことで、また傷口がじくりと痛んだ。
「あの、どうされましたか?」
「あ、ああ、悪いな。少し怪我をしていて……」
「怪我ですか……ちょっと見てもいいですか?」
「いや、子どもが見るようなものじゃ……」
「大丈夫です!私、一応聖女候補なので」
カールは少女の言葉にピクリと反応した。
「でも、聖女候補の聖力ってのは、あれだろう?軽い病気や怪我なんかの、痛みを和らげる程度なんだろ?」
それだって、十分凄い能力なのだが。神殿に対する不信感や苛立ちが、カールの心をささくれだたせていた。
「ほら。こんな傷じゃあどうにもならないよな」
生々しいその傷跡は、普通の貴族令嬢であれば失神してしまいそうな代物だ。けれど少女は、恐れもせずしげしげと見つめて、カールの傷の具合を確認している。
「そうですね。どの程度治るかは、私にも正直良く分からないんですけど……」
少女の手が用心深くカールの傷口に触れると、柔らかな光に包まれた。少しずつ、少しずつ、傷口が塞がっていくのをカールは瞬きもせずに見つめていた。
「嘘、だろ……」
怪我など何も無かったかのような腕を見て、カールは思わず呟いた。
「あ、でも、ねむ……」
そのままその少女が倒れてしまったので、慌てて抱き上げる。
少女は無垢な顔ですやすやと眠っていた。
「一体、何者なんだ……どうしたら……」
突然倒れた少女を抱え、途法に暮れるカールだった。




