6 聖女候補と王子様
◇◇◇
それはいつもの昼下がり。礼拝堂でのお勤めを終えたテレサは、大量の洗濯物を抱えて井戸に向かっていた。本来なら下働きの洗濯メイドの仕事なのだが、他の聖女候補達から押し付けられてしまったのだ。
テレサの薬が評判になったことで、王族や高位貴族の間でも、聖女候補のお祈りよりも薬を欲しがる人が増えたのを、面白く思っていないらしい。なんだかんだと、雑用を言い付けられることが増えた気がする。
(お洗濯をするのはいいけれど、急がないと薬を作る時間がなくなっちゃう)
薬を作るのは、今ではテレサの重要な仕事の一つとなっており、数が少なかったり、納期が遅れたりすると、バルタザールにこっぴどく叱られてしまうのだ。
だが、薬草を育てるのも、薬を調合するのもテレサにしかできないため、どうしても一度に作れる量は限られてしまう。
(せめてもう少し、薬作りに集中できる時間が増えると良いんだけどなぁ)
そのとき、礼拝堂の階段近くで、小さな叫び声がした。
「うわっ」
見ると、テレサと同い年くらいの男の子が、転けて膝をすりむいてしまったようだ。気丈にも泣き声を上げていないが、よほど痛かったのだろう。目元が潤んでいるのが見えた。
テレサは洗濯物をひとまず足元に置くと、すぐに男の子の元に駆けつけた。
「大丈夫?」
膝からは血が出ているが、幸い足を捻ったり折ったりはしてなさそうで安心する。
「……君は、誰?」
男の子の問いかけに、テレサはちょっぴり迷って、「えっと、一応聖女候補です」
と答える。
「聖女候補……君が?」
男の子はびっくりした目で見てきたので、多分、下働きのメイドだと思われたのだろう。テレサにとっては、慣れた反応だった。
テレサはえへへっと笑ってごまかすと、男の子の膝にそっと手を当てた。
柔らかな光が傷口を温かく包み込んだ瞬間、嘘のように痛みも傷も消える。
「えっ?凄い……治ってる……」
「そこ、段差になってるから、今度は転ばないように気をつけてね!あ、じゃあ私仕事があるから」
「うん……」
男の子は、慌てて走り去るテレサをぼうっと見守った。
(小さくて可愛い……天使……?)
「ユリウス殿下!ご無事ですか!どこかお怪我は!?」
そのとき、王太子付きの侍従たちが、ユリウスが地面に座り込んでいるのを見つけて、慌てて駆け寄ってくる。
「うん、大丈夫」
ユリウスはすぐに起き上がると、服についた土埃を払う。
「それよりも、お祖母様の薬は買えた?」
「はい。全く神殿のやつらときたら、王族に対しても、薬が欲しければ神殿に直接出向いてこいなどと……無礼にもほどがある!」
侍従は神殿の傲慢な態度に不快感を顕にする。
「でも、手に入れたくても手に入らない人も多いみたいだしね……」
「それはそうですが……」
「聖女候補たちは、僕たちが思うより特別な存在なんだよ、きっと」
これが、ユリウス・アレクシオス。この国の王太子とテレサの初めての出会いだった。




