29 偽物聖女
◇◇◇
「聖女様、並びに神官様、お待ちしておりました!」
特別にしつらえられた王家の馬車に乗り、王宮に迎え入れられた、セシルとバルタザール。二人ともいつも以上に気合いを入れて、美しく飾り立てていた。
王宮に向かう途中でも、多くの民衆が馬車に向かって感謝の言葉を投げかけており、雨が降ったことへの反響の大きさに、ほくそ笑むバルタザールだった。
(ふふ、これで私の大神官への昇進は決まったも同然だな)
「よく来てくれた。礼を言う。早速リリアーヌを見てやってくれるか?」
国王に促されて、リリアーヌの寝室に向かう二人。だが、分厚い包帯で巻かれたリリアーヌの姿を見て、事態の深刻さに顔色を変えた。
「ん、ごほん。で、では、現在のリリアーヌ姫様の容態を教えてもらえますかな」
侍医から詳しい説明を聞く二人。すでに薬草による治療は試みており、その副作用か、毒によるものなのか、目が見えない状態であることが分かる。
「こちらがお持ちいただいた薬草ですね……残念ですが、これらは効果がありませんでした」
フルフルと首を振る侍医。
(クソっ、これほど深刻な状態だとは……適当に毒消し草と傷薬を飲ませようと思っていたのに)
「後は女神様のご加護に縋るほかは……あの、聖力での治療を試みて下さいませんか?」
王妃の懇願にチラリと顔を見合わせる二人。こうなれば、信心が足りないと押し切る他無い。セシルは胸元のペンダントをそっと握りしめる。
そのとき、
「失礼いたします。ただいま、ユリウス殿下がお戻りになりました」
侍従の報告に、国王はこくりと頷く。
「通せ」
侍従がドアを開くと、
「父上、母上、今戻りました」
ユリウスが静かに礼をとる。
「おお、ユリウス。ご苦労だったな。今、神殿から聖女さまも駆け付けて下さったところだ」
ユリウスはセシルとバルタザールに軽く一礼すると、すっと一歩下がったところに控えていた、テレサとカールを紹介する。
「こちらは私がお連れしたテレサ嬢です。たまたま休暇中だった王国騎士団第二部隊のカール隊長も、護衛として来てもらいました。同席してもよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろんだ。テレサ嬢。わざわざローレンス領からお越しいただき感謝する。カール隊長も、休暇中にすまなかったな」
「お初にお目にかかります。テレサ・ローレンスです」
「いえ、勿体ないお言葉です」
テレサとカールがそれぞれ礼をする。
突然現れたテレサの姿にバルタザールは目を見開いた。
(あの小娘がどうしてここに?)
ソワソワと落ち着かない様子のバルタザールを、不審に思うセシル。
しかし、ユリウスは、セシルとバルタザールにチラリと視線を送ると、にっこりと微笑んだ。
「治療のお邪魔をしてしまい申し訳ありませんでした。どうぞ続きをお願いいたします」
そして、テレサとカールと共に、少し離れたソファーに座ってしまう。
(なんなの、あの娘……まぁいいわ。こうなったらさっさと終わらせて帰るわよ)
セシルはペンダントを強く握りしめる。
その瞬間、辺り一面に強力な光が弾けた。
(くっ……これは、魔物撃退用の光魔法!)
ユリウスとカールはすぐに光の正体に気がついた。
「皆!目を固く閉じて床に伏せろ!」
部屋の中で近距離の光魔法を浴びれば、目に深刻なダメージを与えてしまう。
「父上!母上!」
ユリウスは国王と王妃の元に向かい、二人を掻き抱く。
「目がぁぁぁぁ!!!」
近くにいたバルタザールが、光の直撃を受けて床にのた打ち回る。
「え、そんな、なぜ……」
ようやく光が収まった後、床に伏せる人々を見て、呆然と立ち尽くすセシル。
「こんな所で光魔法を発動するとはっ!正気かっ!」
カールが叫んだ。
部屋の惨状を見て、たちまち駆けつけた近衛兵に拘束されるセシルとバルタザール。
「そんな、私、こんなことになるなんて……」
「わ、私の目が……だ、誰か、助けてくれ……」
ユリウスは捕らえられた二人をぎりっと睨みつける。
「治療すると見せかけ、王族に対して魔法攻撃を行うとは。詳しい話は後で聞かせてもらおう。連れて行け!」




