27 元気になぁれ〜
◇◇◇
三人は僅かな休憩を挟んだだけで、夜通し馬を駆けた。そのお陰で、二日目の明け方近くに、王都に辿り着くことができた。
「ちょっと待っててくださいね。薬草園で薬草を摘んできますから。あ、でも、私、もう聖女候補じゃないから、勝手に入ったら怒られるかもしれません……」
しょんぼり肩を落とすテレサ。
「大丈夫だ。俺たち二人が付いていて、お前に文句を言う奴なんていない」
「ああ。何かあったら私が全ての責任を取る」
二人の言葉にホッとするテレサ。
「薬草園は礼拝堂の裏側に作ったんです!どの薬草も、私が一生懸命育てたんですよ。皆、元気かしら……」
どこかウキウキとした様子で薬草園に向かうテレサ。
◇◇◇
「そ、そんな……どうしてこんなことに……」
テレサはすっかり萎れてしまった薬草の姿にショックを受けていた。
「あんなに元気だったのに……ごめんなさい。あなたたちを残して行った私を許して……」
しくしくと泣きながら薬草に話しかけるテレサ。
「テレサ、薬草園は残念だったな。だが、ことは一刻を争う。リリアーヌ姫の治療に必要な薬草はどれだ?急いで買ってくる……ってなんだ!」
カールが再び街に戻って薬草の調達に行こうとしたそのとき、薬草園が眩い光に包まれた。
「これでよしっ!」
先程までの萎れっぷりが、嘘のように生き生きと茂る薬草たち。
「あ、カールさん、これとこれを持っていきます。薬草を保管する袋はありますか?」
「あ、ああ。これに入れるといい」
「おい!ここで何をしている!!!」
そのとき、クワを手に持った数人の男たちが集まってきた。
「あ、庭師のおじさんたち!」
「テレサちゃん!?テレサちゃんじゃないか!やっぱり帰ってきてくれたんだな!」
ワッと再会を喜び合うテレサと庭師の男たち。
「ごめんなさい。帰ってきた訳じゃなくて、必要な薬草があって、ちょっと寄っただけなの」
「そうだったのか。いや、こんなとこ、テレサちゃんは出ていったほうが幸せだもんな。すまないな。一生懸命世話を続けたんだが、オレたちじゃ上手く行かなくて……やっぱりテレサちゃんじゃないと」
肩を落とす庭師の男たちに、テレサは微笑みかける。
「皆さんありがとう。でも大丈夫。ちょっぴり元気が無かっただけで、もう元気になったから」
「ほんとだ……は、ハハッ!良かった!大事な薬草が、このまま枯れちまうかと思った……」
「あ、でも、ホッとしたら、眠くなっちゃった……」
パタリと倒れるテレサを、慣れた手つきでカールが受け止める。スヤァと幸せそうな顔で眠るテレサ。
「ずいぶん疲れてたんだなぁ」
「そう言えば、小さい頃もよく中庭の隅っこで寝てたなぁ」
久し振りに見るテレサの寝顔に、ほのぼのする庭師たち。
その一方でユリウスは、奇跡を目の当たりにして息を呑んでいた。
(枯れかけた薬草が、一瞬で元気に……こんなことが……)
テレサの想像以上の力に、震えるユリウス。
(なんて力だ……これなら本当に、リリアーヌは助かるかもしれない……)
けれども、ますます神殿に対する疑惑が深まる。枯れ果てた聖女の薬草園。薬草は、神殿にとっても貴重な収入源のはず。なぜ、こんなになるまで放置していたのか。
(薬草園が枯れたのは、テレサ嬢が、王都を離れたから……?そもそも、王都で異変が始まったのはいつからだ?)
パズルのピースが合わさるように、全てが噛み合ってゆく。
(王都に災いが起こったのは、聖女がいなくなったから。王都から、聖女を追放したから?)
ユリウスの背中を冷たい汗が伝う。
先程感じた、眩いほどの奇跡の光。けれどもその力は、薬草園だけではなく、辺り一面の生きとし生けるものすべてに与えられた奇跡であることを、ユリウスはまだ、知らなかった。




