26 聖女、王都に向かう
◇◇◇
「……実は、リリアーヌが蛇型の魔物に咬まれて、一命は取り留めたんだが、目が……」
「っ!リリアーヌ姫様が!」
「侍医に今の医学では打つ手はないが、以前、素晴らしい治療を行なっていたテレサ嬢ならもしかしたら、と言われて、藁をも掴む思いでここまで来たんだ……」
「そう、だったんですね。他の聖女たちはどうしたんです?」
「なぜか皆、聖力を失ってしまったらしい。一人しかいない聖女のセシル様には、女神に祈るのが忙しいからと神殿側から断られてしまって」
カールはユリウスの話を聞いて思案する。カールは正直、ほかの聖女の能力に対して疑いを持っていた。これまで聖女として活動していたのはテレサ一人で、他の聖女が聖力を使っているところなど見たこともない。
騎士団の慰問や討伐の付き添いも、全てテレサに押し付けて、偉そうにふんぞり返っていただけだ。
セシルとか言う聖女に至っては、見たことも聞いたこともない。そんな娘が、なぜいきなり聖女になったのかも分からない。レオンが怒るのも、無理のないことだ。けれど……
「レオン、リリアーヌ姫様はまだ十二歳になったばかりの幼い姫様だ。何度かお会いしたことがあるが、ちっとも奢った所のない、心根の優しい姫様だ」
「……それが、どうしたっていうのさ」
「見捨てて、後悔はしないか?」
「そんなの!姉さまに関係ないだろ!姉さま!王都になんて行くことないからね!……あれ?姉さまは……」
「準備できました!さぁ!急ぎましょう!」
ズタボロの靴につぎはぎだらけのワンピース。急いで切ったのか、ようやく伸ばしかけた髪がガタガタに切りそろえられている。手には、王都から持って帰ったトランクを一つだけ下げて。
ユリウスは、その姿を見て呆然とした。
「あの、その格好は……」
「これが聖女……聖女候補の正装です!いくつか薬草を持っていきたいので、神殿に寄っていただけますか?」
「あ、ああ。もちろんそれは構わないが……」
ユリウスはレオンを振り返る。
「……姉は、こういう人なんです」
プイッと顔を背けるレオン。
「レオン、行ってくるわね。お母さまのこと、頼んだわ」
「用が済んだら、絶対に帰ってきてよね……」
「分かってるわ。ここが私の家だもの。まだ、お洗濯も残ってるし、薪割りもしておきたかったのに……」
「お嬢様!お洗濯は私にお任せください!」
「そお?アン、頼んだわね」
「薪割りは俺たちがやっておきます!」
「まぁ、騎士団の皆様、ありがとうございます」
「お前たちはここに残って、ローレンス領で引き続き魔物の討伐を行ってくれ。俺は殿下とテレサの護衛として、一緒に王都に戻る」
「「「はいっ!」」」
「あ、あの、テレサ嬢のために、王家から馬車を手配してるんだが」
「馬車ですか?でも馬に乗ったほうが早く着くんじゃありませんか?」
「いや、聖女様を馬に乗せるわけには……」
「大丈夫です!私、聖女じゃありませんから!」
ひらりと繋いであった馬に飛び乗ると、
「王都までお願いね」
と囁くテレサ。
馬は勢いよく駆け出した。
慌ててテレサの後を追う二人。
「ほんと、馬鹿でお人好しなんだから……」
三人が嵐のように走り去った後、ポツリと呟くレオン。
「でも、お嬢様らしいです」
「そんなの、俺だって知ってるよ」
「坊ちゃまも、王太子殿下にビシッと言ってやったの、かっこよかったですよ!」
「うるさいな!もう黙ってよ!」
「坊ちゃまの勇姿を皆に教えなきゃ〜」
「……絶対にやめてよね?」
真顔で固まるレオン。
テレサを心から慕う者たちが集まるローレンス領に、女神の煌めきは残されたままだった。




