24 三枚の金貨
◇◇◇
リリアーヌを助けるため、疾風のように馬を駆けるユリウス。だが、ローレンス領に近づくにつれ、ある異変に気付く。
「これは、一体……」
澄んだ空気に、柔らかな日差し。土の香りに、草の匂い。大地には豊かに作物が実り、人々が明るく笑い合っている。忙しそうに収穫に励む人々。小さな市場には沢山の肉や魚が売られており、活気があった。
(ローレンス領はここ数年ずっと不作が続いていて、徴税の免除を願い出ていたはずだが……)
不審に思うユリウス。
「旅のお方、新鮮な果物はいかがですか?試しにお一つどうぞ」
差し出された林檎の甘く爽やかな香りが鼻腔をくすぐり、思わず頬張ると瑞々しい甘さに思わず目を見開いた。
「こんなに甘い林檎は初めてだ……」
ユリウスの言葉に果物売りのおばさんがにっこり笑う。
「そうでしょうそうでしょう。何しろその林檎は特別な林檎ですからね。ほとんど枯れていた木を、天使様直々にお祈りして元気にしてくださったんですから。お陰様でほら!こんなに豊作ですよ!今日は嬉しくって、特別に皆さんにも配ってるところなんです。幸せのおすそ分けってやつですね」
「天使様……もしかして、テレサ・ローレンス嬢のことですか!?」
「あら、お嬢様をご存知で?最近神殿から戻られたんですけど、聖女様になれなかったとかで。だから私たちは天使様ってお呼びしてるんですよ。全く、王都の住民や神殿の目は節穴だわ。あんな天使みたいな御方を追い出すなんてねぇ……いつかきっと、女神様の罰が当たるわ」
「聖女になれなかった……?テレサ嬢は自ら聖女を辞退して領地に戻ったとお聞きしたが……」
「馬鹿言ってんじゃないよ。十年も体よくこき使われて、聖女になる前に追い出されたって話だよ。わたしゃ見たんだ。ボロボロの雑巾みたいな服着て帰ってきたお嬢様を。まったく、酷いもんさ」
途端に怒り出すおばさんの剣幕に、たじたじのユリウス。
(聖女にならなかったのではなく、なれなかった?神殿がテレサ嬢を追い出した……)
だとしたら、テレサ嬢は神殿や王都の民に対して激しい怒りや、憎しみの感情を持っていてもおかしくない……。それは王族とて同じこと。いや、聖女を保護すべき王族こそ、最も罪が重いのではないか。
そこまで思い至ったユリウスは、まずはこの真相を突き止めなくては。リリアーヌの話はそれからだと思い直す。
(もしも、テレサ嬢がそれほどまでに不当な扱いを受けていたのだとしたら……私たちの罪の重さは、計り知れないものになる。女神がお怒りになるのも、無理からぬこと……)
「行こう。ローレンス家に!」
真実をこの手で明らかにするために。
◇◇◇
「お帰りください。姉に会わせることはできません」
ローレンス家の門前で、けんもほろろに門前払いを食らうユリウス。
「そこをなんとか!話だけでも!」
正直、今まで生きてきて、こんな扱いを受けたのは初めてだった。王族を門前払いする貴族など聞いたこともない。しかし、絶対にここは通さないというレオンの態度に、いっそうテレサ嬢に対する噂が真実味を帯びてくる。
「話?今更何の話ですか?退職金が多すぎました?お返ししますよ」
レオンは持っていた金貨三枚をユリウスの前に投げ付けた。
「これは……」
「神殿が、姉の十年間に対する退職金としてよこした報酬です。どうぞそちらをもってお帰りください」
投げつけられた金貨を呆然と見つめるユリウス。
一方で、アンはレオンの暴挙をハラハラと見つめていた。
(ぼ、坊ちゃまぁぁぁ!!!王族にそんな事したら、不敬罪で処刑されますぅぅぅぅ!!!は、はやく、お嬢様をお連れしなければ!!!)
今日も領民たちの畑仕事を手伝っているテレサの所に、ダッシュで向かうアン。
(ど、どうか、私が戻るまで坊ちゃまの首が繋がっていますように……!!!)




