19 王都の混乱
◇◇◇
ローレンス領が、かつて無いほどの好景気に沸いているころ、王都では問題が次々と起こっていた。
最初は些細なことだった。ある日突然、雨が降りにくくなったのだ。最初は天気の良さに喜んでいた民衆たち。けれども、一週間、二週間と続くうち、さすがにおかしいと感じるようになってきた。
やがて、萎びて枯れ始める作物。大地は力を失い、ひび割れたまま。明らかな不漁に、家畜に蔓延する原因不明の疫病。
そして、王都周辺にまで現れるようになった、魔獣の跋扈。
人々の顔が焦燥から絶望に変わっていく中、民衆たちは神殿に縋り付いた。
「女神に祈りを捧げてくれ!」
「女神の恵みをどうか!」
「聖女様!どうか我々をお救いください……」
連日神殿に押し寄せる民衆たち。
◇◇◇
「笑いが止まらないとはこのことだな」
民衆の不安もどこ吹く風。バルタザールは山のように積まれた金貨を前に、一人ほくそ笑んでいた。
天災人災が起きるほど、人々は神に縋りたくなるもの。何もしなくとも、神殿に寄付が集まり、神官たちの懐は潤う。
「馬鹿な民衆共め。女神に祈れだと?そんなもの、見たこともないわ」
天災は神の意思などではない。単なる自然現象だ。雨だってそのうち嫌というほど降るだろうし、例年類を見ない不作の年だってある。
そのとき大切なのは、日頃の備えなのだ。幸い神殿の食糧庫には食べきれないほどの食糧が貯蔵されているし、資金も潤沢だ。王都で食糧が不足するのなら、地方から送らせればいいだけの話だ。
バルタザールの懐はちっとも痛まない。それどころか、この災害は、神殿の地位を高めることに一役も二役もかっている。
「これが本当に女神の怒りならば、女神様々だな。ハハハハハ!!!」
けれども、神殿として何もしない訳には行かない。民衆の矛先が神殿に向かわないよう、パフォーマンスをする必要がある。
「面倒だが、せいぜい聖女様がたに活躍していただかなければな……おい、雨乞いの儀式をすると聖女たちに伝えろ」
こうして、神殿では聖女たちを集め、大々的に雨乞いの儀式を行うこととなった。
(雨が降ろうと降るまいと関係ない。ようは、やってる感じを出しておけばいいのだ。いつ降るかなんて明言しなければいいだけの話だからな)
◇◇◇
神殿からの報せで、王族代表として雨乞いの儀式に参加することになったユリウス。
ユリウスが神殿の前に到着すると、すでに神殿前は女神に祈りを捧げる民衆で溢れていた。
王都の現状は王家や貴族の間でもすでに問題視されており、このまま被害が拡大すれば国力の低下さえ招きかねない深刻な状態だった。
(建国以来、王都は女神の加護によって守られていた……ここまで深刻な被害を受けることは無かったはずなのに。一体王都に何が……)
女神に愛された娘たちを厳重に保護し、大切にすることで、女神のご機嫌を損ねないようにすること。それが王家としての務め。そんな冗談が伝わるほどに、王家は神殿を、聖女の存在を重視してきた。
実際、ここ十年の間、王都では疫病も流行らず、天候は安定して人々は平和に暮らしていたのだ。
ここ最近の王都は、明らかに異常だった。肌で感じるほどの、大気の淀み。まるで、女神からそっぽを向かれているような……。
(まさかな……)
ユリウスは静かに首を振る。
今は、王族として、民の安寧のために真摯に祈らなければ。そして、次に、王太子として、この状況を打開するために食糧の確保や、病の原因究明に動かなければ。問題は山積みだった。
まさか本当に、女神がご機嫌を損ねているなんて気付かずに。




