15 王国騎士団第二部隊の快進撃
◇◇◇
テレサがせっせとイザベルの看病に勤しんでる間、カール率いる王国騎士団第二部隊は、ローレンス領で未曾有の大活躍を見せていた。
「マーク!そっちに行ったぞ!」
「クラウス!援護射撃を頼む!」
弓、銃、剣、それぞれの得物で、疾風のごとく駆け回り、次々と魔獣を退治していく隊員たち。連携は完璧だった。合図ひとつで陣形が変わり、逃げ道を塞がれた魔獣は、抵抗する間もなく倒れていく。
「……ダークベア相手に、こんなにあっけなく勝利するとはな……」
まだ若い隊員たちの異常なまでの活躍ぶりに、レオンは思わず唸った。
隊員たちにとって、ダークベアはこれまで何度も討伐してきた魔獣だ。けれど、決して侮っていい相手ではない。被害が出るのは当たり前で、ある程度の犠牲も覚悟していた。
それが今は――
地面に横たわるダークベアの亡骸と、息ひとつ乱していない隊員たち。
「次、行けますよね隊長?」
「ああ。まだ余裕がある」
カールは剣を軽く振り、血を払う。隊員だけではない。一刀のもとに楽々と首をはねることができたこの力も、明らかに切れ味の増した……むしろなんだか常に魔力を纏ってるように見える剣も。
――明らかにおかしい。体は疲労を感じるどころか、滾るように力が溢れている。普段は、討伐後は休みましょうよ〜とか、鬼!とか言ってくる隊員達が、休憩も無しに生き生きしているのがいい証拠だ。
「いやぁ〜、俺、かつて無いほど調子がいいっす。こう、いつもより身体が軽い感じで」
「俺も。斬撃の威力が増してる気がするわ。今ならワイバーンでも倒せそうな勢いだよな」
「もしかして、ローレンス領内にパワースポットがあるとか?」
ワイワイと軽口を叩く隊員たちの声を聞いて、カールはふと思う。確かに、ローレンス領内ではすこぶる体調がいい。でも、明らかに変化があったのは、それよりも前。テレサと一緒に旅をしてからだ。
カールはポリポリと頭を掻いた。やはりあの娘は只者ではない。
「確かに、とびっきりのパワースポットだな」
カールの言葉に隊員たちが勢いを増す。
「ですよね〜!」
「なんか、空気もいいですしね!」
「さ、んじゃ、次行くか。テレサが今日は、領民から貰った美味い肉焼いてくれるってよ」
「「「おおおおお!!!!」」」
◇◇◇
その頃王都では、新たなる聖女誕生に国中がお祝いムードに包まれていた。
由緒ある公爵家、アルヴェーン家の令嬢、セシル・アルヴェーン。
雪のように白く、傷一つ無い美しい肌。ゆるやかなウェーブを描くプラチナブロンドの髪。そして、慈愛に満ちた澄んだ水色の瞳。
華奢で清楚な身体に、金糸銀糸で丁寧に刺繍された聖女の衣装を纏ったその姿は、どこからどう見ても完璧な聖女の姿だった。
「なんてお美しい。あの方が新しく聖女になられた方……」
「ああ、セシル様!聖女様万歳!」
「私たちをお守りください!」
民衆の大歓声にセシルはにっこりと微笑みで返す。
そのとき、一人の少女が、大神殿の階段を上り、そっと小さな花束を差し出した。
「あの、このお花、聖女様に差し上げます……」
野原のあちこちから集めて来たのだろう。名もない野の花で作られた花束に、傷だらけの小さな手。
セシルは、一瞬ぴくりと眉を動かすと、静かに微笑んで花束を受け取る。
「ありがとう。あなたに女神の祝福がありますように」
「「「わぁぁぁぁ!!!聖女様〜〜〜!!!」」」
セシルの言葉に民衆はますます沸き立った。
◇◇◇
神殿に入るなり、手袋ごと花束を投げ捨てるセシル。花弁が床に散り、踏みつけられてぐしゃりと音を立てた。
「ちょっと!どういうことなの!?警備は何をしてるの!あんな汚い娘をこのわたくしに近づけるなんて!」
セシルの怒号にお付きの神官たちがペコペコと頭を下げる。
「お許し下さい!突然のことで対応できず……」
「この無能!!!手袋が汚れたわ!ああ、汚らわしい。このわたくしに雑草なんて。突き落としてやろうかと思ったわ。その手袋は捨てておいて。すぐに新しいものを用意してちょうだい」
イライラと爪を噛むセシル。
「今度こんなことがあれば、お前たち全員クビよ!覚悟するのね!」
そう言い捨てると、お揃いの白い衣装を身に纏った侍女たちと共に、新しく建てられた聖女宮へと帰っていく。
残された神官たちは、溜息をつきながら、花束を手袋ごと、ゴミ箱に放り投げた。




