13 母との再会
◇◇◇
「あ、あの、レオン、お母さまは?」
テレサは、レオンとの間に何となくぎこちない空気を感じつつ、本当なら一番に顔を見せてくれそうな母、イザベルの姿が見えないのが気になった。
「……母様は寝室だよ。ここ最近体調が悪くて起き上がれないんだ」
テレサと目を合わせずに、小さく呟くように告げるレオン。
もしも姉に、聖女の力がそれなりにあるのなら、母の病状も回復できたかもしれない。けれど、七歳の頃から神殿にいたくせに、聖女になれなかったのだ。よほど聖力が低かったのだろう。治療なんて頼んだら、お互いに気まずいだけ。──レオンはそう、思っていたのだが。
「お母さまが!なぜ早く言ってくれないの!すぐに治療するわ!」
言うなりテレサは、イザベルの寝室に駆け出した。
「まぁ、姉さまの顔を見るだけでも、母様は喜ぶだろうけど……」
若干呆れつつ、ようやく少し表情を綻ばせたレオンを見て、騎士団の隊員たちもホッと胸を撫で下ろす。姉弟の間に、というかレオンにだけなんだか確執があるみたいなのだが、テレサが落ち込むのは正直見ていられなかった。
「あ、騎士団の皆様。お客様を放って置いて申し訳ありませんでした。姉が、本当にお世話になりました。すぐに皆さんのお部屋をご用意致しますので、ぜひ、暫く滞在してゆっくりしていってください」
レオンの言葉に、顔を見合わせる騎士団の隊員たち。渡りに船とばかりにこくりと頷きあう。
「ああ。お言葉に甘えてしばらく滞在させていただこう。せっかくなので、我々が滞在している間、領地周辺の魔獣を討伐しようと思うが、どうだろう?」
カールの言葉に、驚くレオン。
「え、良いんですか?皆さん、休暇中なのでは……」
王国騎士団の中でも第5部隊までは、主に王都周辺を守る精鋭揃いのため、こんな田舎にまで遠征して来ることは滅多にない。ここ近年、魔獣の被害に頭を悩ませていたレオンにとっては、正直ありがたい申し出だった。
「もちろんだ。そのために我らは騎士をしているのだから」
「任せて下さい!」
「なんなら今日からでもいいですよ!」
旅の疲れなど全くないかのような頼もしい言葉に、さすが日頃から体を鍛えている騎士たちは違うな、とひたすら感心するレオン。
「本当に、なんとお礼を言っていいか。領民たちも喜びます。ありがとうございます」
レオンは最大限の感謝の気持ちと敬意を込めて、深々と頭を下げた。
まあ実際は、テレサの回復魔法と手料理のバフ効果によっていつも以上に力が有り余っているだけなのだが。隊員たちですら、そのことには気が付かないのだった。
◇◇◇
テレサは扉に手をかけて、一度だけ大きく息を吸った。ノックをするが、返事はない。音を立てないように注意しながら、そっと扉を開くと、ベッドの上に、静かに横たわる母の姿があった。
「お母さま……」
テレサは久し振りに会う母、イザベルの姿に戸惑っていた。
パサついた艶のない髪に、血の気の失せた顔色。痩せた頬。カサついてひび割れた唇。骨の浮き上がった手をそっと握る。呼吸は浅く、時折苦しそうに眉根を寄せている様子が痛々しかった。
イザベルはまだ三十五歳。記憶に残る母は、いつも誰よりも美しかった。しかし、今の姿は、十歳以上も老けて見えた。
「お母さま……」
テレサはもう一度そっと呟くと、溢れる涙を堪えきれずに、声もなく、ハラハラと涙を流すのだった。




