12 レオンとの再会
◇◇◇
「わぁ〜!見えて来ました!ローレンス家は、あそこの丘を越えたら、すぐの所です!」
テレサは懐かしい景色に思わず声を上げた。十年ぶりの故郷は、記憶に残る風景よりもどこかくすんで見えて。けれども、あまりの懐かしさに涙が滲んでくる。
ローレンス領は、一面の小麦畑が広がる、穀物の生産地だ。大きな産業はないものの、領民たちは農業や畜産業に従事し、のんびり穏やかに暮らしていたと記憶している。ただ、この時期は小麦の収穫の真っ最中のはずなのに、農作業をしている人がまばらなのが気になった。
「ここがテレサちゃんの住んでた所かぁ」
「何というか……田舎っすね……グエッ」
マークの言葉にカールが無言で拳骨を落とす。
「えへへ。本当に何もないところですけど。農産や畜産が盛んなので、お料理は美味しいですよ!屋敷に母と弟がいるはずです。皆さんぜひ、寄っていって下さい!」
「ああ。テレサには散々世話になったからな。一度ご家族にきちんと礼を言いたいと思っていたんだ」
「お〜、テレサちゃんのお母さんなら、美人だろうなぁ」
「今日は久し振りにベッドで眠れるかな!」
小さな村を抜け、ワイワイと男爵邸に向かう面々。その様子を、領民たちがどこか暗い目で見つめていることには、誰も気が付かなった。
◇◇◇
「テレサ姉様が帰ってきた?」
執事の言葉に怪訝そうな顔で答えるレオン。姉のテレサは僅か七歳で聖女候補に選ばれ、王都の大神殿で暮らしている。十八歳の誕生日に聖女として認定されるまでは、王都から出ることは叶わぬ身だ。
「テレサ姉さまは僕と同じ十七歳だぞ?こんなところにいるわけないだろ」
「あの、それが、王国騎士団の方たちとご一緒でして。テレサ様に間違いないかと……」
「王国騎士団と?……分かった。とりあえず会ってみよう」
レオンは持っていた書類を机の上に置くと、門に向かった。
姉のテレサからは、七歳の頃別れたきり、何の音沙汰も無い。手紙一つ、寄越しては来なかった。一度、母であるイザベルが心労と過労が重なって倒れたとき、藁をもつかむ思いで手紙を書いたことがある。王都で評判の薬草を送ってくれないだろうかと。本当は、ただ、元気でいると、手紙だけでも欲しかったのだ。しかし、何度手紙を送っても、返事は来なかった。
聖女候補として忙しい毎日を送っているのだろう。薬を手に入れるのは、難しいことだったのかもしれない。そうは思っていても、家族として見捨てられたような寂しさを拭いきれなかった。
◇◇◇
「まぁ。レオン?すっかり大きくなって〜」
久し振りの姉との対面に、若干緊張していたレオンは、テレサのあまりに能天気でほにゃっとした顔に拍子抜けする。
「あんたは変わらないな」
「そう?えへへへ」
「で?何で急に帰ってきたのさ。聖女試験はどうしたの?」
レオンの言葉に、テレサは思わず胸を押さえた。
「うっ……それが、そのう……」
「もしかして落第したの!?何やってんのさ!」
「……返す言葉もございません……」
しゅんとするテレサ。レオンはそんな姉の態度に、呆れて言葉も出なかった。
(何だよ……十年間何してたんだよ。ちゃんとやってなかったのかよ……)
複雑な思いが胸をよぎる。母は姉がいなくなってから、すっかり塞ぎ込んで寝込むことが多くなった。元々丈夫な質ではない人だ。些細なことでも熱を出し、年々、身体が弱っていくのをただ黙って見ているしか無かった。
おまけに作物の不作。自然災害や魔物被害がたて続いたせいで、貧しかった領地は輪をかけて貧しくなり、この十年、気が休まることは無かった。
「取り敢えず、急に帰って来られても、何の用意もしてないから。客室を用意するから、しばらくそこにいてくれる?」
「あ、ええ。ごめんなさい……連絡もしなくて」
「ほんとにね。せめて手紙ぐらい欲しかったけど」
突然追い出されたため、手紙を送ることもできず、取り敢えず真っ直ぐに故郷に帰ってきたけれど。レオンのどこか冷たい態度にしょんぼりするテレサ。見かねたカールがテレサの横に立った。
「お初にお目にかかる。王国騎士団第二部隊隊長のカール・エーレンベルクだ」
「隊長……失礼ですが、どうして王国騎士団の方が聖女になりそこなった姉の護衛を?」
カールの名乗りを受けて首を傾げるレオンを見て、カールはふっと優しく笑った。
「これは任務とは関係ない。俺たちが望んで来たんだ。君のお姉さんには、本当に世話になった。俺たちだけじゃない。王国騎士団員は皆、テレサ嬢に返せないほどの恩を感じている」
「そ、そんな!言い過ぎですよ〜」
「いや、俺たちみんな、テレサちゃんには感謝してるよ!」
「そうだよ!騎士団員にとって聖女は君だけだ!」
口々にテレサを褒める騎士団の隊員達。感謝してるのはもちろんだが、なんとかテレサの印象を良くしたいと思ってのことでもあったのだが、
(なんかおっさんたちにやたらモテてるんだけど。……本当に、王都で一体何やってたんだよ)
逆に、ますますテレサを胡乱げに見つめるレオンなのだった。




