82『沈む夕日は朝日に似てる』
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!
82『沈む夕日は朝日に似てる』
今夜は、明日のスタジオ撮りの準備のため黒羽は帰ってこねえ。
あらかじめ分かっていたことだけど美優はとても寂しかったぞ。人生の一日一日がこんなに大事なものだと思ったのは初めてのことみてえだ。
美優は黒羽の下宿部屋になった親父の部屋で一晩過ごしてやがる。ドロシーのお下げを三回叩き『オーバーザレインボー』を繰り返し聞いてやがる。
――三日で、虹の彼方にたどりつかなきゃ――
そう思っているうちに美優は眠りにおちてしまいやがった(^_^;)。
「まあ、こんなところで寝てしまって……」
明け方になって気づいたマダムは、美優の手からドロシーの胸像をそっと取りあげやがる。
「よいしょっと……フフ、何年振りかしら……」
その見かけよりも強い力で美優を抱き上げると、美優の部屋まで連れて行きやがる。
「マダム……」
黒羽の声が聞こえたのは、美優を抱きかかえたまま、どうやって美優の部屋のドアを開けようかと苦心している最中だったぞ。
「ボクが代わります」
黒羽は、ドアを開けてからマダムの手から美優を受け取り、ベッドに寝かしつけやがった。
「……可愛い寝顔だ。むかしのまんまだな」
「黒羽さん。あなたスタジオの方は?」
「あ、会長命令で、もどってきました」
「ミツルクンが?」
「あんまり、わたしが働きすぎると、若い者が育たんと言われました」
「そうね、その気持ちは分かるわ」
「マダムだって、美優ちゃんをそうやって育てているんでしょ。昨日のロケの衣装直しは、美優ちゃん一人に任せていたし」
「……黒羽さん、お疲れのところ悪いんだけど、少しいいかしら」
「え、ええ」
「この店は、わたし一代でおしまい」
「じゃ、美優ちゃんは……」
「東の空が明るくなってきた……この朝とも夜ともつかない時間は、墓場の死人でさえ、起きあがって真実を語る」
「シェ-クスピアですか?」
「わたしよ……シェ-クスピアらしく聞こえたら光栄だわ。こう見えても、若い頃は女優志望だったの。オタクの会長さんが、田中米造の本名でフォークやってたころの大昔」
「そうだったんですか、道理で魅力的な人だと思ってました」
「美優のことは、どう思ってるの?」
「そりゃあ……可愛いくて、チャーミングで、見かけによらず働き者……」
「そんな営業用の言葉じゃなく、本当のところを聞かせて……!」
「マダム……」
「あなたのお父さんのために、かりそめの婚約者をやっているけど……美優は本気よ」
「それは……」
「もし、あなたに、その気がないなら、お父さんには悪いけど、もうおしまいにしてやって」
「マダム……」
「実は……あの子の命は、あと三日とちょっとしかもたないの」
「え……治ったんじゃないんですか( ゜Д゜)!?」
「薬よ……新薬なの。末期のガン患者を、その命の灯が消えるまで元気でいさせてくれる。だから、その瞬間まで、あの子の好きなようにやらせようって決心したの。好きなところに行って好きなことやりなさいって、わたしのゴールドカード渡してある。でも、あの子は、病院から、ここに戻ってくるタクシー代に使っただけ。あとは自分の貯金。あの子全額下ろしてる。あの子には、あと三日とちょっとが一生の全て。だから、たとえお父さんのためでも、偽りの恋人なら、もう止してあげてちょうだい。あの子は見た目には昇る朝日だけど、もう日没寸前の夕陽なのよ」
昇り始めた朝日に照らされた黒羽は、しばらく言葉もなかったぞ。
マユは、もう少しで二千万個目のガン細胞をやっつけるところだった……。
☆彡 主な登場人物
マユ 人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
里依紗 マユの同級生
沙耶 マユの同級生
知井子 マユの同級生
指原 るり子 マユの同級生 意地悪なタカビー
雅部 利恵 落ちこぼれ天使
デーモン マユの先生
ルシファー 魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
レミ エルフの王女
ミファ レミの次の依頼人 他に、ジョルジュ(友だち) ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
アニマ 異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
白雪姫
赤ずきん
ドロシー
西の魔女 ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)
その他のファンタジーキャラ 狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
黒羽 英二 HIKARIプロのプロデューサー
美優 ローザンヌの娘
光 ミツル ヒカリプロのフィクサー
浅野 拓美 オーディションの受験生
大石 クララ オーディションの受験生
服部 八重 オーディションの受験生
矢藤 絵萌 オーディションの受験生
上杉 オモクロのプロディューサー
片岡先生 マユたちの英語の先生




