81『黒羽Dがんばる!』
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!
81『黒羽Dがんばる!』
黒羽のジジイは分かってやがる。黒羽と美優は、自分を安心させるために見せかけの婚約をしていることをな。
「違います!」
しかし、美優は、はっきり言いやがった。
「違います。わたし、本当に英二さんのこと愛しているんです」
でも、ジジイは、こう返してきやがった。
「……だとしたら、それは錯覚だよ。婚約者の役を引き受けたのは、俺の命が長くない……そう聞いてからだろう。二人を見ていれば分かるよ……二人は、まだ清いままだ」
清いまま……国宝になりそうなくれえ古風な言い回しだけど、核心をついていやがる。
「オヤジになに言われたの?」
ハンドルを握りながら黒羽Dは聞きやがる。
軽い調子だけど、かなり気にしていることが美優にもマユにも分かったぞ。
「ナイショ」
「厳しいこと言ったんだろ。外面はくだけたジイサンだけど、身内にはキビシイからなあ。まあ、年寄りの繰り言と聞き流せばいいよ」
――そうだよね、お父さんは、とても優しく接してくれて、心配もしてくれた。でも、厳しく現実は見抜いていた……いや、違う。わたしは、ほんとうに英二さんを愛してるんだからね――
それから二日がたった。
コスモストルネードは、プロモーションビデオの段階にさしかかっていた。
マユのアバターを借りた拓美もリーダーのクララも知井子も、他の選抜メンバーも歌と振りは完成していたぞ。
プロモの撮影は、隣りのS県のコスモス畑でおこなわれたぜ。
「すごいだろ!」
黒羽は、衣装のアシスタントとして付いてきた美優を含める全員に自慢しやがる。
黒羽は仕事の上では公私混同はしねえ。美優も、カメラテストの終わったメンバーの衣装の手直しを真剣にやったぞ。あくまでローザンヌの仕事だという姿勢は崩さねえ。
プロモのディレクターはゲームクリエーターの岸川という、まだ二十代前半の若い奴だ。
「岸川君は、『アイドルチャレンジ』で立て続けにミリオンとってるやり手だからな。きっといいプロモにしてくれるよ」
黒羽が、そう紹介すると、メンバーのみんなが騒ぎやがる。
「え、ウソー! あのアイチャレ作ってんですか!」
「わたし、クリアーしちゃった!」
「続編でるんですか!?」
AKRのメンバーの中にも、かなりのファンがいるようだ。そのためにメンバーとクルーのモチベーションは最初から高くて、チームワークもいいぞ。
なんといっても、メンバーのほとんどがアイチャレにハマったり、知っていたりしていたんで、最初から共通のイメージを持って撮影できたことが大きい。
まったく新しいものを一から作るより、アイチャレをブースターにして打ち上げた方が確実に軌道に乗る。乗ってしまえば、回を重ねるごとに自ずとAKRらしさが出てくると、この人たらしディレクターは目論んでやがる。
そんで、企まずして出て来た『らしさ』の中から、次の本当のAKRの色と形を掴もうとしてやがる。
『二番煎じで墜落すんなよ』
会長には言われてやがるが、会長もそうやってフォークの枠から突き抜けてきやがったんで、それ以上には言わせねえ。
予定より二時間も早く撮影が終わって明くる日はスタジオ撮りだ。 そんで、週末の新曲発表は、いきなりオモクロとの対決というブースターが付くことになりやがった。
オモクロが、新曲の『秋色ララバイ』をぶちかまし、合同発表ということになった。しかし、ただの発表ではつまらねえ。
収録に審査員。そして会場の観客。さらにはテレビとネットの視聴者にも投票してもらい、順位を付けることになってやがる。
ただの新曲だけの勝負では負けた方が営業上のダメージが大きく、九十分の特番としては尺が余ってしまうので、AKRもオモクロも独自の選曲で、三曲づつぶつけ合い、その間にもトークなどがあって、最後に投票結果が集計され、フィナーレで結果が発表されるちゅう、失速してる間もねえ企てだ。
この分かり易くセンセーショナルな企画は、HIKARIプロの会長が発案し、オモクロが受けるカタチで決まった。黒羽Dは独自に突っ走りながらも、会長へのヨイショも抜かりがねえ。
――まんまと罠にはまったな――
オモクロの上杉プロディユーサー兼チーフディレクターは笑みをこぼしやがった。だけど、オモクロのことは、もうちょっと後でな。
「ごめんなさい。英二さん、今夜は来れなくて……」
「いいよ美優ちゃん」
美優が病室に入って最初の会話だ。
「由美子、ちょっとの間、この酸素マスク外してくれよ」
ジジイが、夕べよりもか細くなった声で言いやがる。
「……いいわ。でも三十分だけよ」
「頼む」
「三十分たたなくっても、顔色変わったり、モニターのアラームがなったら、そこでマスクジイサンになってもらうからね。じゃ、美優……お義姉さん、よろしく」
年上の由美子から言われて、少し落ち着かなかええけど、気遣いは嬉しい美優だったぞ。
昨日もそうだったけど、黒羽の父は、美優がかりそめの婚約者だとは言わなかった。ほんとうに息子の嫁に話しかけるみてえに、うち解けて話してくれやがる。
「ハ……あいつも、なかなかやるもんじゃないか……」
オモクロとの対決を話した時などは笑ってくれた。もう声を出して笑う力はなかったが、目はしっかり笑っていた。
対決番組の収録まで、あと五日。
――わたしの命は……あと四日。神さま、お願いです。英二さんの勝利が分かるまで、一日だけ命を延ばしてください――
頼む相手が違ぇだろ!
マユは、必死で五百万個目のガン細胞を殺しにかかったぞ……。
☆彡 主な登場人物
マユ 人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
里依紗 マユの同級生
沙耶 マユの同級生
知井子 マユの同級生
指原 るり子 マユの同級生 意地悪なタカビー
雅部 利恵 落ちこぼれ天使
デーモン マユの先生
ルシファー 魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
レミ エルフの王女
ミファ レミの次の依頼人 他に、ジョルジュ(友だち) ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
アニマ 異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
白雪姫
赤ずきん
ドロシー
西の魔女 ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)
その他のファンタジーキャラ 狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
黒羽 英二 HIKARIプロのプロデューサー
美優 ローザンヌの娘
光 ミツル ヒカリプロのフィクサー
浅野 拓美 オーディションの受験生
大石 クララ オーディションの受験生
服部 八重 オーディションの受験生
矢藤 絵萌 オーディションの受験生
上杉 オモクロのプロディューサー
片岡先生 マユたちの英語の先生




