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68『病院潜入』

魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!


68『病院潜入』 






 病院の駐車場に入ると、マユはちょっとした魔法をかけた。


 黒羽Dがドアを閉める寸前に、ナビのスイッチを切り忘れるようにな。


「あれ、切り忘れか……」


 で、ナビのスイッチを切り直しているうちに、ポチの姿のマユは、後部座席から抜けだして監視カメラの位置を確認した。


 豆柴とはいえ病院に犬が入り込んだら騒ぎになるからな。カメラの死角を拾いながら、黒羽の後をつけていったぜ。


 夜間受付で、黒羽は父の病室を尋ねやがる。その瞬間、受付のガードマンは監視カメラのモニターから目を離す。その隙に、ロビーの自販機の横に隠れる。病室はガードマンが黒羽に教えていたのを覚えているんで問題はねえ。


 あとはポチの姿をなんとかするだけだ……そこに運良く日勤空けのナースが更衣室に向かうのに出くわしたぜ。


 マユはナースの後をつけ、更衣室でそのナースに化けた。むろんナース服は、そのナースが着替えたものを拝借した。ナースの胸には渡瀬の名札がついていたぞ。



 病室は五階にある。



 エレベーターに乗っているうちに化けたナースの記憶の断片が浮かび上がった……吉永美優という若い患者のことが気がかりなようだぜ。骨肉腫が術後に全身に転移し、もう手の打ちようが無え、余命は黒羽のジジイ同様に一週間ほど。美優はナースと同い年みてえだ。


「おめでとう……」


 そう言って、美優はナースにブローチをくれた。死期を悟った美優が、同い年のナースの幸せを願って、少しずつ病床で作ったものみてえだ。


「あげる。幸せになってね」


 特定の患者に感情移入はしねえのが、この職業の鉄則みてえだが、さすがに渡瀬ナースはグッときやがった。そのブローチが、まだポケットに入っていやがる。


 エレベーターが上昇しはじめたときにそのブローチを出してみた。ユーノー (Juno)の横顔を彫り込んだブローチ。

 ユーノーは、ローマ神話で女性の結婚生活を守護する女神だ。渡瀬ナースはそのことを知らねえみてえだけど、マユは、そのことがすぐに分かったぞ。


 気づいていたら、渡瀬ナースは職業の規範を超えて涙したにちげえねえ。



「あ……」



 ブローチを裏返して驚いた。『ローザンヌ』のロゴが入ってやがる。ローザンヌは、黒羽と出会う前に知井子が、ゴスロリのコスを買った店……ナースの記憶にローザンヌのマダムの顔が……美優はマダムの娘だ!


 あとで寄ってみよう。そう思ったときには五階に着いていたぜ。


 マユは、黒羽が入った隣の空き病室に入った。隣の様子が手に取るように分かるぜ。ベッドにひと回り小さくなったジジイ、枕もとに二十代後半の女……黒羽Dの妹が文庫に目を落としてやがる。


「英二、何しに来た!?」


 ジジイは、病人とは思えねえほどでけえ声だ。


「お父さん、体にさわるわよ」


「……そこに座れ」


 次の声はひどく弱々しかった。やっぱり余命は一週間といったとこだ。ジジイはかなり衰えてやがる。以前、HIKARIプロの事務所で黒羽を叱りつけていたころの半分ほどに痩せ、顔は薬の副作用で黄色くなってやがる……心臓を生かすために肝臓を犠牲にしてやがんだ。


「なあ、英二……」


「なんだよ、オヤジ」


「おまえが、仕事に打ち込んでいるのは嬉しい」


「バカにしてたんじゃないのか。いたいけない少女を使ってあぶく銭稼いでいる角兵衛獅子だって」


「……思っていたさ。でもな、いつだったっけ、オレがおまえのところへ行こうとして(13~16回)地下鉄の通路で発作おこしちまって、その時助けてくれた女の子」


「ああ、知井子とマユか……」


「おまえ、あの子たち入れっちまったんだな」


「悪いか」


 妹がお茶を淹れる気配がした。


「お父さん、毎日チャンネルかえてはAKRの子たちのこと追いかけてるのよ」


 父と息子は同時に目を背けやがる。その隙間を淹れたてのお茶の香りが満たしたぞ。


「……みんなよくやってるよ。特にマユなんか命かけてやってるようなスゴミがあるよ」


「……そうか」


 そりゃそうだろ。あのマユの中味は拓美。生きたあかし残そうって必死なんだからな。


「あんないい子たちを、あそこまで光らせたんだ。おまえの仕事は間違っちゃいねえ」


「え……あ、うん」


 黒羽は、窓辺に寄って背中で答えた。


「だけどよ……お前が身を固めないのが気がかりなんだ」


「……だ、だから、ちゃんといるって彼女は」


「古いこと言うようだけどよ、黒羽の家をお前限りにはしてほしくねえんだ」


「お父さん、ひょっとしたら彼女連れてくるかなって……期待してんのよ」


「期待なんかしてねえよ、どうせ英二のハッタリだ」


「そんなことないって。今日は急だったから連れてこれなかったけど、今度は必ず……」


「必ずって、いつだい……おれは、もう十日ももちゃしねえぞ」


「お父さん、そんなことないわよ」


「気休めはよせ。由美子、お前の顔に『長くない』って書いてあるぜ」


「お父さん……」


「泣くな由美子。おまえも英二も嘘はつけねえ。死んだ母さんが、そこんとこだけはちゃんと育ててくれた」


「ほ、ほんとうに嘘じゃない(;'∀')」


「なあ英二、今の仕事が一段落してからでいい、身い固めろ。由美子は、もう三十になろうってのに、ここんとこ男っ気一つありゃしねえ、なんでか分かるか?」


「三十ぐらいの独身女なんてザラにいるわよ。お父さんせっかちなんだから」


「由美子、養子になってくれることを条件に男を考えてるだろう……そんなこと考えてたら、行かず後家になっちまうぜ」


「そんなんじゃないってば」


「真田ってやつと別れたの……その伝だろ」


「由美子……そんな話あったのか?」


 窓ガラスに映る妹と目があって、取り乱す黒羽D。こいつのこんなところは始めて見たぜ。


「ないない、お父さんの妄想よ!」


 由美子が、顔を赤くしてムキになってやがる。


「オレ、今度は必ず……連れてくるから。由美子もつまらない心配すんな」


 三人とも黙っちまって、時計の秒針の音だけになっちまう。


「無理すんなって……」


「無理じゃないって、じゃ、オレ仕事残ってるから、また明日。由美子、悪いけど頼むわ」


 黒羽Dは、ぬるくなったお茶を飲むと、そそくさと出て行く。最後まで父の顔は見られなかったぜ。



 ハ~~~


 マユはため息をついたぞ。



 天使なら、安直に人の命を助けて自己満足しやがるんだろうけど、悪魔の使命は違う。

 人に試練を与え、その生をまっとうさせることにある。死ぬ、あるいは死んだ命に干渉することはできねえ。それができるのなら、あの拓美だって生き返らせてるぜ。


 マユは、ポケットのブローチを撫でて、美優の病室に向かったぞ……。

 



☆彡 主な登場人物


マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院

里依紗      マユの同級生

沙耶       マユの同級生

知井子      マユの同級生

指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー

雅部 利恵    落ちこぼれ天使 

デーモン     マユの先生

ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある

レミ       エルフの王女

ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)

アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)

白雪姫

赤ずきん

ドロシー

西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  

その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ

黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー

光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー

浅野 拓美    オーディションの受験生

大石 クララ   オーディションの受験生

服部 八重    オーディションの受験生

矢藤 絵萌    オーディションの受験生

上杉       オモクロのプロディューサー

片岡先生     マユたちの英語の先生  


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