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43『サンチャゴ爺さん』

魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!


43『サンチャゴ爺さん』 





 あれえ?


 サンチャゴじいちゃんの小屋は、近くで見ると意外に大きいぜ。


 岬の一軒家なんで、比較になる建物がねえことや、作りがザックリしているんで小さく見えてるんだろうけど……家の前に立つと、自分が小さくなったんじゃねえかと錯覚するほどに大きいぜ。



「お早う、じいちゃん」



 ミファのあいさつに応えははなかった。そんなことにかまわずに、ミファは中に進んでいきやがる。


 教室ぐらいの部屋に寝室や台所がついているだけのようなシンプルさ。漁具や海で拾ってきたガラクタがあちこちに散らばってやがるけど、足の踏み場もねえ……というわけでもねえ。


「来るたびに片づけているから、まあまあだけどね……ベッドにはいない……ということは」


 サンチャゴじいちゃんは、教室ぐらいの部屋の海側に面した大きな窓辺、そこのロッキングチェアで眠ってやがった。


 色あせた横しまのシャツにオーバーオール。骨太だけど、しぼんだ風船みてにに萎えてやがる。漁師特有の赤茶けた顔には深いしわが刻まれ、頬から下は真っ白な無精ひげ。


 戦場で迷子になって、もう一歩も動けねえジジイの兵隊みてえだ。


「サンチャゴは、海の上が一番似合うんだ。さあ、潮風を入れようね。ちょっと手伝ってくれる」


「おお、いいぞ」


 大人が二人両手を広げたぐらいの窓は、ごっつい樫の木でできている。ひとマス三十センチほどの格子のガラスは厚さが一センチほどもあって、横引きのシャッターを開けるくらいの力がいりそうだ。


「よいしょ!」「せーの!」


 ガラ ガラガラガラ!


 トロッコが走るみてえな音がして窓が開いたぜ。


「うん、これくらいでいいよ」


 ミファがOKを出すと、潮風が海鳥の声や波音といっしょに入ってきたぜ。


「さあ、タバコに火を点けるよ」


 ミファが、タバコの用意をしている間、ジジイの薄く開いた目を見た。白目は歳相応に濁ってやがるけど、瞳は、海の色をそのまま写したように青くて、ちょっと見とれちまったぜ。


 その瞳は動くことはなかったけど、瞳孔は、なにかを見つめてるみてえに絞り込まれてやがる。

 


 戦う男の瞳だと思ったぞ。



 小悪魔の歴史の授業で習った、プルターク英雄伝のサラミスの海戦、その中のデメトリオス一世の瞳と同じだと思った。


――退屈な授業を聞かせるより、こういう実物を見せた方がよっぽど分かりやすいぜ――


 マユは、自分の不勉強を棚に上げて感心したぞ。


 と……次の瞬間、青い瞳は死人みてえに力を失い、鋭く絞り込まれた瞳孔は、だらしなく緩んじまったぞ。


「ミファ、タバコを消せ!」


「え……?」


「いいから早く!」


 ミファにタバコを消させ、魔法で窓を全開にした……!


「こんなことをしたら、じいちゃんの体に悪いよ」


「悪くなんかねえよ。じいちゃんの瞳を見てみろ」


「……あ!」


「分かった……?」


「……うん」


「サンチャゴじいちゃんの目は戦う男の目なんだ。でもサンチャゴじいちゃんは起きることは無ぇ……んだろ。瞳は絞り込まれているけど、体は緩んだまま」


「これって……」


「たぶん……オンディーヌの呪いだ」


 ゾワ( ゜Д゜)



 そのとき背後に人の気配を感じた。



 いつのまにか、入り口のところにベアおばちゃんが立ってやがる。


「やっぱり、その子は魔女、いや、ひょっとしたら魔法少女!?」


「ちがうわ!」


「いま、たばこを消して、窓を魔法で閉めただろ。あんたたちみたいな子どもでなきゃ、サンチャゴの世話はできないけど、いつか、こんなことになるんじゃないかと心配もしていた。サンチャゴの夢を知りたがるんじゃないかって」


「ベアおばちゃん、やっぱりなにかあったのね。サンチャゴじいちゃんを起こしちゃいけないなにかが」


「ミファ、その子から離れるんだ。いま封じ込めてやるから!」


「おお( ゜Д゜)!」


 ベアおばちゃんは一枚のカードをかざしやがった。元プリマドンナだから、めちゃくちゃカッコよくて、思わず感動の声が出たぜ。


 けど、この小悪魔マユをどうこうできるシロモノじゃねえ。


「魔女封じの宝珠か……そんなもんでマユは封じられねえぞ」


「レアもののカードなのに……」


 パチ  ボ!


 マユが指を鳴らすと、カードに火が点いた。


「うわ、アチチ……!」


 ベアおばちゃんは、慌ててカードを手放しやがった。


 カードは意思あるものみてえにワンカートンのたばこの包みの上に落ちた。


「マユは、魔女でも魔法少女でもねえ、小は付いても悪魔なんだぞ。そんなヘナチョコカードにゃ負けねえぞ!」


 ブスブスブス


「グ、だれがブスだ! え、ちがうのか?」


 たばこの包みがくすぶり始めた。気を取り直して話してやったぞ。


「サンチャゴには、すでに、精霊オンディーヌの呪いがかかっていて、目覚めることはねえよ。その上ハバナたばこの煙……この煙を嗅ぐと仮死状態になって目の光りまで失ってしまうんだ。そうだろベア!」


「そ、それは……」


「うそだよ、そんなこと。だったら、いっしょにいるミファたちも仮死状態になっちまうじゃないか(;'∀')!」


「このたばこは、大人しか効き目がねえんだろ。だから子どもにだけ世話をさせてるんだ」


「グヌヌ……」


「消すぞ、ベア」


 くすぶるたばこに息を吹きかけてやった。煙はベアの顔を包み込むようにわだかまって、ベアは、あっけなくくずおれちまった。


「ベアおばちゃん!」


「だいじょうぶ、寝てるだけだ」


 それでもミファは、ベッドからケットを持ってきてベアに被せてやる。いいやつなんだ……けど、口には出さねえ。


「……そんなにサンチャゴじいちゃんの夢って、怖いものなの?」


「怖いものじゃなくて、危ないものなのかもしれねえぞ」


「……この目で確かめてみたい。この絞り込んだ瞳が見ているものを……でも、無理な相談ね。そのオンディーヌの呪いとかがかかっているようじゃ」



 ボォォォォォ



 開け放たれた窓から汽笛が聞こえてきた。めずらしく大きな船が入港してきたみてえだ。


 ボォォォォォ


 チラッと見ると灰色の軍艦だ。


 ボォォォォォ


 汽笛は、もう一度鳴って、気づくと、サンチャゴの目は汽笛が鳴る度に光が強くなっていってる。


 あれ?


 そして、偶然か、魔法か、坂道で吹き飛ばされたマユのストローハットが、窓から、フワリと小屋のテーブルの上に舞い降りてきやがったぞ。


「じいちゃんを起こすことはできねえけど、夢の中に入っていくことはできるかもしれねえ」


「行ってみたい!」


「どんな夢だか分からねえ。場合によっちゃ夢に取り込まれて出てこれなくなるかもしれねえぞ」


「でも、見てみなくちゃ始まらないよ……お願い」



 ボォォォォォ



 南度目の汽笛が、とどめのように鳴り響いた。



「わかった。じゃ、マユの目を見つめろ……」


 そう言いながら、マユはストローハットを逆さにしたぞ。


「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」


 呪文と共に、マユとミファの体はどんどん小さくなって、逆さになったストローハットの中に収まった。


「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」


 呪文は、さらに続く。


 今度は、ストローハットそのものが小さくなり、浮き上がったかと思うと、サンチャゴじいちゃんの青い瞳の中に吸い込まれるように入っていったぞ!



 それは、巨大な青い渦に巻き込まれていくボートみてえだったぞ……。



☆彡 主な登場人物


マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院

里依紗      マユの同級生

沙耶       マユの同級生

知井子      マユの同級生

指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー

雅部 利恵    落ちこぼれ天使 

デーモン     マユの先生

ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある

レミ       エルフの王女

ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)

アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)

白雪姫

赤ずきん

狼男

黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー

光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー

浅野 拓美    オーディションの受験生

大石 クララ   オーディションの受験生

服部 八重    オーディションの受験生

矢藤 絵萌    オーディションの受験生

片岡先生     マユたちの英語の先生  


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