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3『知井子の悩み』

魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 小悪魔だけどな(≧ヘ≦)!


3『知井子の悩み』 






 黒板の前、知井子が頬を赤く染めてピョンピョン跳びはねてやがる。


 べつに、嬉しいことがあってハイテンションになっているわけじゃねえ。



 今日の知井子は日直で、授業が終わったあとの黒板を消してるんだ。と言っても黒板が消えるわけじゃねえ。正確には、黒板にチョークで書かれた文字や図を消してるんだ。


 英語ではerase the blackboardっていう。eraseという言葉そのものが「文字などを拭い消す」っていう意味。黒板そのものを消すという魔法のような意味はねえ。カタカナで書くとイレイズな。消しゴムなんかイレイザーだからな。イギリスじゃイレイザ。なんか魔女の名前みてえでかっこいいと思うぞ。


「あら、かわいい。ウサギさんみたいじゃん」


 アハハハハハハハハハ(ᵔᗜᵔ*) (ᵔᗜᵔ*) (ᵔᗜᵔ*)


 ルリ子が言うと、取り巻きたちがいっせいに笑いやがる。


 ルリ子たちはスマホ事件以来、それまでにもまして人をイジルようになった。つくづくひねくれた女どもだとマユも思うぜ。


「知井子、代わろうか?」


 里依紗が、見かねて声をかけた。


「いいよ、わたしの仕事だから!」


 知井子が、かわいい意地を張った。


 知井子は背が低い。同年齢の女子の平均より10センチは低い。また、彼女の名前も背の低さを連想させる。バラエティーなどで大阪弁が流行っているんで――ちいーこ( ´艸`)――中学では名前にひっかけてイジられてやがった。


「わあ、小ぃーこ!」


 別に知井子の両親は、娘のコンプレックスになると思って付けた名前じゃねえ。知恵が井戸から湧き出るような子になって欲しいと思ってつけたし、「チイチャン」という愛称も、小学生のころまではカワイイ響きで、本人も気に入っていたんだ。中学に入ってからは、「チイチャン」という子どもっぽい愛称は、本人の意志で禁止になった。それからは「チーコ」と呼ばれるようになったが「小ぃーこ」の意味が付くとは思わなかったらしい。


 知井子はよく耐えてきたぜ。褒めてやってもいい。


 でもな、知井子は自分のダメなところは、みんな自分の身長のせいにしてやがる。


 体育の成績が悪いのも、男の子にモテねえのも、ちょっぴり根性が悪いのも背が低いからってな……。


 知井子のために言っておくけど、本人が気にするほど知井子は根性ワルじゃねえ。


 中学のとき、友だちとディズニーランドに行ってよ、自分一人子ども料金で入れたことに罪悪感を感じていたくらいだからな。


 マユは、小はつくけど悪魔だからな、あくまでも悪魔的には理解は出来る。


 あ、今のはシャレじゃねえからな!


 悪魔ってのは、元々は天使だった。知ってっかっ?


 ルシファーとかサタンとかデーモンとかな。みんな元々は天使だ。


 みんな真面目に天使やってたんだけどよ、なんか違うなあって感じてよ、意見言ったら「天使のくせに生意気だあ!」「神に逆らいやがって!」とか言われてよ、天国から蹴落とされたんよ。


 だからな、堕天使とか言うわけよ、世間はな。


 どう意見が合わなかったとかのイキサツ言ってると、それだけで、文庫一冊分くらいにはなっちまって話が進まねえから、おいおいとな。


 いろいろ魔法は使うけどよ(A級魔法は禁止されてっけどな)魔法少女じゃねえからな。魔法少女はよ、カッコつけて、すぐに月とか神さまとかに代わってお仕置きとかするけどさ、思い違いとかミスとか多くってよ、けっこう尻ぬぐいとか大変なんだぜ。


 だからな、魔法少女じゃねえから、そこんとこよろしくな。


 知井子が「アレも出来ない、コレも出来ない」と思っているのは身長のせいなんかじゃねえ。全てのことに消極的で、やる前から諦めっちまうからだ。


 友だちとしてマユは、知井子の背を高くしてやりてえよ。そして人並みに、いろんなことにアタックして欲しいよ。こんな黒板消しで意地を張ったり、身体測定のときに、人知れず5ミリほど背伸びしたりしないでよ。


 単に背を伸ばしてやって済む話じゃねえと思う。


 それにだいいち、マユは、人の背を適度に伸ばせるほど魔力をコントロールできねえ。へたに魔法をかけたら、知井子をスカイツリーと同じ身長にしてしまいかねねえしな。



 知井子は、次の時間、ずっと授業を聞くふりをして、白紙のノートをじっと見つめてやがった。もし、知井子にマユほどの魔力があればノートに穴が開くくれえに……。


 強い集中力だったんで、マユはちょっとだけ知井子に魔法をかけてやったぜ。


 自分の願いが、はっきりした夢として見られるような一種のバーチャルリアリティーの催眠術だ。バーチャルだけどよ、この魔法で見られる夢は、自分の実力や、道徳観を超えて見られるようなものじゃねえんだ。


 たとえば、ルリ子たちをブタにしてやりたくてもできないようになっている。あくまでも本人の潜在能力の範囲でしか見ることのない夢なんだ。



 ……気づくと、知井子は交差点に立っていた。



 こころなし目の前の信号機が低く見える。あたりを見渡すと、たいていの人の頭が、自分と同じ高さにある。


 いや、知井子の頭が人と同じ高さになってやがる。


「世間って、こんなに見晴らしのいいものなんだ!」

 

 知井子は、交差点を渡ってケンタの前のカーネルおじさんの人形と背ぇ比べをやってみた。ちょうどいいバランスだ。ついこないだまでは見上げていたカーネルおじさんの口元が、自分の目の高さぐらいにある。


 知井子は、スマホを出してカーネルおじさんの身長を調べてみた。


 身長173センチ……と、いうことは……。


「うそ、165はあるってことじゃん( ゜Д゜)!?」


 ショ-ウィンドウに映る自分は、ディズニーランドを大人料金を払わなければならないスガタカタチだった。


「そうだ!」


 知井子は、あたりを見渡した。どうやらアキバのあたり。以前ため息ついてあきらめた店に直行した。そこは、ちょっと高級なローザンヌってゴスロリの店。以前きたときにも見たけど、ショ-ウィンドウに飾ってあるそれは、自分が着ると「まるで、小学校の学芸会」だった。


 でも、今見たら、ガチイケそう。値段は並のゴスロリよりもヒトケタ高かったけど、財布の中身を見ると、それを買っても、半分残るくらいのお金が入ってる!


――もう、買うしかないっしょ(^▢^)!――


 ノースリーブのワンピとブラウスのセットを買った。


 店の試着室で着替えると、店員さんも驚いて宣伝用にと写真を撮ってくれた。スマホにそのまま送ってもらって自分で確認。


 ホオオオオ(・o・*)


 ため息ついて、そのまま街に出た。


 あたりを歩いているヒラヒラのゴスロリじゃなくって、シックって言うのかなぁ、二十世紀初頭のイギリスのお嬢さんのように見えたぜ。髪も気づくと、それに相応しいウィッグ……じゃなくて自分の髪の毛で、緩やかにカールしてて、子どもの頃あこがれたドールみたいだったぜ。


「ねえ、キミお茶しない?」


 イケメンくずれのお笑いタレントのようなオニイサンが声をかけてきやがった。


 多少くずれていてもイケメン。知井子は人生で初めて、男に声をかけられた。ディズニーランドでスタッフのオニイサンが「迷子になったの?」と声をかけてくれたのを例外としてな。


 しかし、本能的に「こいつはダメだ」と思った。


「いいえ、けっこうです」


 知井子は、『プリティープリンセス』のアン・ハサウェーのアミリア王女のように断った。しかしオニイサンはしつこく付いてきた。いいかげんウンザリしたところで声がかかったぞ。


「きみ、ちょっとしつこいんじゃないか」


 え?


 三十分後、知井子は声の主の事務所にいたぞ。ヒカリプロといって、AKRのメンバーの何人かが所属している、業界でも新人発掘に成果をあげているところだ。


 そして、数ヶ月後、知井子はAKRとよく似たユニットの結成メンバーのセンターになって、ユニットごと、その年の新人賞に選ばれた!


「どうですか知井子さん。デビューわずか五ヶ月で新人賞をとった感想は!?」


「ハ? え、えと、えと……(;'∀')」


 MCにそうふられ、答えようとして過呼吸になりかけたときに目が覚めた。


 知井子が、夢を見ながら本当に過呼吸になりそうになったので、マユは魔法を解いてやったぜ。



 そんで、ビックリしたぜ!



 知井子にこんな潜在能力があるとは思っていなかった。


 言ったろ、この夢の魔法は潜在能力の範囲でしか見れねえってよ。


 キリリ


 少しカチューシャが締まって、声が出そうになった。どうやら小悪魔としては道を踏み外しかけている。でも、またカチューシャは緩んだ。


 あれ?


 グラウンドで体育をやっている中から、誰とまでは分からないオーラを感じたぜ。錯覚……錯覚とか思い込みが多いってデーモン先生に怒られたのを思い出す(-_-;)。

 

 次の休み時間、知井子は黒板の上の方は素直に里依紗に頼んで消してもらった。ルリ子たちは少し囃し立てたけど、里依紗と沙耶に睨まれて口をつぐんじまった。


 窓辺に寄ってグラウンドを見ると、とっくに体育は終わってて誰も居なかったぜ。



 

☆彡 主な登場人物


マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院

里依紗      マユの同級生

沙耶       マユの同級生

知井子      マユの同級生

指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー

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