21『知井子の悩み・11』
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!
21『知井子の悩み・11』
「浅野さんと桜井(知井子)さんには驚きました! いいものを見せていただきました、ありがとう!」
大石クララの賛辞は本物だった。その証拠にマユへの誉め言葉は、一つも無かったぜ(^_^;)。
「ありが……」
拓美の返事が完全に言い終える前に、クララは続けた。
「浅野さんのパフォーマンスは特にすごかった! 全身全霊で唄って踊って……なんだか、もし世の中に天使がいるんだとしたら、こんな風なんだろうなあって思ったわ!」
――天使って、そんなにいいもんじゃねえぞ(おちこぼれ天使の雅部利恵のドヤ顔が浮かんだ)と、思いつつ、マユはクララの素直な感動はよく分かったぞ。
「う~ん……天使じゃ言い足りないわね」
いい感想だ(雅部利恵のドヤ顔がズッコケた)。
「天使みたいという点じゃ、桜井さんも同じ。浅野さんのは……なんてのかな。命賭けてますってのか、ここまでできたら死んでもいいや! そんなスゴミ感じちゃった!」
――おお、するどい! 本人も、そう思ってやったんだぜ!――
拓美は、すごく嬉しそう。この世から消える直前、それも数時間後には誰の記憶にも残らねえパフォーマンス。それを、心から感動してくれる大石クララ。いま出会ったばかりなのに、何年も付き合った心の友のように思えて、メアドの交換までやってしやがった。
――やれやれ、これで消去しなければならないものが一つ増えちまったじゃねえか――
長引いた審査も、昼食後三十分ほどしてようやく終わりやがった。
審査員の心を読まないように苦労したぜ。読まないようにしていても、審査員の興奮はダイレクトにマユの心に伝わってきやがる。新聞の号外を目の前に広げられて、見出しを読まないぐらいの苦労がいったぜ。
「マユ、なにブツブツ言ってのよ」
知井子が、面白そうに聞いてきやがった。
マユは無意識のうちにダンテの「神曲」を暗誦していたんだ。
ダンテの「神曲」は、小悪魔学校二年の必修で、暗記しなきゃならねえんだ。マユは、この暗記が大嫌いでよ、自分から進んで暗誦したことなどなかった。それを無意識に唱えちまうんだから、マユの緊張もかなりのもんだったんだぜ。
で、マユは感じたんだ……審査員長の心に迷いがあることを……。
「では、審査結果を発表します。長橋さん、よろしく」
名目上の審査委員長が、先輩アイドルユニットのリーダーを促した。
「はい、では、発表いたします。HIKARIプロ新ユニット合格者十六名の方々の受験番号とお名前を……」
長橋みなみが全十六名の名前を読み上げると、感激と落胆のオーラが等量に感じられた。それはメチャクチャ強くってよ、頭が痛くなって、マユ思わずしゃがみこんじまった!
「マユ、しっかりしてよ。マユも、わたしも、拓美ちゃんも、さっきのクララちゃんも合格だわよ!」
「え……わたしまで」
視線を感じた、その視線にはメッセージが籠められていた。
――いま、いまよ! この幸せの絶頂でわたしを送って!――
向けた視線の方角に拓美の泣き笑いの顔があった。想いは残ったけどよ、これを外したらきっかけを失う!
今だ!
ここにいる全員の記憶を消去するために、両手を後ろに回して悪魔クロスを作り、マユは密かに呪文を唱えた始めたぜ……。
☆彡 主な登場人物
マユ 人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
里依紗 マユの同級生
沙耶 マユの同級生
知井子 マユの同級生
指原 るり子 マユの同級生 意地悪なタカビー
雅部 利恵 落ちこぼれ天使
デーモン マユの先生
ルシファー 魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
黒羽 英二 HIKARIプロのプロデューサー
浅野 拓美 オーディションの受験生
大石 クララ オーディションの受験生
片岡先生 マユたちの英語の先生




