20『知井子の悩み・10』
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!
20『知井子の悩み・10』
オーディションは審査に入って、受験者たちは控え室にもどったぞ。
この審査が長引きやがる。
オーディション終了直後は静かな興奮だったぜ。
化粧前に座ってボ-っとしてるやつ。スマホや携帯を出して親や友だちに連絡を入れるやつ。やたらにスポーツドリンクを飲み始めるやつ。
色々だけど、みんなどこかで、知井子と拓美を意識してやがる。話しかけてくるやつやジッと見たりってことはねえけど、みんな――あの子たちすごかったね――って思ってやがる。
学年の始まりにルリ子が目立ちやがったのに似てるけど、あいつは性格悪そうで、ビビられたり敬遠されてだった。
利恵も絶世の美少女だから、こんな感じで注目されてたけど、あいつは天使だ。「天使のままの姿形は反則だろが!」って言ってやったら「神さまは、あるがままであることを尊ばれるのよ」って涼しい顔で返して来やがった。まあ、ブスも美人も三日で慣れるって言葉の通りだったけどよ。
知井子と拓美はミテクレじゃなくて、スキルとかタレント性だ。そんで、芸能界っちゅうかアイドルの世界は競争だからな、もし受かったら、ずっとこんな視線の中にいることになるんだ。てえへんだろうなと思ったぜ。
でもよ、当の本人の知井子と拓美は気づいてねえ。全力を出し切って、呆然としてやがる。
まあ、こういう景色も面白れぇもんだ。
けどよ、ちょっと気にかかった。
ここに来てから魔法の使いっぱなし。時間を限ってだけど拓美に命を与えたりしたのは、もう完全にA級魔法だぜ。
でも、カチューシャが締め付けてくることもねえし、デーモン先生の文句も聞こえてこねえ。
ちょっとヤバくねえかぁ?
そのとき、戒めのカチューシャから、マユの頭の中にメッセージが入ってきた。
――黒きことは白きこと、白きことは黒きこと――
え?
声はルシファー。悪魔の親分でマユを人間界に落とした張本人。普段はサタンていうんだけど、たまにルシファーの名前で現れやがる。べつに名札とかIDとかが付いてるわけじゃねえ。出てきた瞬間のイメージでそう思っちまう。ちょっと難儀な魔界のボスで悪魔学院の校長でもありやがる。
「ありがとう、気持ちよく唄えたわ。もう思い残すこともない……送ってくれてもいいわよ」
拓美が、目を潤ませ、しかし、しっかり覚悟のできた声で、横顔のまま言ってきやがる。
「わたしは半日って言ったのよ。まだ時間は十分あるわ、審査結果を聞いてからでいいわよ」
「う、うん……ありがと」
うつむいた拓美の表情は分からなかったけど、膝に落ちた涙で、気持ちは分かった。
知井子が、そっとハンカチを差し出しやがった。
ノックがして、スタッフのオニイサンが入ってきた。
( ゜Д゜)!!
それだけで控え室のみんなの神経は尖って、女の子たちの視線がオニイサンに集中したぜ。
「あ、あのぉ、お弁当なんだけど、ちょっと待ってて……審査発表まで、ちょっと時間かかるんで」
お弁当は人数分しかねえ。つまり、本来は居ないはずの拓美の分で足りなくなってしまって、オニイサンは微妙にパニック。
廊下にキャスターに載せられたお弁当の山が感じられた。
お弁当は段ボールの箱に入ってるけど、パッケージは白のと黒のとがあって――白と黒がありますが、中身は同じです――ってメモが付いている。大量注文だったんで、パッケージが間に合わなかったんだ。
で、まじめなオニイサンは配る前に数えたら一個足りねえことに気が付いた。それでアタフタしてるわけだ。
「お弁当のパッケージが白と黒があるけど、審査の当落とはぜんぜん関係ありません。お弁当屋さんのパッケージが切れただけで……あ、切れたって、あ、そういう意味じゃなくて(;゜Д゜)、とにかく、もうちょっと待っててください」
オニイサンの慌てぶりに、みんなから笑いが起こる。
マユは、急いで魔法をかけた。
廊下のお弁当に魔法をかけ、足りなくなったお弁当の一つを二つにした。見かけだけを二つにしたので、味は半分になっている。食べたやつは、自分が味覚障害になったかと思うだろう。並の悪魔なら、全部のお弁当のエッセンスから均等に取って一個のお弁当を作る。マユはまだまだおちこぼれ、イタシカタナイ……。
オニイサンは先輩のスタッフを連れてきて「もう一回数えてみよう」ということになって、二度数え直しても「ちゃんとあるじゃないか」ということになって、無事にお弁当が配られた。
餌が配られて、控え室のみんなはやっと年頃の女の子らしくなってきたぜ。
あちこちにグル-プができて、年齢にふさわしい賑やかさになってきた。マユは、知井子と拓美と三人でお弁当を食べたぞ。
その三人の小グル-プの中でも、知井子はお喋りの中心になった。マユはホッと胸をなでおろし、知井子は、この数か月で伸びた身長以上に大きく頼もしくなったような気がしたぜ。
お弁当を食べ終えるのを見計らっていたのか、一人の女の子が近寄ってきた。
胸には受験番号①のプレートが付いていた。
「わたし、大石クララって言います……」
その子は、見かけの可愛さの裏に、男らしいと言っても良いような清々しい心映えを感じさせたぞ
大石クララが、ペコリと頭を下げた。
――不味い! なんだよ、この味のうすさは!――
同時に、味半分のお弁当を口にしたスタッフの思念が飛び込んできて、ちょっと慌てたマユだったぜ。
☆彡 主な登場人物
マユ 人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
里依紗 マユの同級生
沙耶 マユの同級生
知井子 マユの同級生
指原 るり子 マユの同級生 意地悪なタカビー
雅部 利恵 落ちこぼれ天使
デーモン マユの先生
ルシファー 魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
黒羽 英二 HIKARIプロのプロデューサー
浅野 拓美 オーディションの受験生
大石 クララ オーディションの受験生
片岡先生 マユたちの英語の先生




