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11『ダークサイドストーリー・7』

魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!


11『ダークサイドストーリー・7』 





 こめかみの汗が頬をつたって制服の襟に達するまで、マユは何もできなかったぜ。


 片岡先生の心は閉じてやがる。


 いや、心を閉ざした自分の側にマユが座ったことに不快感さえ感じていやがる。


 こんなやつに、下手に声をかけやら逆効果だ。


 一時的に魔法をかけて、先生の自殺を止めることは簡単だ。たとえば、先生をベンチから立てなくするとか、電車を停めちまうとか……。


 でもよ、それは一時しのぎにしかならねえ。不思議な出来事で、先生を余計に混乱させるだけだ(-_-;)。


 シンディーの記憶を消しちまえば、先生の心は楽にはなる。


 でも、有ったことを無かったことにするのは、悪魔の良心が許さねえ。

 

 有ったことを無かったことにしたり、悪いことを良いことと思いこませることは神さまや天使のオハコだ。


 恋のキューピットなんかもっての他だ。天使の中には、これをゲーム感覚でやっているものもいやがる。天使のイタズラ(天使は、適切なカップリングと言うけどよ)による恋は冷めるのも早くてよ、結果は、離婚率と非婚率の増加というカタチで現れてる……日本とかの先進国で合計特殊出生率てのが低いのは、そういう天使どものせいなんだ。


 なんで、先進国だって?


 決まってるじゃねえか、天使は不便な発展途上国とかは行きたがらねえからだ。ウォシュレットとか憶えちまったら、よそには行けねえ。


 天使がトイレに行くのかって?


 そりゃ、人間界に来るにあたっては人化してるからよ。ま、アバターってやつなんだけど。飯も食えばウンコもするんだ。


 それで、人間は、結婚に対して臆病になっちまった。


 そんな中、片岡先生のシンディーへの気持ちは本物だ。馴れ初めと、シンディーがくたばった別れまでを小説にしたら、海の底に沈んだ宝石みてえにきれいで悲しい物語になるぜ。



『一番線、急行が通過いたします……』



 駅のアナウンスが、急行の間もない通過を告げた。


 レールがカタコト鳴って、列車の通過が間近に迫っていることを感じさせた……。


 先生の心は揺れている。この特急に飛び込んでしまおうか……でも、横の女生徒は何かを察している。下手に止められたら、この子まで巻き添えにしてしまいかねない。


 片岡先生は、優しく気配りのできる人なんだ。先生の思念が伝わってきやがる……。


 急行の気配は、もうすぐそこまで来てやがる……でも、マユはどうしていいか、まるで考えが浮かんでこねえ。


 ゴオオオオオオ!


 急行の先頭車両がホームにさしかかった!


 クソ!


 マユは、自分でも思わない行動に出たぜ。


 ダダ!


 マユ自身が、急行に飛び込んじまった!


 悪魔の勘というか、あとで思い出しても、その時は、ただの衝動だったぜ。


「危ない!」「NO!」


 二つの声が重なったぜ!


 日本語のは片岡先生。瞬間身体を抱きかかえられ、ホームの端を二人で転がった。


 プァアアアアアアン! キキキキーーーーーーーー!


 急行は警笛とブレーキを軋ませて、転がった二人の横五ミリほどのところをかすめて、ホームを二百メートルほど通り過ぎて停止したぜ。


 英語の方は、駆け寄ってきて、マユの頭を抱え、英語でいっぱい罵声を浴びせかけてきやがった。


 そのほとんどが日本語なら放送禁止になるようなスラングで、とても声の主とは思えなかった……声の主はメリッサ先生だ。


 マユは小悪魔なんで、英語でまくし立てられても、しっかり意味は解る。


 「dud! hell! idiot! jerk! knucklehead! nerd! punk! shit! sissy! sly! spaz! turd! wimp! wuss!」と盛りだくさん。


「poor girl……」


 そう結んだあとで、メリッサ先生は泣きながらハグしてくれやがった。


 急行は、この影響で五分停車して、その日K電鉄のダイヤは一時間乱れた。


 かつらをやめた校長と担任が、電鉄会社に謝りにいった。むろん、マユの父親(になっている人間。この人の事情は、この話の後で出てくるかもな)も。


 マユは、痛いふりをして、救急車で病院に連れていかれ、いろいろ検査をされちまった。片岡先生とメリッサ先生は、ずっと付き添ってくれやがったぜ。


 そして、マユは、電車に飛び込むほど心に傷を負った生徒ってことで、スクールカウンセリングを受けることになった。マユは、しばらく傷心の女子高生を演ずるハメになっちまった。


 意外に、担当の悪魔からのおとがめは無かったぜ。


 片岡先生とメリッサ先生は仲の良い……とりあえず、友だちになっていやがった。学校は、一時この話しで持ちきりになってよ。知井子なんか、大感動して、日記帳に、このことを短いエッセーにして書き残しやがった。



 で、片岡先生の授業は……



「……というわけで、接続詞の用法はわかったな」


 一瞬、みんなは先生の方を向くが、すぐにそれぞれ勝手な事を始める。


 マンガやラノベを読む奴。ヒソヒソ声で話している奴。中には、携帯を教科書で隠してメ-ルを打っている奴。むろん率先してやっているのはルリ子たちだけど、マユの友だち、沙耶、里依紗、知井子さえも、この授業の間は内職をやってやがるぜ。


 片岡先生の授業下手は、どうやら天然だ。


 ただな、心は閉ざされてなかった。日ごとメリッサ先生の姿が大きくなってきてやがる。


――どんな手を使ったのさ!?――


 利恵が、心で聞いてきた。


――なにもぉ、ちょっとした事故だ、事故――


――なんで、あそこで飛びこむのぉ、二人そろってミンチになるとこだったでしょ?――


――うっせえ――


――あ、そうか( ´艸`)――


――なんだ、うぜえなあ――


――二人の血と肉をグチャグチャにして悪魔らしい終わりにしたかった。そうすりゃ、そのブスなアバターもリセットできるしぃ。地獄って貧乏だから、簡単にアバターは替えてもらえないんでしょ。残念ねえ――


――そう思ってりゃいいだろ。結果オーライなんだしよ――


――まさか……狙って?――


「フフフ」


「あんなアナログな、魔法も使わないやりかたで!?」


「きみたち、まだ授業中だぞ」


「さーせん(''○'')」「すみません、先生(^_^;)」



 節電のため冷房を切った窓から、初夏の青空が見えた。



 青空の中を一羽のカラスがよぎり、瞬間カラスと目が合った。


 アホー……と、カラスは一声残して飛んでいった。


 それは、どこに打っていいか分からずに、さまよっている片岡先生の板書のピリオドに似ていたぜ。

 



☆彡 主な登場人物


マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院

里依紗      マユの同級生

沙耶       マユの同級生

知井子      マユの同級生

指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー

雅部 利恵    落ちこぼれ天使 

片岡先生     マユたちの英語の先生  

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