結婚? 冗談でしょう!?(2/2)
「ああ、そうだ。僕の名前はユベロだよ。結婚してからも『王子サマ』じゃおかしいもんね」
「何で結婚することが前提になってるの!」
私は思わず叫んだ。
「嫌だよ、結婚なんて! だって、貴族も王族も悪い奴らなんだもん! お兄ちゃんだっていつもそう言ってるよ! そんな人の奥さんになるなんて……!」
「でもナディアさん、僕たちが結婚するのはすごくメリットのあることなんだよ。僕ね、君が成人してるって聞いたときに、もうこの人は結婚できる年齢なんだなって思ったんだ。つまり、僕の妻にもなれる。それって、これ以上ないくらい素晴らしい思い付きだよね? だからこうして話を持ちかけて……」
「そ、そんな前から私を付け狙ってたの!?」
私は急に寒気を覚えて二の腕を擦った。
「変態! いやらしい目で私を見てたなんて最低!」
「そ、そんな目では見てないよ。僕が君と結婚したいって思ったのには、ちゃんと理由が……」
「嫌! 聞きたくない! どうせ『グフフフ……良い体してるじゃねえか』とか考えてたんでしょ!?」
「良い体……? 君、どっちかって言うと幼児体型寄りだと思うけど……」
「な、何てこと言うの! 年頃の女の子に向かって!」
この人は私の攻撃で頭が変になったんじゃない。元からおかしかったんだ。
そうと気が付いて、ますます殺意が高まっていく。腹いせに一発、第二王子――ユベロを殴ってやろうとした。
でも私の拳が届く前に、彼はひらりと身をかわす。
「ナディアさん、やめなよ。魔法が使えるのならともかく、素手で戦ったんじゃ、非力そうな君に勝ち目があるとは思えないし……」
「それでもやるの!」
私はユベロを睨みつけた。
「私は何が何でもユベロを殺す! そう決めてるんだから!」
「元気だね、君は……」
ユベロは調子の悪くなった機械を眺めるように私を見ていた。
「もう怪我も全快したみたいだし……。強力な魔法の使い手は傷の治りも早いっていうのはよく聞く話だけど、それ本当だったんだね。他の捕虜なんて、まだベッドから動けない人が大半だっていうのに」
「他の捕虜!?」
聞き捨てならない台詞がさらりと出てきて、私は息を呑んだ。
「他の捕虜ってどういうこと!? 私以外にも捕まってる人がいるの!?」
このとき初めて、私はあの橋での戦いがどうなったのか知らなかったと気が付いた。
「……解放軍は負けたの?」
「そうだね」
私がまっ青になっていると、ユベロはあっさりとそう返した。
「大体兵力の三分の一くらいは失ったんじゃないかな? リーダーや幹部たちは無事みたいだけど、あれじゃ当分次の戦いは無理だよ」
私の顔色はますます悪くなる。
初めて王国軍と戦うということで、解放軍は気合いを入れて、あの戦いに全兵力を投入していた。
それなのに三分の一も味方を失ってしまったんだ。それはそのまま、解放軍が弱体化してしまったことを意味する。
軍の運営なんて難しいことは私には分からなかったけど、これはすごくマズイ状況なんだろうってことくらいなら理解できた。
何か手を打たないとと焦った私は、ユベロに険しい視線を向ける。
やっぱり彼の首を持っていくしかない。解放軍が第二王子を討ち取ったって知れ渡れば、きっと王国軍の士気はガタ落ちするはずだから。
でも、その前にやることがあった。