その瞬間は、青で飾られた(2/2)
「ねえ、ユベロ、前に私に言ってたよね」
私はお兄ちゃんの肩を叩いていたユベロに話しかけた。
「魔法は神様からの贈り物だ、って。だから私が魔法をもらえたのにも、ちゃんと意味があるんだ、って」
私は周囲を見つめた。
さっきまで敵対していた王国側の兵と解放軍が、今ではこれから築かれる明るい未来を共に喜んでいる。
これは私が見たかった光景そのものだった。
今なら分かる。私の力は彼らの――そして、私が願ってやまない希望を実現するためのものなんだ、って。
「神様はこの国を正しい姿にするために私に魔法をくれたんだよ! だから神様の代わりに私が宣言する。この国の王に相応しいのはユベロなんだって!」
私はいつの間にか叫んでいた。
異変が起きたのは、その瞬間のことだった。
晴れ渡った空から、一輪の青いバラが舞い降りてきた。
それは一度では終わらなかった。ひらりひらりと、まるで雨のように空からバラが降ってくる。
そんなあり得ないはずの光景を見た皆は息を呑んでいた。
「奇跡だ」
誰かが呟いた。
「そうだ、これは奇跡だ」
「青いバラは神様しか降らせることができないんだ」
「ナディアの言葉に、神も賛同しているんだ!」
途絶えていた喜びの声が再び爆発した。解放軍側からも王国側からも「ユベロ様万歳!」という声が聞こえてくる。
神様からの止むことのない祝福が降り注ぐ中、皆の心はいよいよ一つになっていた。
「……こういうことだったんだね」
本当の平和がどんなものか、私は身をもって体感していた。今ここにいる人たちは、争いからはほど遠いような心地になっている。
いずれはこの国に生きる全ての人をこんな気持ちにさせてみせるんだ。そのためにユベロは王様になる。
私の役目は、そんなユベロを支えることだ。
「じゃあ、帰ろうか」
私は温かな気持ちで提案した。
「嬉しいことの後には、祝宴を開くんでしょ? 解放軍でもいつもそうしてたもんね」
「ボクは宴の準備なんてしていないぞ」
お兄ちゃんが気まずそうに言った。
「こんなことになるなんて思ってなかったから……」
「別に今すぐにお祝いしなくても良いと思うよ」
ユベロが笑顔で言った。けれどすぐに真剣な表情で付け足す。
「それからね。もう一つ言っておきたいことがあるんだけど、良いかな?」
「……何だよ。今さら『さっきの宣戦布告は撤回します』とか言うんじゃないだろうな」
「違うよ」
ユベロは軽く首を振りながら、私に向き直った。そして、真っ直ぐにこちらを見つめて「君に言いたいことがあるんだ」と言った。
「ナディアさん、僕と結婚してくれない?」
まさかの発言に私は固まった。お兄ちゃんの笑顔が凍り付く。
「君のことが好きなんだよ。僕はこれからもナディアさんと一緒にいたい。だから……」
「待って、ユベロ! ダメ!」
私は慌ててユベロの口を塞いだ。
「何考えてんの!? ここは聖都なんだよ! 嘘とか吐いちゃダメなの、知ってるでしょ!? なのに、私のことが好きとか言うなんて! か、神様が怒っちゃう……!」
私は恐々上空を見上げた。
けれど、澄んだ空には特に異変はない。先ほどと変わらずに、ずっと青いバラが降り注いでいる。
「ナディアさん、僕は嘘なんて吐いてないよ」
自分の口から私の手を引き剥がし、ユベロがかぶりを振った。私は「何で……?」と呆ける。
「だ、だって政略結婚なんでしょ……?」
「それはそうだけど、でも、さっき伝えた僕の気持ちは本当なんだよ」
ユベロは先ほどと同じ真剣な顔で私を見る。心臓が大きく跳ねるのを感じた気がした。
「ナディアさん、僕は本心から君が好きなんだ。だから結婚してください」
その嘘偽りのない言葉は、真っ直ぐに私の胸の中に染み込んできた。
ユベロは本当に私を思ってくれているんだ。神様の手を借りないとそんなことにも気付けなかったなんて情けないけど、ユベロが自分と同じ気持ちだったと知って、私の体は熱くなった。
「もちろん良いよ」
泣きたいような笑いたいような心地で、私は大きく頷いた。
「私もユベロのこと、好きだから」
ユベロの口元が緩んだ。対照的に、今までのやり取りを聞いていたお兄ちゃんは膝から崩れ落ちる。
「ナ、ナディアが結婚なんて……!」
お兄ちゃんは髪を掻きむしりながら、パニックに陥っていた。
「そんな、そんな……!」
「落ち着いて、義兄上」
ユベロは冗談めかしてお兄ちゃんの背中をさすった。
「事後報告で申し訳ないんだけど、妹さんを僕にください」
「ああ、どうしよう……! どうしよう!」
お兄ちゃんはユベロの言葉なんか耳に入っていないみたいだ。私とユベロは顔を見合わせて苦笑いする。
「私もユベロの身内に結婚のご挨拶、した方が良いかな?」
「呑気なことを」
怨念のこもった声にハッとなって振り返った。表情の抜け落ちた顔でルシウス王子がこっちを見ている。




