認めたくないけど、恋をしてしまった(1/1)
「はあ……」
ユベロが私にプロポーズしたのは政略結婚のためだった。
そうと分かった日から、何となく調子が出ない毎日だった。今もこうして、部屋のソファーにぼんやりと腰掛けながらため息を吐いちゃってる。
何か良い知らせでもあれば気分も晴れるかなって思ったけど、全然そんなことはなかった。だって、解放軍から『和平交渉に応じる』って知らせが届いたって、大して嬉しくもなかったから。
でも、喜びはしなかったけど、意外には思った。お兄ちゃん、絶対に『王族と和解なんかできるか!』って言い出すと思ってたんだもん。一回使者を出したくらいじゃ良い返事はもらえないだろうって考えていただけに、この反応は予想外だ。
――幸先の良いスタートだね。
解放軍と話し合いができると分かり、ユベロはほとんど有頂天になって和平交渉のための準備に邁進していた。きっとそのせいだろう。私が日に日に暗い気持ちになっていくのに気付いていないのは。
「政略結婚なんて……王族とか貴族間だけの話だと思ってたのに……」
よく知らないけど、ああいう人たちのほとんどは、親から『この人と結婚しなさい』って言われた人と結ばれるしかないんでしょう?
だから一回も会ったことのない人とか、少しも好きになれそうもない性格の人とも夫婦にならないといけないんだ。
そんなの私だったら絶対に納得がいかない。貴族たちってどうしてそんな変なことをしたがるんだろうってずっと考えてたのに、それがまさか自分の身に起こるなんて……。
少なくともユベロは一回も会ったことがない人じゃないし、性格も嫌いじゃない。
でも、ユベロは別に私を好きでも何でもないんだ。なのに私は……認めたくないけど、多分ユベロに恋してしまった。変なことだって分かってるけど、それが事実なんだからどうしようもない。
「片方だけが相手に恋してるような夫婦なんて……。やっぱりおかしいよね」
ユベロも私を好きになってくれたら良いけど、あいにくと私にそんな魅力があるとは思えない。第一、印象が最悪すぎる。『君の首をもらう!』なんて言ってきた人を好きになるなんて、狂気の沙汰だ。そんなこと、あるわけない。
「ああ、私、どうしたら良いんだろう……」
私が王族に恋なんて! 和平交渉が上手くいけば何かは変わるかもしれないけど、それでも少し前まで敵だった相手を好きになってしまったとお兄ちゃんが知ったら、どんな反応をするんだろう。
「そもそも、王族と平民のカップルなんて上手くいくの……?」
考えれば考えるほど不安の種は尽きない。
聖都へ出発する日までもう時間がないのに、私の気はどんどん重くなっていくばかりだ。こんなことじゃ、和平交渉の場で上手くお兄ちゃんを説得できるのかも分からない。
大体、王族との結婚なんて、お兄ちゃんが絶対に許さないだろうし……。
「あっ……」
お兄ちゃんのことを考えたとき、私の頭にもう一人の家族の顔が浮かんできた。
「イスメラルダお姉ちゃん……」
ルシウス王子の恋人って噂されるくらい、二人は仲が良いんだ。お姉ちゃんは平民で、ルシウス王子は王族なのに。って言っても、ルシウス王子はそのことを認めてないんだけど。
「お姉ちゃんに聞けば……色々分かる……かな?」
そんなふうに考えてみたけれど、よし、じゃあ行ってみよう! とすぐさま行動を起こす気にはなれなかった。
だって私、前に会ったときにお姉ちゃんの機嫌を損ねちゃったから。私がルシウス王子を悪く言ったせいだ。
今はあれはちょっと言い過ぎだったかなって反省してるけど、お姉ちゃんはまだそのことを怒っていて、私に会ってくれなかったらどうしよう……?
悪い想像のせいで二の足を踏んでしまい、結局その日はお姉ちゃんのところへ行くことができなかった。
でもそれから何日も経ち、出発の前日にユベロからこんなことを言われてようやく決心がつく。
「ナディアさん、僕、聖都で君との結婚を誓うよ」
朝食の席での言葉に、私は飲んでいたスープを吐き出しそうになった。
「これで王侯貴族と平民の行く末は安泰だね。そう思わない?」
私と食卓を囲んでいたユベロは、晴れやかな顔でパンにジャムを塗っている。私が顔を引きつらせているのには気付いていないみたいだ。
聖都での誓いは破れない。つまり、そこでプロポーズされて私が了承しちゃったら、私たちの結婚は確定してしまうっていうことだ。
ユベロはすっかりその気みたいだけど、私はまだ何の覚悟もできていなかった。
これはもう迷っている場合じゃない。すぐにでもお姉ちゃんに会って、王族との親密な関係の築き方を聞きにいかないと!
そう決めた私は前回と同様に、お昼にルシウス王子が離宮を空ける隙を見計らって、お姉ちゃんの元へこっそりと向かうことにした。




