退屈なお茶会と恋の自覚(1/2)
「本日のお召し物も大変よくお似合いですこと」
「あら、そちら様も」
優雅な楽曲が流れる王宮の庭に、貴婦人たちの歓談の声が響いている。
今日は国の創立記念日だった。街では祭りが開かれ、王宮でも朝から宴が開催されている。普段は宮廷に伺候していない貴族たちも招かれていて、皆ここぞとばかりに飾り立てた格好で参加していた。
「近頃いかがですか?」
「まずまずといったところですな」
誰もが当たり障りのない会話でにこやかに振る舞っている。その付け入る隙もないくらいの『平穏さ』に、僕はいつもながらに辟易せずにはいられない。
第二殿下はどうです? と尋ねられても、真面目に答えるのがバカらしくなって「別に」と適当に返事してしまう。僕のぶっきらぼうな答えを聞いた貴族は「まあ」と口元に手を当てて、どこかへ行ってしまった。
「そう言えば先月、うちのブドウ畑が平民どもに荒らされましてな」
「あら、わたくしの別荘もですわ!」
でも、一見して何を考えているのか分からない貴族たちが感情を露わにする瞬間もある。
「まったくひどい連中だこと。この国の支配者を何だと思っているのかしら?」
「まるで害虫ですな。奴らをいつまでものさばらせておけば、我々は迷惑を被るばかりです」
皆平民を口汚く罵っては不愉快そうに眉をひそめている。こういう表情をしておかないと逆賊の肩を持っていると思われ、貴族社会で鼻つまみ者になってしまうからだ。
と言っても、ここに集まっている貴族の中で平民を無害だって思ってる人なんて一人もいないんだろうけど。
「いやはや、本当に嘆かわしい」
チャニング大臣も皆の言葉に同意する。
「まさに獣ですな。第一殿下のおっしゃるとおりです」
大臣は自分の傍で紅茶を飲んでいた兄上に話しかけた。
水を向けられた兄上はカップをソーサーに置いて口を開く。
「確かに平民は獣だ」
兄上は周りにいた貴族たちを堂々と見回した。第一王子の威厳たっぷりの態度に、皆がしんと黙る。
「だが、奴らに必要なのは駆除ではなく管理だ。殺すのはほんの一握りの害獣だけでいい」
兄上は青い瞳でじっと僕を見据えた。
「たとえば『魔女』とかな」
「彼女は別に危険ではありませんよ」
僕は思わず反論する。周りの貴族たちがおかしそうに笑った。
「まあ、相変わらず第二殿下は面白いご冗談ばっかり!」
「魔女は大罪人ですよ。我々から魔法を盗んだのですから」
僕が離宮にその『魔女』をかくまっているなんて知らない皆は、好き勝手なことを言い始めた。
「ユベロ、彼女は危険だ」
兄上が噛んで含めるように言った。
「私はあなたを心配しているんだぞ。平民を庇ったところで、最後には裏切られるに決まっている。それを防ぐためにも、奴らを飼い主の手を噛まない犬にしないといけないんだ」
「ええ、おっしゃるとおりです」
「さすが第一殿下。よく分かっておいでで」
貴族たちはほとんど条件反射で兄上の言うことに賛同した。くだらない、と僕は心の中で舌を出す。
僕は貴族たちからは変わり者だって思われている。彼らみたいに大多数の意見に迎合しないからだ。
でも、昔からそうだったわけじゃない。王宮でたくさんの貴族に囲まれて育ってきた僕は、小さい頃は彼らと同じように振る舞っていた。それが正しいことだって教えられてきたから。
だけど、兄上が平民に大ケガを負わされた一件以来、僕は変わったんだ。
――平民は獣だ。彼らを野放しにはできない。
傷つけられた顔を指差しながらそんなことを言う兄上。一見すると冷静だけど、その心の奥に広がる深い憎悪を感じ取った僕は震え上がった。あの優しい兄上がそんな感情を抱いたなんて、すぐには信じられなかったんだ。
――ユベロもそう思うだろう?
僕はその問いかけに、『はい』とは答えられなかった。
だって本当に怖かったから。
深く考えずに兄上の言葉を肯定したら、彼の暗い憎しみの沼に足を取られて僕もそこで溺れ死ぬ運命が待ってるって直感したんだ。
そして、それを防ぐためには、何が正しいことなのかまずは自分の目で見極め、頭で考えてみないといけないんだっていう結論を出した。
そういう視点に立ってみれば、他の貴族はもう僕の目には愚かな人たちとしか映らなかった。同じ音楽だけを垂れ流すオルゴールみたいだ。決まった回答の他には口にすることは許されないんだから。
「私の意見に理解を示してくれるのなら、大臣たちも平民から行き過ぎた搾取をするのはやめてくれ。あなた方が新たに立ち上げようとしている法律の草案に目を通したが、あれはかなりひどい内容だ」
兄上は給仕係が注いだ二杯目の紅茶を困り顔で口に含む。
「彼らを飢え死にさせるつもりなのか? 手当たり次第に獣を屠畜場送りにしていたら、取り返しがつかないことになるぞ」
「そうは申しましても、加減が難しくてですねぇ」
「いやはや、生かさず殺さずというのは本当に大変ですな」
「まあ、細かい調整は今後の課題とするということで」
大臣たちはそう言って笑っている。兄上は「まったく……」と言いながらも、彼らがこれから態度を改めるという可能性を本気で信じているらしく、それ以上は注意しなかった。
どうして兄上は変なところでお人好しなんだろうと僕は苛立つ。




