プロポーズの理由(3/3)
「これで話し合いが上手くいけば、戦いも終わるんだね」
すごく恥ずかしいことを考えてしまっていると気が付いて、私は頬を押さえながら話題をそらした。
ユ、ユベロのことを異性として特別視してるなんて……! そんなこと、あるわけないじゃない!
私の様子の変化に勘付いていないのか、ユベロは「そうだね」と応じる。
「ナディアさんも話し合いの場に同席してくれるよね?」
ユベロに尋ねられ、私は「分かった」と言った。
私を連れて行った方が良いっていうユベロの判断は、正しいと思う。だってそうでもしないとお兄ちゃん、交渉の場に立とうともしないはずだから。
ユベロは私の答えに満足そうな顔になりながら続けた。
「でも、話し合いが終わっても平民と貴族の融和を進めるために手を打たないといけないね。解放軍のリーダーの親族と王族との婚姻の他にも色々とやることが……」
「ちょっと待って」
それまで身を乗り出してユベロの話を聞いていた私は、唐突に顔を引きつらせた。
「ユベロ……今何て言ったの? 『平民と貴族の融和のための婚姻』っていうふうに聞こえたけど……。それってどういうこと?」
「どういうことって……。ああ、そうか。説明がまだだったね。ナディアさん、僕の話を全然聞こうとしなかったから……」
ユベロは苦笑いしながら続ける。
「僕、言ったでしょう? 『結婚して欲しい』って君に。僕たちが結婚すれば、それは王侯貴族と平民の和解の象徴になるってことだよ」
「そ、そう……」
段々と息をするのが苦しくなっていく。声の震えを止めたくて、私はドレスのスカート部分をぎゅっと掴んだ。
ユベロのあの発言に、そんな意図があったなんて。
てっきりユベロは私のことが好きだからプロポーズしたのかと思ってたのに……。勘違いだったんだ。ただ平民と王族が仲直りしたっていう証明に、私を奥さんにしたかっただけだった。いわゆる政略結婚ってやつだ。
胸の奥に小さな亀裂が入ったような痛みを感じて、私は戸惑った。何なの、これ。思い違いしてたことが発覚して恥ずかしくなっちゃったのかな?
そんなふうに思ってはみたけれど、そうじゃないことはちゃんと分かっていた。頭の中に『失恋』という言葉が真っ先に浮かんでくる。
「早速、解放軍に使者を送るよ」
どん底の気持ちになっている私に対し、ユベロは上機嫌だった。そのせいで、私の暗い顔なんてまったく見えていないような様子だ。
「話し合いの日も決めないといけないし、捕虜の皆を解放する準備もいるよね。その日までに皆の怪我が治ってるといいんだけど。僕の権限で動かせるだけの兵も動かして……」
私は明るい未来への計画を練るユベロの話をぼんやりと聞いていた。さっき考えてしまった『失恋』という単語が、頭の中で駆け巡っている。
これが『失恋』なら、私、ユベロに恋してるの? ちょっと前まで殺したいって思ってた相手に?
そんなのって……おかしくない?
「ねえ、ナディアさんもそう思うよね?」
「う、うん……」
自分の本心に気が付いてしまい動揺を隠せなくなった私は、聞いてもいなかったユベロの言葉に、曖昧に頷いてみせるしかなかった。




