プロポーズの理由(2/3)
「あれ、大臣たちだよ」
ユベロが窓の外に目をやりながら言った。
「あんなふうに、しょっちゅうお小言ばっかりなんだ。よっぽど僕のことが気に入らないんだろうね」
ユベロは肩を竦める。私は「どうして会議を盗み聞きしたの?」と尋ねた。
「また大臣たちが平民に不利な法律を作ろうとしてるんじゃないかなって思ったからだよ」
ユベロは唇の端を曲げる。
「でも、盗み聞きするだけでそれ以上のことは……。僕には法案を却下するような権限はないからね」
平民を守るために、ユベロは苦悩しているらしかった。私は胸の内に熱いものが広がっていくのを感じながら、先ほど部屋で見たものを彼に話して聞かせる。
「青いバラが!?」
ユベロは飛び上がって驚いた。
「そんな……! 現実にそんなことがあるなんて!」
ユベロは動転した気分を落ち着けるように、辺りをウロウロと歩き回り始めた。
「天から青いバラが降ってきたのは、後にも先にも一度きり。神様が僕たちに魔法を与えたときだけなんだよ。あのときは戦争で国が危機に陥っていた。今もそれと同じくらい危ない状況ってこと……? 放っておいたら国が滅びるかもしれない、って」
「でも、助かる方法はあるよ」
私は力強く言った。ユベロが頷く。
「ナディアさんが和平のことを考えたら、バラが現われた。っていうことは、和平は神様の意思でもある……」
どうやらユベロも私と同じ見解らしい。そして、私の方を見てニッコリと笑った。
「ナディアさん……僕の言ったこと、受け入れてくれる気になったんだね。嬉しいよ」
ユベロの心からの微笑みに、私は気持ちが高ぶっていくのを感じずにはいられない。彼が嬉しいと私まで嬉しくなってしまうのは何でなんだろう。胸の鼓動まで変に速くなってしまったみたいだ。
「でも、問題はどうやってそれを実行に移すかじゃない?」
私は心臓の音を意識しながら話を先に進める。
「急に仲直りしようなんて言っても……多分聞いてくれないよ。貴族も平民も。だってそんな話、信じられないし……。罠だって思われちゃう」
「それなら良い方法があるよ!」
唸る私とは対照的に、ユベロは目を輝かせている。
「ナディアさんがバラのことを言ったときに思い付いたんだ! 聖都だよ! そこで解放軍と話し合いをすれば良いんだ! 解放軍は平民の不満が形となって現われた組織。だから彼らを説き伏せられたら、平民たちだってきっと納得してくれるよ」
ユベロはすっかり興奮していて、私が口を挟む暇もないくらいのスピードでペラペラと話している。
「それで、その話し合いの場には聖都が一番良い理由なんだけど……。聖都は昔の首都。青いバラが降ったって言われる神聖なところ。そこでの争いは禁止されている。それだけじゃない。聖都で立てた誓いは必ず守らないといけない。もし破れば、神の怒りを買ってしまうから……」
一息に言って、やっとユベロは口を閉ざした。私は彼の言いたいことを理解して大きく頷く。
「聖都で話し合えば、ユベロの和平を願う気持ちが本物だって皆に伝わるってことだね。だって、神聖な場所で嘘をついちゃいけないから。でも……」
私は首を捻る。
「そんなところで話し合いをするなんて、王宮の人たちが許さないでしょ? 大臣とか、ルシウス王子とか……」
私はルシウス王子の強情さや、ユベロを軽視している大臣たちのことを思い出す。
「だってそこで『平民と王侯貴族は仲直りします』なんて宣言しちゃったら、あの人たちもそれを守らないといけなくなるから。絶対に嫌だって言うよ」
「だろうね」
ユベロも私の意見に賛成みたいだ。でも、全然落ち込んだふうじゃない。
どうしてだろうと思っていると、彼は意外なことを言い出した。
「だから、許可なんか取らないよ。つまり、彼らを出し抜くんだ。兄上たちには内緒で解放軍に使者を送って、聖都で話し合いをするって知らせる。それで、王宮の人たちに何が起きているのか察知される前に平和の誓いを立てちゃうんだよ」
「ユベロ……」
そんなの、バレたら大変なことになるのに、彼は本気だった。
聖都で和平交渉を行うっていうことにしてもそうだ。そこで交わした約束は破れない。ユベロの平和への願いは、口先だけのことじゃないんだって私は改めて実感した。
ユベロを知れば知るほど、私の中から彼に対するトゲトゲした気持ちが消えていく。確かに王族や貴族は好きじゃないけど、ユベロのことはそんなに嫌いじゃない。
って言うよりむしろ……。




