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神に祝福された平民の彼女は、仇敵の王子の求婚から早く逃げたい  作者: 三羽高明


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プロポーズの理由(1/3)

「どうしたら良いんだろ……」


 部屋のベッドに手足を投げ出して、私は宙を見つめていた。


 ルシウス王子をどうにかしないと、私や解放軍の皆の命が危ない。


「ルシウス王子より先にユベロが解放軍と戦って、皆を捕虜として『保護』してもらうとか……?」


 自分で言っておいて無理だと分かる。勝手に軍を動かしたらユベロが罪に問われてしまうかもしれない。


 ……いや、なんで私、敵の心配をしてるの?


 知らず知らずのうちにユベロに肩入れしつつある自分に気が付いて、私は狼狽えた。


 でも、それと同時に『本当に敵なの?』という心の声が頭の中に響く。


――だって怪我人は手当てするなんて、普通のことでしょう?


――彼らを獣扱いするのはやめてください。


――いつかはきっと見つかるよ。君のその力の意味が……。


 私はユベロの言動を一つ一つ思い返す。私は認めたはずだった。ユベロは王族の中ではマシな方だって。


 ……それってつまり、敵じゃないってこと? 少なくとも、ユベロは私と敵対したくないと思ってるみたいだけど……。 


――貴族や王族は悪だ! 奴らを許すな!


 でもそんなふうに思った途端に、お兄ちゃんの姿が脳裏に蘇ってくる。私は目を固く瞑った。


 今の私を見たら、お兄ちゃん、何を感じるだろう? 悲しむかな? それとも怒っちゃう?


 どっちにしろ、考えただけで気が重くなってしまうような光景だ。


「お兄ちゃんはいつだって正しかったのに……私、何やってんの?」


 どこまでも沈んでいく気分を持て余し、私は額を指先で叩いた。


「敵と仲良くするのって……ダメなことなのかな?」


 そう呟いた私は、ユベロのある言葉を思い出した。


――平和的解決を図りたいって考えてるんだよ。


「平和的解決……和平、だっけ」


 私は唸る。


 平民と王侯貴族が争うのをやめて仲良くすること。ユベロの意見を初めて聞いたときも思ったけど、そんなことってできるのかな?


「……いや、やらないと、なのかな」


 私はルシウス王子の傷だらけの顔を思い浮かべる。あれは平民の残虐性の現われだ。


 それだけじゃない。解放軍だって惨いことをしてきた。たとえば占拠した館に取り残されていたあの貴族の少年についても、今思えば残酷な目に遭わせてしまったように感じられる。いくら私が危険にさらされたからって、殺しちゃうなんてあんまりだ。


 もしあの少年の知り合いが、彼の身に起きたことを知ったら? それで平民を憎んで、ますますこっちを迫害するようになったとしたら?


 そうなったら私たち、自分で争いの種をまいたことになってしまう。ここまで来ると、もうどっちが悪いとかの問題じゃなくなってくるんじゃないかな?


「……和平、やってみないと」


 私はそう囁いた。


 異変が起こったのはそのときだ。


 天井からふわりと何かが降ってきたんだ。手のひらに収まるくらいの小さなそれを、私は信じられない気持ちで凝視した。


「こ、これって……」


 私は目をこする。『それ』は、ベッドのシーツの上に落ちた瞬間に消え去った。


 でも、私の見間違いじゃなかったらその正体は……。


「バラの花……だった。青いバラ……」


 心臓が激しく鼓動するのを感じる。


 青いバラが空から降ってくるなんて普通はありえない。だってその花は神様の奇跡を象徴しているもの――つまり、神様にしか降らせることのできないものだったから。


 そんな青いバラが私の目の前に現われた? どうして?


 しばらく頭を悩ませた私はもしかしてと思う。


「私が……平民と貴族は和解するべきって思ったから? それが神様の望みってこと?」


 他に何が考えられるんだろう。私はベッドから飛び降りて、廊下に出る。


「ユベロはどこ!?」


 近くを歩いていた使用人に尋ねる。


「王宮だと思いますけど……」


 使用人は私の必死な顔に面食らいつつもそう言った。


「でも、出て行かれたのは随分前ですし、もうすぐ帰ってくると……」


 言った傍から庭に馬車が止まる音がした。私は思わず窓から身を乗り出す。


「殿下、二度とこのようなことは起こさないでいただきたいものですな」


 馬車から降りたユベロは、何人かの男の人たちと一緒だった。


「今回の会議は大臣のみで行うことになっていたのです。殿下は参加資格をお持ちではないのですよ」


「まったくです。会場でもそう言ったはずなのに、廊下につまみ出されるやいなや今度は盗み聞きをするなど、王族としての品位に欠けた振る舞いですぞ」


「先の戦いでも指揮官の許可なく勝手に行動を起こしたとか。まるで訓練もされていない平民のような行いですな」


 どうやらユベロは男の人たちに責められている真っ最中のようだ。


 それにしても嫌な感じ! 皆いかにもふてぶてしそうな顔してるし、第二王子だからってユベロのこと小バカにしてるんじゃないの? って言いたくなるような態度じゃん。


 ちょっと痛い目見せてやろうと、私は指で小さく空気を弾くような仕草をした。


「ああ、嘆かわしいことです。教育係は何を……ぉぉおおおっ!?」


 突然足元の芝生が輪っか状に結ばれて、男性の一人がそれに引っかかって転んだ。その拍子に履いていた靴が飛んでいき、頭に当たって近くに転がり落ちる。


 私はその場にしゃがみ込んで口の中に拳を入れ、懸命に笑いを堪えた。イタズラ大成功だ。


 しばらくすると廊下に足音がした。男性たちは帰っていったようで、ユベロが一人でこっちに向かって歩いてくる。


「お帰り」


 私はニヤつきながら挨拶した。ユベロも何かを察したように、「ただいま」と笑い返す。

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元になった作品です。(ネタバレ注意)
神は青で平和を望む少女を祝う(短編版)
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