残ったものは、憎悪と傷跡(1/2)
それでもまだ負けを認めたくなくて、私は必死の思いで反論した。
「でも、皆が皆じゃないでしょ?」
私は眉をひそめる。
「ほとんどの貴族や王族は悪い人のはずだよ。……たとえばルシウス王子!」
これは良い発見をしたと思い、私は全力で彼の悪いところを挙げていく。
「平民は獣なんて言う人が良い人なわけないもん! お姉ちゃんのことだって真実を認めようとしないし、顔にはいっぱい傷がついてて怖いし……」
「容姿は関係ないと思うけど……」
「あるよ! 大あり!」
私は大きく首を振った。難癖をつけてるって自分でも分かっていたけど、少しでもルシウス王子の悪い点をあげつらって彼を批判してやらないと気が晴れなかったんだ。
「さっきユベロは『ついている地位にふさわしい姿をしていないといけない』って言ったでしょ? あれが第一王子の顔なの? あんな顔の人が王様になんかなったって、絶対に誰も言うこと聞かないよ! 特に平民からの評判は最悪に決まってる! それとも、『獣』の反応なんてどうでも良いと思ってるの?」
「……どうかな」
ユベロは聞いたこともないくらい冷めた声をしていた。気色ばんでいた私はハッとなる。さすがに言い過ぎたかもしれない、と反省した。
私だって、お兄ちゃんをバカにされたら良い気はしないもん。仲の悪い兄弟ならともかく、自分を愛してくれている人を侮辱されたら、怒ってしまっても不思議はなかった。
「……ごめんね、ユベロ」
私は小さな声で謝った。
「あの……私、頭に血が上っちゃって……」
「……良いよ、別に」
私の声があんまりにも頼りなげだったからなのか、ユベロは普段通りの穏やかな顔になっていた。
もう口も利いてくれなくなってしまったらどうしようと思っていた私は、胸をなで下ろす。
「……確かに兄上は、あんまり良い人じゃないかもね」
私が素直に非を認めたのと同じように、ユベロも正直に兄の言動を非難した。
「ユベロ……ルシウス王子が平民のこと獣って言うの、嫌がってたもんね」
私は、捕虜たちの様子を見に来たルシウス王子とユベロが口論していたことを思い出した。
もう認めた方が良いかもしれない。ユベロは王族の中でもマシな方だ。……少なくともルシウス王子よりは。
「何でルシウス王子はあんなひどいことが言えるんだろう。平民を獣だなんて……」
「……ねえ、ナディアさん」
ユベロは少し声を落として呟く。
「君は貴族が悪だって言ったよね。でも……それなら、君にとっての正しいものって何?」
「私にとっての……?」
何のことを言われているのか分からずに、私は呆けた。
「それはもちろん解放軍でしょ。それに、虐げられてる平民。どう考えたって、正義はこっち側にしかないよ」
「……本当にそうだって言える?」
ユベロはいつになく真剣な顔をしていた。私の目をじっと見つめてくる。その澄んだ青い色に魂の奥底まで見透かされているような気がして、何にも悪いことなんかしていないはずなのに、何故か私はギクリとなった。
「ナディアさん……正直に言えばね、僕は全部の貴族が悪いと思ってないのと同じように、平民が良い人の集まりだとは思ってないんだよ」
ユベロがため息を吐いて、ルシウス王子が去っていった方を見つめた。
「ナディアさん、さっき言ってたよね。兄上は傷がいっぱいついたひどい顔をしてる、って。……あれね、平民にやられたんだよ」
「平民に……?」
思ってもみなかったことを言われ、私はたじろいでしまう。
「いつ? どこで? もしかして戦場とか?」
「ううん。王族が避暑地として使ってた小さい離宮だよ。ずっと昔……兄上がまだ十歳にもなってない頃だね」
「……何があったの?」
聞きたいような聞きたくないような気持ちで私は尋ねた。ユベロは視線を落として床を見つめる。多分、これは彼にとっても気軽に話したくないような出来事なんだろう。




