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神様は何のために私に魔法をくれたの?(1/1)

 次の日、水色のドレスに身を包んだ私は顔をすっぽりと覆うデザインの仮面をつけ、ユベロと一緒に馬車に揺られていた。


 とは言っても離宮から王宮まではそんなに離れていないらしく、思ったよりも早く到着した。


 それでも馬車を使ったのは、多分、王族や貴族はあんまり自分の足で歩いたりしないってことなんだろう。身分の高い人って面倒くさがり屋なんだなあ。


 王宮の庭先に止めた馬車から降りる。その途端に、私は「わあ……」と声を漏らした。


 美しく剪定せんていされた木々や、季節の花でいっぱいの花壇。芝生は青々としていて、そこから太陽の匂いが立ち上ってきそうだ。


 予想以上に素晴らしい眺めに、私はうっとりとしてしまった。


 でも一番驚いたのは、奥の池のほとりに、ある生き物がいたことだ。


「あれって……ペガサス?」


 池の水を飲んでいるのは、羽の生えた馬だったんだ。目の覚めるような白い体で、瞳は鮮やかな青い色をしている。


「本当にこんな生き物がいるんだね……」


 ペガサスはとても珍しい生物で、普通は山奥とかにしか住んでいない。


 それでもその存在は皆が知っていた。だってペガサスは『聖獣』とも呼ばれ、国民に愛されていたから。その碧眼が、神様の奇跡の象徴である青いバラを連想させるんだって。


「運が良いね、ナディアさん。たまに王宮の庭に遊びに来る子で、いつもいるわけじゃないんだよ」


 ユベロがはしゃぎながら教えてくれる。


 生まれて初めてペガサスを見た私も、ちょっとした興奮を覚えていた。あの真っ白な毛並みはどんな感触がするんだろうという好奇心を抱かずにはいられない。


 どうしても確かめてみたくなって、私はソロソロとペガサスに近寄った。


「ナ、ナディアさん!?」


 ユベロはぎょっとしたようだ。そして、必死で私を手招きする。


「ダメだよ! ペガサスって、綺麗な見た目に反して意外と気性が荒いんだ! 下手に近づいたりしたら蹴飛ばされるよ!」


 そう注意を受けたときには、もうペガサスの息づかいが伝わってきそうな距離まで来ていた。


 私は腕を伸ばし、その体にそっと触る。ユベロが「ああ……!」と悲鳴みたいな声を上げて、両手で顔を覆った。


 でも、彼の心配したような悲劇は起こらない。私が体を撫でてあげても、ペガサスは大人しくしていたんだ。


「ふふふ……ツヤツヤな毛並みだね」


 柔らかな毛の感触に、私は微笑む。ユベロが目と口を丸く開けながらこっちへ近づいてきた。


 途端にペガサスは空の彼方へと飛び去ってしまう。私は名残惜しい気分で「またね」と手を振った。


「ナディアさん……すごい」


 ユベロはまだ口を開いたままだ。


「あんなに簡単にペガサスを従えちゃう人、初めて見たよ」

「そうなの?」


 私は首を傾げた。従えるも何も、私、全然変わったことなんてしてないのに……。


 でも、ユベロはそうは思わなかったらしい。


「ナディアさん、きっと君は特別な人なんだね」


 ユベロは大きく頷いている。


「ペガサスは聖獣。その聖獣に認められたってことは、神様に認められたのと同じだよ!」


 ユベロの瞳は輝いていた。


 ユベロの目もペガサスと同じ青色だ。私はふと、彼は触ったらどんな感触がするんだろうと思ってしまう。


 ……いや、もう知ってるか。昨日、エスコートしてもらったときに手を繋いだんだし。


 そんなことを考えたら、猛烈に恥ずかしくなってきた。私は口を尖らせて座り込む。


「神様から認められたら、何か良いことあるの?」


 私は自分の手のひらをじっと見つめた。


「だって、魔法も神様からの贈り物なんでしょう? 普通は貴族しか持たないはずの特徴。でも、私やお兄ちゃんは平民なのに魔法が使える」


 私はため息を吐いた。ペガサスに出会ったときの高揚感は、すっかり引いてしまっている。


「そのことを貴族たちが何て言ってるのか、私、ちゃんと知ってるよ。私たち、魔法を盗んだ泥棒扱いなんでしょ? しかも私なんか『魔女』って呼ばれてるし……」


「それは間違いだよ!」


 濡れ衣なのに、と言おうとした私は、かけられた声の真剣さにハッとなった。


 ユベロは硬い表情で私の手を取る。


「『魔法を盗む』なんてできるわけないじゃないか。君もお兄さんも泥棒なんかじゃないよ。君たちが魔法を使えるのは、神様が君たちを選んだからだよ」


「……私たちを?」


 私は自分が魔法を使える意味なんて今まで想像したこともなかったから、そんな考え方もあるってことにとても驚いていた。


「ナディアさん、知ってる? どうして貴族が魔法を使えるのか」


 ユベロからの質問に私は首を横に振った。


「ずっとずっと昔ね、この国は外国から攻められて滅びそうになっていたんだ」


 ユベロは歴史の先生みたいな口調で話を始めた。


「皆がもうダメだと思った。でも、最後まで諦めなかった人たちがいた。それが神官、つまり、神様を信じる人たちだったんだ」


「神様を……? 助けて欲しいって、お祈りしたってこと?」


「そのとおり。そうしたらね、奇跡が起きたんだよ」


 ユベロが空を見上げた。


「天から青いバラが降り注いだんだ。そして、神官たちには特別な能力が備わった。魔法のことだよ。それで、その力で国を守ったんだ」


 ユベロは魔法でバラの花を出してみせる。それは白い花だったけど、私にはそこに青い色がついているのが見える気がした。


「今の貴族や王族は、その神官たちの子孫なんだ。だから僕たちは魔法が使える。神様がこの力で国を守りなさいって与えてくれた加護が、今も血の中に生き続けてるんだよ」


 ちゃんとした歴史のお勉強なんてしたことがなかったから、こんな話は初耳で、私はいつの間にか身を乗り出していた。


 魔法は神様からの祝福ってこういう意味だったんだ。国を守るための力。自分たちの盾となり武器となるもの。


 決して、貴族だけが特別っていう証じゃなかったんだ。


「じゃあ……私の魔法は?」


 私は胸の奥が熱くなるのを覚えながら尋ねた。


「神様は何のために私に魔法をくれたの?」


 悪い貴族をこらしめるため? それとも……何か他の意味があるの?


「それは僕には分からない」


 ユベロは静かに首を振った。


「でも、いつかはきっと見つかるよ。君のその力の意味が……」


 ユベロの言葉に私は頷いた。


 そうだと良いなと思ったし、見つけないといけないとも思えてきた。それで、この力を正しく使わないといけないんだ、って。


 ああ、やっぱりユベロって不思議な人だ。


 王族なのにこんなにも私の心に入り込んでくる。彼の話なら耳を貸しても良いかなって思っちゃうのはおかしなことなのかな?

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元になった作品です。(ネタバレ注意)
神は青で平和を望む少女を祝う(短編版)
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