お手をどうぞ、お嬢様(2/3)
「わあ……」
私は思わず口元を押さえる。部屋にたくさんの女性の使用人が入ってきたんだ。
しかも、彼女たちはきらびやかなドレスをたくさん手にしていた。アクセサリーや靴なんかもある。
「ナディアさん、気に入ったのがあれば着てみない?」
ベッドの上に次々と服を置いていく使用人を見ながら、ユベロが提案してきた。私は目を丸くする。
「な、何で……?」
「さっき僕、言ったでしょう? 『平民と貴族はもっとお互いを知るべきだ』って。だからまずは、形から入ってもらおうかなと思って」
「か、形から……」
つまり、平民の私に貴族みたいな気分を味わわせてあげようってことなんだろう。思ってもみなかった展開だ。私は綺麗なドレスを見ながら、ゴクリと喉を動かした。
私だって年頃の女の子だ。こういうおしゃれな服装には確かに興味がある。
占領した貴族の館なんかでも高価なドレスはたくさん目にしていたけど、解放軍の人たちはそれを皆売り払って貧しい平民に寄付したりとか今後の活動資金に充てたりしていたから、私がそういう服を着る機会はなかった。
だから憧れっていうのかな? もしこういう格好ができたら楽しいかも、って思ったことはあったけど……。
「で、でも、私、こんなの、変じゃないかな……?」
今まで手が届かないと思っていたものを突然目の前に出されて、私は高揚すると共にちょっと狼狽えていた。
「ほら、私ってあんまり大人っぽくないっていうか、その……解放軍でもガキとかチビとかバカにされてたし……」
「大丈夫だよ。だってこれ、子どもよ……えっと、小柄な人でも着られる服だから」
そう言って、ユベロはレモンイエローのドレスを手に取った。
「ほら、これなんて似合いそうじゃない?」
私は夢見るような目つきでドレスに視線を滑らせる。
ビタミンカラーのミニドレスは袖口や裾がレースで飾られていて、歩く度にひらひらと可憐に揺れそうだ。
それに、襟の辺りには細かい刺繍も施されている。小鳥の形をしていて、とても愛らしかった。
「これ、着ていいの……?」
私は感激でぼうっとなりながら尋ねる。ユベロが優しく頷いて、私は誘惑に負けることにした。
使用人たちの手を借りて、私は生まれて初めてドレスに袖を通した。ヒールのついた靴を履いて、宝石が輝くブレスレットで手首を飾る。
「あら、可愛らしい」
おめかしした私を使用人が褒めてくれた。鏡を見た私は頬を染める。そして、隣室のドアを勢いよく開けた。
「どう?」
そこで待っていたユベロに声をかける。彼は私の姿を頭のてっぺんからつま先まで見つめ、「綺麗だよ」と笑った。
彼の目がキラキラと輝いているように見えて、私はドキリとしてしまう。
……もしかしてユベロが私と結婚したいって言ったのって、変態だからじゃなかったりする?
たとえば……ひ、一目惚れとか!? だから綺麗って言ってくれたのかも……!
そんなふうに考えてしまった私は、恥ずかしくて真っ赤になる。解放軍じゃチビだってバカにされていて、色恋沙汰とは無縁だった私に恋する人が現われるなんて……!
動揺していた私は、ユベロの「離宮の中や庭も案内してあげるね」という言葉の意味もろくに理解しないまま頷いてしまった。