これが美談か醜聞かは君らが決めろ
『四人の勇者が揃いし時。奇跡が起きて悪を討つ』。
彼らはこのオンラインゲームの最難関クエストを何度もクリアしたがいつも感動している。
『シュウト』『SPQ』『f-men』『竜人』の四人のプレイヤーはエンディングムービーを全て見たあとロビーに戻った。
英語でチャットをし、次はいつ集まるろうかとSPQが打つとシュウトはこう返信した。
『僕はもう来ない。目の病気なんだ。来週から入院する。手術はきっと失敗する。僕は失明するだろう。最期に皆と遊べて良かった。僕には友達がいなかったから友達が出来たみたいで嬉しかったよ』
シュウトはそれ以降オンラインロビーに来なくなった。
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『所詮俺たちは名前も顔も知らない話したこともない他人だ。バカを言うなよ。シュウトのジョークかもしれないぜ?』
『そうだ。それに今の世界状勢で日本になんか行ってみろ。家族ぐるみで肩身が狭くなる!僕は嫌だ!』
F-menと竜人はそう言うがSPQはどうしてもシュウトの事が気になった。彼を励ましたい。不安を和らげてあげたい。
確かに今は世界中で感染症が流行にしている中で闇雲に日本に行くのは愚かな事かも知れない。
彼らはシュウトの事は『東京サーバーでゲームをプレイしている』としか分からない。日本人ですらないかもしれない。
SPQはゲームの掲示板でシュウトに呼び掛け続けた。過疎ゲーの掲示板であるここには彼らしかいない。
『シュウト。SPQだ。君が心配なんだ。連絡をくれ。会いたいんだ。僕のメールアドレスは○○○ー○○』
過疎とはいえネットにリアルの連絡先を書き込むSPQを残り二人は半ば呆れて見ていた。
『君はバカだよ』『本当に愚か』
だがイタズラメールとスパムメールの中にシュウト本人と思われる人物からのメールがあった。
『会いたい?ハッ!手術は4日後だ。どうやって会う?君たちが来る頃には僕は盲人になっているよ。来れるものなら来てみなよ。○○病院だ』
SPQは日本の入国ルールを調べて絶望した。
『来日後14日間の待機期間を設ける』。
14日間ホテルから出られないのでは会うことは絶望的だ。だが彼は迷わなかった。
『僕は○○病院へ行く』
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(僕はきっとクビになるな)
SPQはイギリスの現役議員だった。そう考えながらホテルの裏口からこっそり抜け出して病院へ向かった。
『待機期間中の議員がホテルを抜け出して日本旅行を満喫』なんてゴシップ紙に好きな様に書かれてもかまうもんかと走った。
「シュウト。ニホンノトモダチ。ビョウキ。オウエンシタイデス」
病院の受付でそう伝えると『しつこいなぁ。分かったよ。三人とも付いてきな!一定距離は保てよ!』
と男は手招きした。
(三人?)
ソファーに座っていた太った欧米人と細身のアジア人……
『Fーmenかい?』『もしかして竜人?』『SPQなの?』
SPQはマスクの下で笑った。三人の勇者が揃った。
さぁ四人目に会いに行こう。
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シュウトの病室でビニールカーテン越しに話をした。
『お前ら本当に来たのかよ。……いいの?』
『友達の為だ』
『……え?友達なんだ?俺たち?』
『そうだ』『そうさ』
『……ふーん』
シュウトが嬉しそうにしているのがSPQには分かった。
『ガンバレシュウト』
『まぁ友達がそこまで言うなら頑張る事にするかな?早くホテルに帰れよ。捕まっちゃうよ?』
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『四人の勇者が揃いし時。奇跡が起きて悪を討つ』
四人の勇者が揃ったからだろうか?奇跡が起きた。
三人の携帯のGPSが彼らが外出していた一時間だけ不具合が起きていたらしい。
咎めは無かった。
あれから三人は連絡先を交換し、交流を持つようになった。
だがシュウトからは連絡はない。掲示板にもいない。
悪。シュウトの病気は治ったのだろうか?
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三人は今日もオンラインで集まり最難関クエストに挑んでいるがクリア出来そうにはない。
シュウトがいなくなってから一度もボスが倒せない。
『今日もダメか』『参ったね』
『そうだねぇ。おいおい。誰か入ってきたな。こんな過疎ゲーに新規かな?珍しい。……おい二人とも久しぶりにエンディングが見れるぜ』
『『シュウト』がゲームに参加しました』