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子豚王子と花畑の姫

作者: 浅村鈴

ブックマーク、誤字脱字、感想、いつも感謝です!

ランス王国第3王子マックスは王位継承権からも遠い為両親からも周囲からも甘やかされて育ち、11歳になった今は我が儘な子豚王子になっていた。

子豚の様にコロコロしていた。流石にこのまま成長すれば、成人病に突進するだけである。心配した両親は食事制限や運動をさせたが、我儘子豚王子は地団駄を踏みながら嫌がってしなかった。

悩んだ国王夫妻は乳母であるケイナの実家である、カメル子爵に1年間の療養を頼んだ。

家族と旅行に行くのだと嘘を言い、カメル領に行った。はじめての家族での旅行でマックスは嬉しくてはしゃいでいた。屋敷に着いた頃には眠ってしまい、マックスは用意された部屋に寝かされた。両親と兄達はそのまま王宮に帰っていった。

夜目が覚めると部屋には誰も居なかった。両親と兄達は?と周りを見ると枕元に1枚の封筒があった。

マックスは読むと手紙を投げ捨て走った。


愛するマックスへ

このまま王宮に居ては貴方はどんどん病気になります。

だからここで1年間勉強と運動とそして好き嫌いを無くして健康な体で帰ってきてください。

一年後を楽しみにしていますよ



マックスの頭には一つの言葉がぐるぐる回っていた。


捨てられた……と


走り疲れて膝をつくと一面花畑だった。


「ぼ、僕はとう様達に捨てられたんだ」


言葉にした瞬間涙が溢れ出た。悲しくて悲しくて大声で泣いた。

背中に温もりを感じ、顔を上げると自分と同じくらいの、少し汚れた少女が背中をさすってくれていた。


「大丈夫?悲しい事あったの?沢山泣いて良いよ。泣いたらその後笑えば良いよ」


少女は微笑んでくれた。

どのくらい泣いたのだろうか……。泣き止むまで少女は側にいてくれた。

経緯を話すと、少女は言ってくれた。


「貴方は捨てられたんじゃないよ。愛されてるよ。だって貴方を心配して此処に連れてきたんだもん。

此処はね、一年中気候が良くて、療養する人が沢山来るんだよ。元気になったら帰れるよ。家族に会えるよ。大丈夫だよ」



「君は誰なの?」


「私はジャスミン」


「僕はマックス」


2人は手を握り合った。


「ジャスミンはこの辺に住んでるの?」


「隣の領地に住んでるけど、夜だけたまに此処に来てるの。昔両親とよく来た場所だから…」


ジャスミンは夜しか出歩けないらしく、両親は2年前に亡くなったらしい。寂しくなると此処に来るのだと教えてくれた。何かお礼がしたいと伝えたら勉強を教えてほしいとお願いされた。


マックスはジャスミンに会った時に教えられる様に勉強に励んだ。


会えた時は月明かり中、一緒に勉強した。歌も教え、一緒に歌った。

薄暗い月明かりの日、ジャスミンの頬が赤くなっている事に気がついた。いままでも擦り傷が服の隙間から見える事もあった。思い切って聞くと、両親が亡き後は叔父夫婦が面倒見てくれている事。言われた事を出来ない時叔母に叱られる事がある事…。夜中にこの花畑に来るのは部屋に隠し通路があり、寝たふりをして黙って出てくるのだと教えてくれた。

今の自分ではジャスミンを守る力がない事が悔しかった。悔しくて涙が出た。


「マックス泣かないで……。私は大丈夫だから」


「ごめん!僕は強くなるから!もう泣かないから!僕がジャスミンを守るよ」


「マックス……」


2人は手を繋ぎ寝っ転がって沢山の星を見つめていた。お互いにこの時間がいつまでも続けば良いと思いながら。






♢♢♢♢♢♢





「明日には王都に帰るのね。マックスいままでありがとう!楽しかった!

私にはこれしか無いから。受け取ってくれる?」


ジャスミンは家紋の入ったネックレスを差し出した。両親の形見だった。


「こ、こんな大事な物受け取れないよ!?ご両親の形見なのに」


「お願い、受け取って……。マックスに持っていて欲しいの」


「分かった!なら、代わりにこれを受け取って」


マックスがポケットから出したのは小さな金の懐中時計だった。王家の紋章とマックスの証の月桂樹の模様が入っている。


「こんな高価な物……」


「僕を忘れないようにもっていてほしいんだ!

3年後に絶対迎えにくるから!迎えに来て僕が幸せにするから!その時は僕のお嫁さんになって下さい!」


「……!?…はい!待ってます!」


大好きなマックスが言ってくれた言葉が嬉しくて涙が流れた。いままで流した涙と違い嬉しい涙だった。



3年後の今日、此処で会おう


2人は唇が触れるだけの約束のキスをした。





♢♢♢♢♢♢♢




「ジャスミン、荷造りしなさい!貴方は明日シェル男爵に嫁ぐのよ。持参金も沢山頂いたわ。あの方は若い子が好きだから可愛がってくださるわ。良かったわね」


叔母と叔父は目の前の持参金を見て嬉しそうに笑っていた。



「ジャスミンおめでとう!やっと目の前から消えてくれるのね。せいせいするわ」


従姉妹のジェスミンも自分に似た名前の従姉妹が居なくなる事に喜んでいた。



ジャスミンはマックス以外の妻になるつもりもなかった。

でも屋敷に残れば叔父夫婦に無理やり嫁がされる。

その夜ジャスミンはマックスから貰った懐中時計だけを持ち、屋敷から暗闇に消えた……。





♢♢♢♢♢♢♢





マックスが王都に帰り3年の月日が流れた。

ジャスミンの為に子豚王子から見事に白馬の王子に生まれ変わったマックス。

勉強にも励み、王族の一員としても立派に成長していた。一切我儘を言わなくなり、ジャスミンと言う少女と婚姻したいという希望も認めてもらっていた。


側近にカメル領の隣に位置するフリル領に住むジャスミンと言う少女を調べてもらった。

報告書では該当する少女はフリル伯爵家にいるらしい

両親からの許可も得てフリル伯爵家に向かった。


先ぶれを出していたからか、屋敷前には勢揃いしていた。

マックスが馬車から降りると


「マックス王子様、お待ちしていました!」


笑顔の着飾った少女が声を掛けてきた。


「誰だ?」


「この度は我が娘ジェスミンを見初めて頂いたそうで。ありがとうございます!」


「ジェスミン?」


「はい!私がジェスミンです!」


「お前では無い!ジャスミンはどこだ!!」


「ジャスミンなど居ません!3年前に勝手に家出してきっとのたれ死んでますわ!!」


マックスの言葉にジェスミンは顔を真っ赤にして言い放った。


「どう言う事だ!?真実を話せ!!」


マックスは伯爵に剣を向けた。



「た、確かにジャスミンと言う姪は3年前まで屋敷に居ました。ですが、私達が親切で用意した結婚の前夜持参金を持って逃げたのです!育ててやった恩も忘れて!」



ジャスミンは持参金を持って逃げる様な人ではない事はマックスが一番よく分かっていた。自分達は結婚の約束までしていた。迎えにくると。そんな中結婚を強要され、ジャスミンは逃げたんだろうと考えた。


一旦カメル子爵の屋敷に滞在し、毎夜花畑に通った。ジャスミンに会う為に。

その間、側近にフリル伯爵家やジャスミンの事を調べさせた。

花畑で月明かりの中、報告書を読むと、なぜあの時連れ帰らなかったのかと後悔した。

ジャスミンは両親が馬車の事故で亡くなった後、叔父夫婦が屋敷に入り込み、屋敷の物置部屋に追いやられ、自由に歩き回れない様に外から鍵がかけられて生活していた。伯爵家の嫡子への酷い扱いを諫める召使い達は次々クビにされ、新しい召使いはこの状況を見ないふりをしていた。食事は良くて日に一回。気に食わない時は叩かれる事もあったと。

たまたま物置部屋の箪笥の裏に隠し通路があり、ジャスミンはそこから、花畑に来ていたのだ。隠し通路は代々嫡子のみに知らされていた為ジャスミンは知っていて、フリル伯爵は知らなかったのだった。

3年前のあの後フリル伯爵夫妻は持参金目当てで、ロリコン趣味で評判の悪いシェル男爵との婚姻を強引に進めジャスミンは逃げた。夫妻はジャスミンが持参金を持って逃げたと言ったが、当時の召使いの話ではジャスミンが持ち逃げした事にして、派手に使ったそうだ。



「ジャスミン……。君は今どこにいるんだ……」


マックスは自分の不甲斐無さに涙が止まらなかった。

マックスは毎夜花畑でジャスミンを待った。

12日目満月の夜も花畑で待っていた。まだ、夜になったばかりの頃歌声が聞こえた。少女の歌声。

マックスは歌声の方に走った。ジャスミンと名を呼びながら


「ジャスミン!?」


歌声の先に居たのはジャスミンではなく、10歳くらいの少女だった。

少女を見てガックリしていたら、声をかけられた。


「も、もしかしてマックスさんですか?」


「!?な、なぜ?」


「マックスさんなんですね!一緒に来て!」


少女はマックスの手を掴み引っ張って走り出した。10分ほど走った先の小さな小屋のドアを開けた。


そこにはジャスミンが簡素なベットの上に横たわっていた。


「ジャスミン!マックスを見つけたよ!マックスがきたよ!」


顔色の悪いジャスミンは薄目を開け手を伸ばした


「マ、マックス…。嬉しい。」


「ジャスミン!!」


マックスはジャスミンが伸ばした手を強く握った。


「ジャスミン、体が弱ってるの!でもお医者様に見てもらえるお金も無くて…。

弱った体で毎夜花畑に行ってた。

マックスと約束だからって…。

でもとうとう起きれないくらい衰弱して。マックスに会えたら助けてもらえると思って私が花畑に行ったの!

お願い!ジャスミンを助けて!」


少女は泣きながらマックスに訴えた。


「着いてこい!」


マックスはジャスミンをシーツで巻き、抱きかかえカメル子爵の屋敷に向かった。

屋敷で呼んだ医者の診察で後1日遅ければ治療も間に合わなかったと言われた。

花畑で出会った少女は2年前花畑に親に捨てられ、ジャスミンと出会い、ジャスミンが面倒を見ていたそうだ。小屋で一緒に暮らし、マックスの話を嬉しそうに話していたと。歌も教えてくれたのだと。



治療後ジャスミンはなかなか目を覚まさなかった。

このまま目を覚まさないのでは無いかと不安で側から離れられなかった。


「マックス?」


「ジャスミン!気がついた?」


「また泣いてるの?辛い事あった?大丈夫?」


ジャスミンはマックスの涙を細い指で拭った。


マックスはその手を強く握り


「ジャスミン、僕のお嫁さんになってください」


「はい」


2人とも笑いながら泣いていた。


ジャスミンの体は回復するのに2ヶ月を要した。回復後2人を再会させてくれた少女マリィと共に王都に向かった。

2ヶ月の間にフリル伯爵夫妻の事を調べ上げ、ジャスミンの両親の事故も兄への嫉妬心で事故に見せかけ殺害し、爵位も奪おうとしていのだと発覚した。叔父夫婦は捕まり、従姉妹は修道院に送られた。フリル伯爵領は没収された。

マックス王子はストーン公爵家として立ち、旧フリル伯爵領を領地として賜った。

マックスとジャスミンは約束通り結婚し、5人の子供たちに囲まれて幸せに暮らした。もちろんマリィも一緒に。

時折思い出の花畑で夜のデートにひっそり出掛けていたのは2人だけの秘密。


この作品を最後まで読んでくださってありがとうございました!

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