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第3話 オタクが本業、仕事は副業なのだ

カクヨムにも掲載しています。

俺たち二人は、神様がいなくなった後、すぐ夜が明けたのでこの世界の人がいる場所を探すことにした。勝手な想像だが、神様は俺たちのためにあまり辺ぴなところでは転生させていないと踏んでいる。


「シュウさん。シュウさんて、本名は何ていうんですか?」


 ふと、ルナちゃんにそう問われた。言われてみれば、10年来の知り合いなのに、お互いの本名を知らない。確か、石神ルナは芸名なのだ。確かに、転生してまでオタクのニックネームと芸名で呼び合うのはちょっとおかしな話だ。


「そういえば、言ったことなかったね。俺の名前は、柊汰(しゅうた)廣川柊汰(ひろかわしゅうた)だよ。えっと、ルナちゃんは?…。」


 始めて推しメンに本名を明かした。何か変な感じだ。初対面じゃないのに初対面の感覚。


「やっぱり、私が芸名なの知ってたんだね。私は、陽菜(はるな)石上陽菜(いしがみはるな)だよ。本名を言ってるだけなのに、なんか恥ずかしいね。」


 へぇ~、陽菜ちゃんていうのか。うん。かわいい。


「陽菜ちゃん、改めてよろしく!」


「こちらこそよろしくね、柊汰さん!」


 つい緊張してか、改まった挨拶をしてしまった。ああ~、ついに本名で呼ばれてしまったよ~、俺。日本にいる同志たち、すまねぇ、抜け駆けしてしまって…。


 と、この異世界に来てからの陽菜ちゃんとの何気ない会話に一喜一憂しながら歩いていると、人が作ったと思われる道に出た。日本の道路のように舗装されているわけではないが、車輪の痕が道についていることからも人工物である可能性が高い。


「あ、あそこに人がいる!おーい!」


 道に出てすぐに、陽菜ちゃんが道の先に人を見つけ、すかさず大声でその人に手を振っていた。異世界で発見した第一村人だ。さすがアイドル。人慣れしていて、なんだか頼もしく見えた。どうやら、畑作業をしているみたいだ。朝早くからご苦労様です。


「すいません、この辺に人がたくさんいる街はありませんか?」


 異世界でアイドル活動をするには、まずある程度は人がいるところにいないと始まらない。


「おお、こんな田舎に、冒険者かい。見たところ、魔法使いの姉ちゃんと、その荷物持ちってとこか。」


 俺は荷物持ちに見えるのかい!まあ、あながち間違っては無いのだが。デカいリュックを背負っているし。それと、魔法使い?この世界には魔法があるのか!?


(「ねえ、魔法使いだって。私の衣装、魔法少女がモチーフだからかな。」)


 陽菜ちゃんが、小さな声で話しかけてきた。ああ、可愛い…。っと、、。陽菜ちゃんがこっちの世界に来てからずっと衣装を着ているのを忘れていた。日本だと不審に思われても仕方ない状況だが、案の定、魔法使いと思ってくれたみたいだから、結果オーライだ。


「ここからだとファドックに行くのか?それなら、この先を少し行くと、俺の村があるから、そこから出てる馬車に乗っていくといいぞ。」


「分かりました!ありがとうございます。」


 ということで、俺たちは、心優しき第一村人さんの村に向かうことにした。




 30分ほど歩いていたら、村が見えてきた。村は、コンクリートのような物でできた壁に囲まれており、道の先に門番が立っている。村というともっと小さいのを想像していたが思ったよりも大きな村の様だ。


「大きな村だね。門番もいるよ。」


 陽菜ちゃんも俺と同じような感想をもったみたいだ。そして門の前まで来た。


「珍しいな、冒険者か?」


 門番の人にも俺たちは冒険者に見えるらしい。なんだか、海外遠征のときの入国審査を思い出す。だが、萌え天目的で遠征した訳ではないので、そのことは陽菜ちゃんには内緒だ。


「冒険者じゃないんですけど、、。えーと、ファドックに行きたいんですけど、この村から馬車が出てると聞いて、寄ったんです。」


「おう、そうか。じゃあ、ジョブカード出して。」


 ジョブカード!?って免許証のことか?この世界の身分証なんて持ってないぞ?まさか、いきなりこんなピンチに遭遇するとは…。入国審査で身分証を出せないと、完全に不法入国者だ。


「はい、どうぞ。」


 俺の葛藤の束の間、陽菜ちゃんが門番に何かカードを渡した。え、陽菜ちゃん?持ってんの、ジョブカード?入国審査で、分けの分からないもの出したら怪しまれちゃうよ…。


「えーと、グリーンライセンスで、職業は、アイドル?聞いたことないジョブだな。戦闘職か?まあいいや、通っていいぞ。」


 嘘だろ?どういうことだ?


「ちょ、、陽菜ちゃん、何出したの?」


「免許証を出しただけだよ?ほら、柊汰さんも早く出して。」


 なぜか、陽菜ちゃんにキョトンとされた、、、。あ、そういうことか。陽菜ちゃんのジョブカードをみると、日本の運転免許証のレイアウトにそっくりだった。そういえば、おっさん(神)が持ち物を、こっちの世界仕様に改良しといたって言ってたな。つまり、日本で持ってた免許証が、異世界ではジョブカードとして使えるようにしてくれたってことか。財布から免許証を取り出すと、思った通り、ジョブカードになっていたので、すぐにそれを門番に差し出した。こういうことがあるということは、早いうちにリュックの中身をすべて確認した方がいいな。


「えーと、、。ってお前すげぇな!ゴールドライセンスじゃねーか、しかも、ダブルの…。」


 ん?もしかして、ゴールド免許だったことが関係してるのか?陽菜ちゃんが免許を取ったのは確か最近のはず。ブログに書いてあったから間違いない。免許取りたての陽菜ちゃんがグリーンで、ベテランペーパードライバーの俺がゴールド。おそらく、生前の免許の状態が影響しているということだろう。18で免許を取って以来、無事故無違反を貫いてきたのがここで役に立つのか…。ペーパーだけど。


「いや~、それほどでも…。」


「この、メインジョブの、アイドルオタクってのはよくわからねぇが、お前、サブジョブで錬金術士はすげえよ。よし、通っていいぞ。」


 アハハ、、メインがオタクで、サブが錬金術士か。世のオタクたちは分かってくれると思うが、オタクとは、オタクが本業で、オタク資金を稼ぐために副業をする生き物なのである。俺は生前、オタクをしていないときは機械エンジニアとして働いていた。おそらく、材料工学を専攻してエンジニアになったから、それがこっちの世界だと錬金術士になったのだろう。それにしても、錬金術とはワクワクする響きだ。




 と、そんなこんなで、俺たちは村に入ることができた。村に入ると、道がレンガで舗装されており、門から大きな道が続いていた。その道沿いにはお店が並んでおり、人の往来が見られた。本当に村というよりは街といった、雰囲気である。


「柊汰さん、お腹すかない?馬車に乗る前に、何か食べようよ。」


 この世界に来てから俺たちはまだ何も食べていない。それに相まってか、村に入ってからする食べ物のいい匂いにつられ、腹の虫が今にも鳴きだしそうなことに気が付いた。


「そうだね。俺もお腹すいたし、朝ごはん食べよっか。」


 ご飯を食べることには、お腹を満たすことともう一つ目的がある。それは、この世界のお金の相場を知ることだ。さっき、ジョブカードを出すときに、確認したが、財布に見慣れない、ルぺという単位の紙幣が入っていた。おそらく、おっさん(神)が日本のお金を両替してくれたのだろう。財布に入っていた4万円が5000ルぺになっていたから大体、1ルぺ当たり8円くらいということだろう。


「ここにしよ!モーニングがあるといいな~」


 お腹を空かせた陽菜ちゃんが、喫茶店の様なお店を指して目を輝かせていた。そう、陽菜ちゃんは愛知県出身でモーニング文化が生まれた地で育ったこともあり、喫茶店で朝を過ごすのが懐かしいのだろう。だが、ここは異世界。モーニングはさすがにないだろう…。


 そして俺たちは、そのお店に入りイスに座った。


「俺は、コーヒーとこの日替わりサンドで。陽菜ちゃんは?」


「じゃあ、メロンソーダで!あと私も日替わりサンドをください。」


 メニューをみると、表記は日本語で難なく注文が出来た。やはりモーニングのシステムは無いみたいだ。ざんねん。でも、少し懸念していた言葉の問題は何ともないみたいで安心した。それと、コーヒーの料金は10ルピで、日替わりサンドが12ルピだった。だから、日本よりも物価が安いみたいだということが分かった。そして、何よりも、陽菜ちゃんがウキウキしていてめちゃくちゃ可愛い。ああ、生まれてきてくれてありがとう。そうやって陽菜ちゃんに見とれていると、陽菜ちゃんがどこかを凝視していることに気づいた。そして、


「ね、柊汰さんあれ見て。」


 と言われ、陽菜ちゃんがさす方を見ると、マイクとステージがあった。喫茶店にステージがあるなんてまるでメイドカフェじゃないか。ああ、懐かしいな~。昔、陽菜ちゃんもバイトしてたっけなあ~…。




「えへへ、歌っちゃおっかな。♡」




 ええええええぇぇぇぇぇ!!!

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