第2話 転生。それはもう夢の様で…
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「ルナちゃん!どうしてここに?けがはない?ここはどこか分かる?」
おっと、いけない。あまりの出来事に、ついオタク特有の早口で質問攻めしてしまった。27歳のいい大人が…、情けねぇ。
「えっと、私も気づいたらここにいて…。何も分からないの。でも、知ってる人がいてホッとした。」
(かっ、可愛いいいいいぃぃぃ!)
いけないけない。いまの聞こえてないよな?それにしても、推しメンが俺と会えて、ホッとしたって?マジかよ。そんなのニヤケちまうに決まってる。
「どうかした?」
「いや、なんでもない、よ。」
なぜだ。あんなに握手してきたじゃないか。二人きりだとこんなに緊張するものなのか。平常心、平常心…。…アイドル、恐るべし。その時だった、俺はちょっとした違和感を感じた。
「あのさ、その衣装って、デビューした時の、だよね?」
この俺が、忘れるはずもない。俺が初めて握手した時の衣装だ。あの時は緊張で顔を見ることができなくて衣装ばっかり見ちゃってたから鮮明に覚えている。
「え、嘘!恥ず、、。いや、もう入るはず…、、。」
焦って、少し取り乱しちゃってるルナちゃんもかわいいなぁ。っと、そうじゃない。普通に考えて、10年前の衣装が着られるとは考えにくい。あの時、ルナちゃんはまだ高校生だったはず。ん?
「ルナちゃん、なんか、若くなってない?」
「え?言われてみると少し体が軽い気がするかも。…というか、それを言うなら、シュウさんも。」
そういわれ、顎を触ると、自慢の顎髭がなくなっていた。そして何よりの証拠に、18のときにバイクで転んだ時の膝の傷がなくなっていた。ということは…。
「もしかして、俺たち、10年前の姿に戻ちゃった!?」
「えええぇぇぇ!」
「おうおう。君たちやっと起きたか!どうだい、新しい身体は?」
「うわ!」
「キャッ!」
目の前に、半袖半ズボンにサングラスといういかにも怪しい風貌のおっさんが現れた。どこからやってきたというより、瞬間移動でもしてきたかのように突然現れたため、俺とルナちゃんは尻餅を付くほど驚いてしまった。
「二人そろって、絵に描いたような驚き方しやがって。ギャグマンガのキャラクターでもあるまいし。」
その不審なおっさんが苦笑しながらそう言ってきた。そのとき、ふと横を見ると、ルナちゃんが少し怯えた様子で、この男がやばい奴だった時は何としても、俺が守ってやらないといけないと思った。
「あ、あんたは一体何者だよ?あとどこから来たんだ?」
それにしてもこのおっさん、杖を突いて、甲羅を背負ったら、どっからどう見てもかの有名な仙人にしか見えないな。
「あ、そうそう。わしは、全知全能の神じゃ。君たちが、野蛮なオタクに殺されてしまったのがかわいそうでかわいそうで仕方がなくてな、別の世界に転生させてやったんじゃ。」
あ、そういうことですか~。あなた神様だったんですね。
「あの、そのTシャツ、、。」
ルナちゃん?っておいぃぃぃ!!このおっさんの着てるTシャツ、萌え天の3rdアニバーサリーの記念Tじゃねーか!!
「おっさん、もしかしてあんた、神様じゃなくてオタクなんじゃ?しかも、萌え天のかなりの古参オタ。」
おっさんは不敵にニヤリと微笑んだ。
「フッフッフッ。バレてしまっては仕方あるまい。そう、私は何を隠そう、萌え天、いや、石神ルナちゃんの大ファン、いや、ルナちゃんのガチ恋なんじゃあ!」
「ありがとう♡。」
「「グハッ!(か、かわいい…。)」」
いかんいかん。つい、また萌えてしまった。って、おっさん(神)あんたもかよ!ルナちゃんの前では神ですら、みな平等ってことか。
「えっと、つまり、ルナちゃんのことが好きすぎて、つい転生させちゃったってことか。そして、ついでに俺も。」
俺のその言葉に反応するように、おっさんのお茶らけた雰囲気が吹き飛び、急激に真剣なオーラを放ちだした。どうやら、このおっさんが神様だということは本当のような気がした。そのオーラに充てられ、俺も、ルナちゃんにも緊張が奔る。
「ついでではない、わしは、シュウ、お前のこともリスペクトしているのじゃ。わしは、お前の歩んだ10年間をすべて見ておった。石神ルナにとって、もうすでにお前は欠かせない存在。そうじゃろ?」
ルナちゃんは、おっさんのその言葉を聞くと、何かを思い返したかのように、唐突に涙を流し始めた。
「はい。今まで何度もくじけそうになって、何度もアイドルを辞めようと思ったことがあったけど、その度に、シュウさんがお手紙をくれて。それを読む度に、また頑張ろうって思えて。アイドルだから、ファンの一人を贔屓するのはよくないと思ってたけど、それでも、10年間も私のことを変わらず同じ目で見てくれたシュウさんは、私にとって特別な存在です。」
嘘だろ、おい。俺のこと、そんな風に思っててくれたなんて…。その言葉に、萌え天、ルナちゃんと歩んできた10年間の日々がフラッシュバックした。あれ、俺、嬉しくて嬉しくて仕方がないのに、涙が…。
「そういうことじゃ。わしが二人に新しい命を授けたのは、前の世界でやり残したことがあるからだ。もう分るな?わしはどうしてもその夢の行く先が見たい。」
そうだ、俺は解散ライブの日、萌え天の解散を全く受け入れられていなかった…。でも今ならその理由が分かる。それは、俺の夢が終わってしまうことが受け入れられなかったからじゃない!
俺は拳をギュッと握りしめ、神様を見た。
「《《俺たち》》の夢はまだ、終わってない!って事だろ、神様?」
ルナちゃんはそっと頷き、神様に強い視線を預けている。
「そうじゃ。わしがそうした。言ってみぃ!君たちの夢はなんじゃ!?」
俺は息を飲んだ。萌え天が結成した当時のルナちゃんが掲げた大きな夢。それは武道館なんてもんじゃない。俺はそんな果てしなく遠い夢に、心を打たれて、オタクになった。まだ、その夢が叶ってもいないのに俺は、オタ卒しようとしていたなんて…。きっとルナちゃんもいつの日か、その夢を心の奥に仕舞い込み、それを受け入れられないまま解散の日を迎えたのだろう。でも、いまなら迷わず言うことが出きる!
「俺の夢は!ルナちゃんと、」
「私の夢は!ファンのみんなと、」
「「|”世界中を萌えでいっぱい大作戦”《ワールドツアー》を成功させることだ(です)!!!」」
俺たちの心の叫びをきくと、神様のオーラは消え、微笑みを見せた。
「お主らの人生は今、始まった。前世の経験を存分に使い。必ず夢の果てまで行ってこい。」
ありがとう神様、思い出させてくれて。おれ、がんばるよ。あっちの世界のいる同志たちの分も俺が思いを背負って、世界を萌えさせてやる!
すると、神様はポケットに何かを突っ込み何かを取り出そうとした。あ!そうか!異世界転生と言えば、あれだよなあれ?選別としてすごい力とかを授けてくれるあれか!?
「あのルナちゃん、せっかくだし、Tシャツにサイン書いてくれない?」
「って、おいいいいぃぃぃ!!!やっぱりただのオタクじゃねぇか!!!」
何かを取り出したと思うと、ポケットからペンを取り出してサインを強請りや立ったぞ、おっさん!そして、律義にサインを書いてあげちゃうルナちゃん。かわいいぞ。
「安心せい、ちゃんと選別はある。ほれ!」
そう言われ、俺は、おっさん(神)にリュックを渡された。よく見ると俺がイベントに行くときにいつも使ってた愛用のリュックではないか。粋なことしてくれる。そして、ルナちゃんも鞄を渡されていた。
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ。」
「うむ。中身は、こっちの世界仕様にわしが改良しておいたから、楽しみしておるとよい。」
おっさんはそういうと、来た時と同じように、一瞬でどこかへ消えてしまった。ルナちゃんを見ると、決意に満ち溢れた表情をしている。ちゃんと、気持ちは同じ方向を向いているみたいだ。…よし!何はともあれ、やることが山積みだ。こんなところでぐずぐずしてられない。
「ルナちゃん、行こうか。まずはこの世界のことを知るところから始めないと!」
(「それでよい。しかしその道は、決して楽ではない。ましてや、アイドルの概念が存在しない、この異世界でその夢を叶えようなど神ですら思わぬだろう。だが二人ならきっとやり遂げる。そんな気がするのじゃ。」)
こうして、死んでもオタクを卒業できなかった男の、夢のような第二の人生が始まったのだ。
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