第九話 『ババア、神の依り代たる横綱として格を示す』
「ええっと、じゃあおばあちゃん、ここにサインを……」
「はいはい、これでいいかねぇ?」
「ん、じゃあちょっと待っててね」
ロビーの待合に座るおばあちゃんを残し、私は窓口奥のデスクに向かう。
今日は書類手続きに来てもらってる。こないだの高原の家とか、その他とかの関係で。
あ、そうそう。こないだの家掃除の件を報告したら何故か、課長から居住その他の許可が下りた。未だに基準がわからないなぁ。
まぁいいか。これで安心だね、おばあちゃん。私も安心。
そして座って待つおばあちゃんの元に近づく人影。
そして、ぽとり。何かを落とした。
「あら、落とし物ですよぉ、よっこいしょ」
!
その人は!だめ拾っちゃ…
「フハハハハハ、手袋を拾ったな!なら決闘は受理と見なす!」
そこに居たのは、
何故か勝ち誇ったように高笑いする、勇者3人組のリーダー。
またお前か。
後方からは。
頭を抱えながら、ダッシュで追いつくギャルの姿が見えた。
【 ババア無双 】
第九話
『ババア、神の依り代たる横綱として格を示さんとす』
「ごめんねぇ、ウチのバカが……」
「あらあらこないだぶり、ごきげんよう」
ギャルが顔の前で手を合わせて、頭を下げた。
その足元には、ぼっこぼこにされ無惨な姿のリーダー。
「お、お前バトルマスターなんだから手加減を……」
「やかましいわ!お前も謝らんかい!」
胸部を踏まれ、ぐはっ、という言葉とともにリーダーが再び沈んだ。強い。
ていうかこのギャル、凄み方がおっさんっぽいなぁ。
そんな様子を見ておばあちゃんは微笑んでいた。
「いいのよいいのよ、こんな老人に構ってくれるなんてアタシも嬉しいよぉ。
決闘?ってやつ、やってあげましょうかねぇ」
「なら勝負方法は、主審の受付君に決めてもらおう!」
床を這っていたリーダーがむくりと起き上がり、ビシィという効果音とともに私を指さした。しぶとい。
ていうか。え、また私?
この人本気で、“ギルド”の受付何だと思ってるのかな。ちょっと腹立ってきた。
「本当に私が決めちゃっていいんだね?じゃあ……」
「お茶くみ対決」
「うおおおお!湯呑に一度お湯を入れて、湯を適度に冷ます!!」
「湯呑もあったまって一石二鳥って感じぃ?」
「または、ロビーの床掃除対決」
「うおおおお!この世に!塵ひとつ残らんと思え!」
「おやおや、さっきの茶殻を使っていいのかぇ?ホコリが取れるんだよぉ」
「または、窓ふき対決」
「うおおおお!指紋ひとつ残さず!!……駆逐してやる!!」
「……」メガネフキフキ
「よし、これで午前の雑務は終わり!お疲れさま!!」
「やっぱり受付君の仕事じゃないか!ひとり得するなぁぁ!!」
「仕事終わり~?ならステラちゃんカフェ行こ行こ☆」
「隙あらばナンパするんじゃない!オッサンか!!」
うるさいわねぇ、この勇者……
そう思いながら殺意の波動を視線に込めて向けていると、ふとその視界に“依頼書”が入ってきた。
そうだ、この依頼を使用すれば……
◇ ◇ ◇ ◇
「というわけで。
町の復興委員会依頼!炊き出し対決~!!」
「おい!真っ当な対決をさせろ!!」
「あらぁ、これは楽しみねぇ」
五月蠅い勇者の文句を無視し、私は解説を続けた。
ちょっとはおばあちゃんの堂々っぷりを見習え。
「町の復興に、心も体も疲れたみんなを労いたい!そんな復興委員会が、皆さんに炊き出しを振舞いたいと、ギルドに調理を依頼してきました!」
町役場の近くの公園。炊き出し会場。
この特別依頼を見物しようと、作業の手を止めて町中から集まってきた。まったく本末転倒もいいところだ。
でももういいや、私もこのビックウェーブに乗ってやることにした。
「そこで!この町のひーろー(棒読み)・勇者と、町のアイドル・おばあちゃんに炊き出しを依頼、競ってもらうことにしました!さてどちらが町の皆さんを労うことができるでしょうか!!?
なお、この炊き出しへの材料提供は。
肉;勇者チームの魔物討伐成果、野菜;おばあちゃんの薬草採集成果と、
なんと参加者からになります!ありがとう!」
ギャラリーから歓声が起こる。
二人にはみんな、感謝しているんだね。本当にね。
「では開始!あーら、くいじーぬ!!」ごわーん
私の開幕を告げる合図とともに、町の正午を告げる鐘の音が鳴った。
みんなもう、お腹減ってるから。あと私も減ってるから。急いでね!