第八話 『ババア、天の衣は縫うこと無し』
薬草採りに行った、その日の終業時間間際。
「ステラさん、クエストはどうでしたか?」
デスクに座ったまま問う課長に、
「はい、とてもたくさん採れました!」
私は自信満々に、デスクに成果物をどっさりと乗せた。
「……」
「……?」
「ハァ……」
「頭痛ですか?アタマ抱えて」
「君、明日早々に始末書を提出しなさい」
「がーん!どうしてですか!?」
【 ババア無双 】
第八話
『ババア、天の衣は縫うこと無し』
~翌朝~
私は、おばあちゃんと一緒に、もう一度昨日の現場の高原に歩いていた。
窓口で清算報告をしようとしたら、「いくら何でも採りすぎ」という判断を受けてしまったのだ。なので現地の様子を確認してくるように、と。
おばあちゃんには、何度も足を運んでもらうのは申し訳ないけど……
でも、高原への用事は、それだけじゃないしね。
それに。決して忘れてたわけじゃない。忘れてないんだけど。
私の任務は、おばあちゃんを見極めることだった。
それで昨日はひどい目にあったなぁ。
~~もう一度チャンスを与えます、いいですか次失敗したら……~~
あのときの課長の言葉を思い出し、身震いした。
あれ完全にラスボスの台詞だよ……もし今回ミスったら私どうなっちゃうんだろ。
というわけで現地に到着し、早々に実地検分。よし問題なし。
次行ってみよー。
「やっぱり、ちょっとワクワクするねぇ」
おばあちゃんも、次の用事モードだし。
はい、到着しました。高原の空き家。
今日は掃除と、もし可能なら引っ越しもしちゃおうかなと、ご案内なのだ。
実は、昨日課長に大目玉食らったときについでに聞いたら、何故か二つ返事で許可が下りた。お役所ってこんな気軽にゴーサイン出していいんだっけ?
まぁともかく。今までは役場の宿舎に泊まってもらってたけど、これでようやくのんびりできる家ができるね!!
ギィ。
玄関ドアを開ける。入口から、中に光が射し込んだ。
あれ?想像よりあんまり汚れてない。誰かが住んでたのかな?
まいっか、さぁ掃除するぞ!私は閉まってた雨戸を開放。家が外気を目いっぱいに取り込み、埃っぽく籠った空気を一気に吐き出した。
その掃われた空気の向こう側に。
「これはやりがいがあるねぇ」
帽子・マスク・割烹着を纏い、箒とはたきの歪な二刀流を構えた、
完全装備、臨戦態勢のおばあちゃんがいた。
そして、
水に濡らし堅く絞った、細かく刻んだぼろ布を、
部屋一面にばら撒くと。
(どこから取り出したかはもう考えないことにした)
その腕の得物で、総てを掃った。
部屋には、
一片の埃も、残されていなかった。
その後、
「あらあらゴキブリ」スッ
「あらあら頑固でしつこい油汚れ」スッ
次々に、汚れや虫が、まるで吸い込まれていくかのようなその姿に、
私は、ひとつの単語が頭をよぎった。
「ば、『ババアゾーン』……」
倉庫はこうやったのか。理解した、いやできないけど。
あ、そうそう。私は竹箒の使い方を教えてもらった。
胸元で構えて、そこを軸に細かく動かすといいんだって。
<余談>
おばあちゃんが高原に出発したのちの、宿舎のおばちゃん達の井戸端会議
「おばあちゃん、明日出ていくんですって!?」
「いやだ寂しいわぁ、炊事に掃除に獅子奮迅だったものねぇ」
「お裁縫の腕も達人だったわよ、ほら、ぬいぐるみ作ってくれた」
「「いいなぁ~」」
「はぁ、それにしても、引き留められないかしら」
「駄目よ、おばあちゃんもスローライフしたいって言ってたじゃない」
「そうよ、それに永遠の別れってわけでもないんだから」
「「縁起でもないわよ!!」」
「また、遊びにきてくれるって」
「そう、だから笑顔でグッドバイよ」
「なら今日は、『おばあちゃんを送る会』でもやろうかしら?」
「「だから縁起でもないわよ!!」」