表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【 ババア無双 】  作者: W.A.M
第弐章 『ババア、異地にて隣を忘れず』
8/24

第八話  『ババア、天の衣は縫うこと無し』

 薬草採りに行った、その日の終業時間間際。



「ステラさん、クエストはどうでしたか?」

 デスクに座ったまま問う課長に、


「はい、とてもたくさん採れました!」

 私は自信満々に、デスクに成果物をどっさりと乗せた。



「……」

「……?」


「ハァ……」

「頭痛ですか?アタマ抱えて」


「君、明日早々に始末書を提出しなさい」

「がーん!どうしてですか!?」






【 ババア無双 】


 第八話

『ババア、天の衣は縫うこと無し』






 ~翌朝~


 私は、おばあちゃんと一緒に、もう一度昨日の現場の高原に歩いていた。

 窓口で清算報告をしようとしたら、「いくら何でも採りすぎ」という判断を受けてしまったのだ。なので現地の様子を確認してくるように、と。

 おばあちゃんには、何度も足を運んでもらうのは申し訳ないけど……

 でも、高原への用事は、それだけじゃないしね。



 それに。決して忘れてたわけじゃない。忘れてないんだけど。

 私の任務は、おばあちゃんを見極めることだった。

 それで昨日はひどい目にあったなぁ。


 ~~もう一度チャンスを与えます、いいですか次失敗したら……~~


 あのときの課長の言葉を思い出し、身震いした。

 あれ完全にラスボスの台詞だよ……もし今回ミスったら私どうなっちゃうんだろ。




 というわけで現地に到着し、早々に実地検分。よし問題なし。

 次行ってみよー。


「やっぱり、ちょっとワクワクするねぇ」

 おばあちゃんも、次の用事モードだし。



 はい、到着しました。高原の空き家。

 今日は掃除と、もし可能なら引っ越しもしちゃおうかなと、ご案内なのだ。

 実は、昨日課長に大目玉食らったときについでに聞いたら、何故か二つ返事で許可が下りた。お役所ってこんな気軽にゴーサイン出していいんだっけ?

 まぁともかく。今までは役場の宿舎に泊まってもらってたけど、これでようやくのんびりできる家ができるね!!



 ギィ。

 玄関ドアを開ける。入口から、中に光が射し込んだ。

 あれ?想像よりあんまり汚れてない。誰かが住んでたのかな?

 まいっか、さぁ掃除するぞ!私は閉まってた雨戸を開放。家が外気を目いっぱいに取り込み、埃っぽく籠った空気を一気に吐き出した。



 その掃われた空気の向こう側に。

「これはやりがいがあるねぇ」

 帽子・マスク・割烹着を纏い、箒とはたきの歪な二刀流を構えた、

 完全装備、臨戦態勢のおばあちゃんがいた。



 そして、


 水に濡らし堅く絞った、細かく刻んだぼろ布を、

 部屋一面にばら撒くと。

 (どこから取り出したかはもう考えないことにした)


 その腕の得物で、総てを掃った。


 部屋には、

 一片の埃も、残されていなかった。




 その後、


「あらあらゴキブリ」スッ

「あらあら頑固でしつこい油汚れ」スッ


 次々に、汚れや虫が、まるで吸い込まれていくかのようなその姿に、

 私は、ひとつの単語が頭をよぎった。




「ば、『ババアゾーン』……」




 倉庫はこうやったのか。理解した、いやできないけど。



 あ、そうそう。私は竹箒の使い方を教えてもらった。

 胸元で構えて、そこを軸に細かく動かすといいんだって。









<余談>





 おばあちゃんが高原に出発したのちの、宿舎のおばちゃん達の井戸端会議



「おばあちゃん、明日出ていくんですって!?」

「いやだ寂しいわぁ、炊事に掃除に獅子奮迅だったものねぇ」

「お裁縫の腕も達人だったわよ、ほら、ぬいぐるみ作ってくれた」

「「いいなぁ~」」


「はぁ、それにしても、引き留められないかしら」

「駄目よ、おばあちゃんもスローライフしたいって言ってたじゃない」

「そうよ、それに永遠の別れってわけでもないんだから」

「「縁起でもないわよ!!」」


「また、遊びにきてくれるって」

「そう、だから笑顔でグッドバイよ」

「なら今日は、『おばあちゃんを送る会』でもやろうかしら?」

「「だから縁起でもないわよ!!」」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ