第21話 『ババア、芽吹く季節の七英雄に麗き寿を拝領す』
夥しい数の“肉人形兵”が暴れまわる街中。
あらくれさんや、町の男の人達が、何とか対処しようとしている。
でも、多勢に無勢……力の差も圧倒的……
成すすべもなく、町が荒らされていく。
万事休す、かと力尽きそうだったところへ。
ゴスッ、バキッ、ズバァッ
目にも止まらぬ速さの人影が通り過ぎ、
“肉人形兵”3体がバラバラになっていた。
その惨劇を通り過ぎた影に反応し、”肉人形”が襲い掛かった。
振り下ろされる、肉の腕。
その数多の暴力の腕を、
左手に構える小ぶりの鉈は、行先遮る枝を掃うが如く斬り落とし。
腕を失ったその基となる胴体が、怯む暇すら与えず、
右手に控える巨大な青龍刀は、横真一文字に両断。
光すら見えない、その刃物達の軌跡の餌食となり、
どさどさと、音を立てて地面に崩れゆく肉片。
崩れゆく、その中から見える人影、
佇む、歪な二刀流を構えたギャルが。
「みんな!
コイツらの弱点は、斬撃だよっ!得物を持ち替えろ!!
苦しいけれど、ここが踏ん張りどころだ!
俺に着いてきて!そして。町を、壊す奴らを……」
逆手に鉈を持つ左手の親指を立て、自分の右胸元から左へ一文字。
「ブ ッ タ 斬 っ て や れ !」
オオオオオオオオオオ!!!
一気に士気が上がった。男の人達って、単純。
【 ババア無双 】
第21話
『ババア、芽吹く季節の七英雄に麗き寿を拝領す』
外では反撃が始まったみたい。さすが勇者パーティ。
私達も、何かできることが……あれば……!!
凄く、凄く歯痒い。
と、思ってたとき。室内で。
おばあちゃんが子供達の中心に立って、声を掛けた。
「はいはいボウヤたち。ちょいと聞いてね。
外でがんばってる、父ちゃん達を助けたいと思うかぇ?」
「「「助けたーい!」」」
「そうかえそうかえ。
実はアタシね、とぉ~ってもスゴイお友達を7人、知ってるんよ。
でもねぇ、アタシゃ年だからねぇ。声が小さくてさ」
「「「えー、そんな!!」」」
「だからね。
みんなの大声で呼んで願いが叶えば、来てくれるかもねぇ」
「「「わかったー!みんなで呼ぼー!!」」」
え、これって。ヒーローショーとかでよくあるアレ?
「母ちゃん達はどうかぇ?」
「「「えぇ……助けたいのは山々だけど、年甲斐もなくねぇ……」」」
「残念だねぇ、7人みーんな、美容の神様なんだけどねぇ」
「「「アンタ達!気合い入れて逝くわよ!」」」
「「「喉潰れるまで!」」」
さ、流石だなぁおばあちゃん、扱い方をよく知ってる。
「準備はええかね?
じゃあ、ここにいるステラちゃんの後に続いて、呼んでねぇ」
えっ、私?
「ちょ、ちょっと待って。私、知らないよ……そんな神様」
「問題ないさぁ、アタシが教える後についておいで」
「そ、それに、そんなヒーローおねえさんみたいな真似……」
「あらま、うってつけじゃないの。
ステラちゃん。アンタも……
外の二人みたいに、何か、みんなの力になりたいんじゃないのかぇ?」
……ああ、お見通しだ。私の気持ち。
ええい、こうなったら!
私の受付嬢力、見せてやる!!殆ど業務やってないけど!!
そう決意した私は、思いっきり息を吸い込むと。
「みぃぃぃぃんなぁぁぁぁ!!?
準備は、おっけぇぇぇぇ???!!!」
人生で一番だと思う、もう一生出さないと思う、
そんな精一杯で、声を張った。
おばあちゃんはニッコリと微笑むと、
「南無南無……」
手と手の皺を合わせて拝み始めた。
「いぃっくよぉぉぉぉおお!!!せーの!」
「……南無南無。〝セリ”」
『セリ!』
「「「セリ!」」」
…
『ナズナ!』
「「「ナズナ!」」」
『ゴギョウ!』
「「「ゴギョウ!」」」
『ハコベラ!』
「「「ハコベラ!」」」
『ホトケノザ!』
「「「ホトケノザ!」」」
『スズナ!』
「「「スズナ!」」」
『スズシロ!』
「「「スズシロ!」」」
「南無南無……むにゃむにゃ……仏様、お力をお貸しくだされ!」
おばちゃんの言葉に、力が入った!!
ずおおおおおお!!
雲一つない晴天だった天空、見渡す限りに!
巨大な地蔵を中心に繫栄する、逆さまの街並みが広がり、
町を蓋い尽くした!!
そして……
キラキラと光る、白と緑の粒が!
町中に降り注ぎ、舞い落ちたとき!
「あーしの、脚の傷が……消えた!?」
「気を失ってたヤツが、意識を取り戻したぞ!!」
「なんか俺、疲れが取れてきたみたい!!」
「勝てる……勝てるんだ!」
町のみんなが……
力を、いや、目の光を!取り戻していく!
それどころか、
町のあちこちで上がっていた炎が、消えていく……!?
「さぁみんな!
もう、”肉人形”は殆どいないよ!もうひと頑張りだ!!」
アゲハさんが、更に鼓舞の声を上げた。
町が……一体感が!
まるで、ひとつの生き物みたいに、生きようとしているみたいだ!!
~ ~ ~ ~
「何なんだ……」
「一体、何なんだよ!!」
飛んで逃げていたメガネが、滞空しながらその様子を眺め……
わなわなと震えながら、絶叫した。
「あれが、おばあちゃんの力、その神髄だよ」
!?
振り向くと、勇者が飛んでいる。
「くそっ、何でだ!」
「前に言っただろう、“勇者”と書いて“何でもできる”と読むって」
「そっちじゃない!こんなチンケな町民ごときに……何でやられるんだ!
我は一国を傾けられるくらいの準備を!してたはずだぞっ!!!」
「国がひとつ、傾く?」
勇者が、ひとつ嘆息。
「なんだ。そんな程度で、おばあちゃんに勝とうと?
やっぱりお前は、メガネのくせに何もわかってないよ。
いいかい……おばあちゃんの持っている知恵というのは、
人々が暮らしを“少しでもマシにする”ために、
数十年、数百年と。ずっと、ずっと積み重ね受け継がれてきたものだ。
時と空間を越えてた、“人々の想いの結晶”なんだ。
それを……
お前ひとりが?
自分に都合のいい思いをするために?
重ねたロジック?」
ひらひらと舞う白と緑の粒が、
勇者の頬に、張り付いた。
それを、右手の人差し指で拭い、
「“おべんと一粒”で、吹っ飛ぶくらいの薄っぺらいもんさ。
それがわからないとは、お前は魔王としてもド三流だよ」
ぱくっ、と一口。口に突っ込んだ。
「…ふ、ざけたボケをノタマウのは……
ババアだけにしておけぇぇぇええええ!!!」
怒りに我を忘れたメガネが、
勇者に牙をむき、翼を広げ飛翔。
勇者は動かない。
ただ、
剣をひと振りするのみ。
「知りたがってたね、君は。
……何故だ、何故自分が負けるのか、と。
『ババアだから』だ……」
一刀両断されたメガネの体が、断末魔とともに爆発し。
爆風に吹っ飛ばされた眼鏡が、天空・逆さの町の地蔵まで届くと。
ゴーン……
ゴーン……
鐘の音が、町に響き始め、
音とともに、天空の町がその姿を朧としていき、
白と緑の光も、はらはらと消滅していく。
ゴーン……、
ゴーン…………
鐘の音が百と八つを数えた頃には、
天空の町は消滅し、
澄み渡る空と眩しい太陽が、町を輝かせていた。