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【 ババア無双 】  作者: W.A.M
第肆章 『ババア、再び……』
22/24

第21話 『ババア、芽吹く季節の七英雄に麗き寿を拝領す』

 夥しい数の“肉人形兵”が暴れまわる街中。

 あらくれさんや、町の男の人達が、何とか対処しようとしている。

 でも、多勢に無勢……力の差も圧倒的……

 成すすべもなく、町が荒らされていく。


 万事休す、かと力尽きそうだったところへ。


 ゴスッ、バキッ、ズバァッ

 目にも止まらぬ速さの人影が通り過ぎ、

 “肉人形兵”3体がバラバラになっていた。



 その惨劇を通り過ぎた影に反応し、”肉人形”が襲い掛かった。

 振り下ろされる、肉の腕。


 その数多の暴力の腕を、

 左手に構える小ぶりの鉈は、行先遮る枝を掃うが如く斬り落とし。


 腕を失ったその基となる胴体が、怯む暇すら与えず、

 右手に控える巨大な青龍刀は、横真一文字に両断。

 

 光すら見えない、その刃物達の軌跡の餌食となり、

 どさどさと、音を立てて地面に崩れゆく肉片。

 

 崩れゆく、その中から見える人影、

 佇む、歪な二刀流を構えたギャルが。

 



「みんな!

 コイツらの弱点は、斬撃だよっ!得物を持ち替えろ!!

 苦しいけれど、ここが踏ん張りどころだ!

 あーしに着いてきて!そして。町を、壊す奴らを……」


 逆手に鉈を持つ左手の親指を立て、自分の右胸元から左へ一文字。

 


「ブ ッ タ 斬 っ て や れ !」




 オオオオオオオオオオ!!!

 一気に士気が上がった。男の人達って、単純。






【 ババア無双 】


 第21話

『ババア、芽吹く季節の七英雄に麗き寿を拝領す』






 外では反撃が始まったみたい。さすが勇者パーティ。


 私達も、何かできることが……あれば……!!

 凄く、凄く歯痒い。



 と、思ってたとき。室内で。

 おばあちゃんが子供達の中心に立って、声を掛けた。



「はいはいボウヤたち。ちょいと聞いてね。

 外でがんばってる、父ちゃん達を助けたいと思うかぇ?」

「「「助けたーい!」」」


「そうかえそうかえ。

 実はアタシね、とぉ~ってもスゴイお友達を7人、知ってるんよ。

 でもねぇ、アタシゃ年だからねぇ。声が小さくてさ」

「「「えー、そんな!!」」」


「だからね。

 みんなの大声で呼んで願いが叶えば、来てくれるかもねぇ」

「「「わかったー!みんなで呼ぼー!!」」」


 え、これって。ヒーローショーとかでよくあるアレ?



「母ちゃん達はどうかぇ?」

「「「えぇ……助けたいのは山々だけど、年甲斐もなくねぇ……」」」


「残念だねぇ、7人みーんな、美容の神様なんだけどねぇ」

「「「アンタ達!気合い入れて逝くわよ!」」」

「「「喉潰れるまで!」」」


 さ、流石だなぁおばあちゃん、扱い方をよく知ってる。



「準備はええかね?

 じゃあ、ここにいるステラちゃんの後に続いて、呼んでねぇ」


 えっ、私?


「ちょ、ちょっと待って。私、知らないよ……そんな神様」

「問題ないさぁ、アタシが教える後についておいで」

「そ、それに、そんなヒーローおねえさんみたいな真似……」

「あらま、うってつけじゃないの。

 ステラちゃん。アンタも……

 外の二人みたいに、何か、みんなの力になりたいんじゃないのかぇ?」


 ……ああ、お見通しだ。私の気持ち。


 ええい、こうなったら!

 私の受付嬢力、見せてやる!!殆ど業務やってないけど!!



 そう決意した私は、思いっきり息を吸い込むと。


「みぃぃぃぃんなぁぁぁぁ!!?

 準備は、おっけぇぇぇぇ???!!!」


 人生で一番だと思う、もう一生出さないと思う、

 そんな精一杯で、声を張った。


 おばあちゃんはニッコリと微笑むと、

「南無南無……」

 手と手の皺を合わせて拝み始めた。




「いぃっくよぉぉぉぉおお!!!せーの!」




「……南無南無。〝セリ”」

『セリ!』

「「「セリ!」」」


『ナズナ!』

「「「ナズナ!」」」


『ゴギョウ!』

「「「ゴギョウ!」」」


『ハコベラ!』

「「「ハコベラ!」」」


『ホトケノザ!』

「「「ホトケノザ!」」」


『スズナ!』

「「「スズナ!」」」


『スズシロ!』

「「「スズシロ!」」」



「南無南無……むにゃむにゃ……仏様、お力をお貸しくだされ!」

 おばちゃんの言葉に、力が入った!!



 ずおおおおおお!!

 雲一つない晴天だった天空、見渡す限りに!

 巨大な地蔵を中心に繫栄する、逆さまの街並みが広がり、

 町を蓋い尽くした!!


 そして……

 キラキラと光る、白と緑の粒が!

 町中に降り注ぎ、舞い落ちたとき!





「あーしの、脚の傷が……消えた!?」

「気を失ってたヤツが、意識を取り戻したぞ!!」

「なんか俺、疲れが取れてきたみたい!!」

「勝てる……勝てるんだ!」


 町のみんなが……

 力を、いや、目の光を!取り戻していく!


 それどころか、

 町のあちこちで上がっていた炎が、消えていく……!?


「さぁみんな!

 もう、”肉人形”は殆どいないよ!もうひと頑張りだ!!」

 アゲハさんが、更に鼓舞の声を上げた。


 町が……一体感が!

 まるで、ひとつの生き物みたいに、生きようとしているみたいだ!!




 ~ ~ ~ ~




「何なんだ……」


「一体、何なんだよ!!」


 飛んで逃げていたメガネが、滞空しながらその様子を眺め……

 わなわなと震えながら、絶叫した。


「あれが、おばあちゃんの力、その神髄だよ」


 !?

 振り向くと、勇者が飛んでいる。

「くそっ、何でだ!」

「前に言っただろう、“勇者”と書いて“何でもできる”と読むって」

「そっちじゃない!こんなチンケな町民ごときに……何でやられるんだ!

 我は一国を傾けられるくらいの準備を!してたはずだぞっ!!!」

「国がひとつ、傾く?」



 勇者が、ひとつ嘆息。


「なんだ。そんな程度で、おばあちゃんに勝とうと?

 やっぱりお前は、メガネのくせに何もわかってないよ。


 いいかい……おばあちゃんの持っている知恵というのは、

 人々が暮らしを“少しでもマシにする”ために、

 数十年、数百年と。ずっと、ずっと積み重ね受け継がれてきたものだ。

 時と空間を越えてた、“人々の想いの結晶”なんだ。

 それを……


 お前ひとりが?

 自分に都合のいい思いをするために?

 重ねたロジック?」



 ひらひらと舞う白と緑の粒が、

 勇者の頬に、張り付いた。


 それを、右手の人差し指で拭い、



「“おべんと一粒”で、吹っ飛ぶくらいの薄っぺらいもんさ。

 それがわからないとは、お前は魔王としてもド三流だよ」


 ぱくっ、と一口。口に突っ込んだ。



「…ふ、ざけたボケをノタマウのは……

 ババアだけにしておけぇぇぇええええ!!!」


 怒りに我を忘れたメガネが、

 勇者に牙をむき、翼を広げ飛翔。


 勇者は動かない。


 ただ、

 剣をひと振りするのみ。




「知りたがってたね、君は。

 ……何故だ、何故自分が負けるのか、と。


 『ババアだから』だ……」




 一刀両断されたメガネの体が、断末魔とともに爆発し。

 爆風に吹っ飛ばされた眼鏡が、天空・逆さの町の地蔵まで届くと。



 ゴーン……


 ゴーン……



 鐘の音が、町に響き始め、

 音とともに、天空の町がその姿を朧としていき、

 白と緑の光も、はらはらと消滅していく。



 ゴーン……、


 ゴーン…………



 鐘の音が百と八つを数えた頃には、

 天空の町は消滅し、

 澄み渡る空と眩しい太陽が、町を輝かせていた。





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