第20話 『ババア、目覚めよという声が聞こえ』
「どうしてだっ!!完璧に決まってたはず!!」
復活のおばあちゃんを目の前にし、メガネの口調が荒れた。
予定が狂うと自分も怒り狂うタイプかな。
それとも私の言葉に苛ついたのかな。
「はぇ?アタシまた何かやっちゃいましたぁ?」
「すっとぼけないでください!
何故……我の時空魔法が、何故破られたのです……!?」
おばあちゃんに対しても、苛立ちが隠せなくなってきているみたい。
「それはねぇ、もうアンタにはドキドキしなくなったからだよぉ」
「冗談ではない!」
「ええ冗談ですとも。
でも本当はねぇ、本当にねぇ、
アンタよりもドキドキさせてくれる人が現れたから、だよぉ。
あんなにも、アタシのこと求められちゃあねぇ」
「……もう、いいです。
どいつもこいつも!処分して差し上げましょう!!」
苛立ちが頂点に達したメガネが、襲い掛かってきた!
【 ババア無双 】
第20話
『ババア、芽吹く季節の七英雄に麗き寿を拝領す』
メガネが容赦なく、その魔の姿からなる鋭い爪を突き立ててきた!
「おばあちゃん、危ない!」
飛びつくように、おばあちゃんへの攻撃を庇う。
寸でのところで回避できた……けど、こんなまぐれは続かない。
「まとめて串刺しだっ!」
今度こそ、私駄目かも……!!
がきぃ!!
「そう、簡単に、やらせるか、よ……!」
アゲハさん!血反吐を吐きながら爪を掴んでいる!ありがたいけど……
「邪魔だぁ!」
メガネの蹴り。アゲハさんに巻き込まれ、私達3人まとめてふっ飛んだ。
「偉そうな、舐めた口を利いたところで!
立ち向かうのが?年寄りに、一般人に、重症人だ!
その上、こちらは肉人形兵が500だ!
教えてくださいよ、これで一体どうやって!我に歯向かうつもりか!?」
乱暴な語気のメガネ。
丁寧さを繕いながら、苛立ちを滲ませるのを隠し切れない。
「……ふ、ふふふ」
「ふ、ははは。メガネ、お前メガネのくせに何にも知らないんだな」
地面に転がるアゲハさんが、笑い出した。
「減らず口を!なら誰がどうやったら、我に勝てるんで!?」
「馬鹿だなァ。
昔から、相場が決まってるじゃないか……魔王を倒すのが誰かなんて」
「はァ?!話が見えませんね!」
そのとき。
ギギギギィン!!
メガネの頭上に、斬撃の雨が降り注いだ。
「……ハァ、まったく。
だから、来るのが遅いんだよ、『お前』は」
アゲハさんの言葉に、安堵が混じる。
間一髪防いだものの、その斬撃の主にメガネが驚いた。
「お、お前は……勇者!!
何故ここに!?」
「何で、って……僕が『勇者』だからだろ」
台所、いや勇者タカユズル!
嚙み合ってない会話なのに、何だろうこの説得力と安心感。
「いやお前は……確かに隣町で復興を陣頭指揮していたはずです!
それに、ここへ来るまでに500の肉人形兵がいたはずですよ!
なのにどうして辿り着けた……!?」
「いやだからさ、質問の両方ともさ、
“辿り着いた”ってことが回答になってるだろ」
「なん、だと……」
「あのうじゃうじゃいた、気持ち悪いやつ?邪魔だから、
とりあえず100は斬っといたぞ。残りはあらくれ君達に任せた」
え……あの強そうな、あれを?
「ゴメン、だからちょっと遅れた」
「……ったく、レディを待たせるとはね」
アゲハさん、少しだけ嬉しそうだ。うん私も。
「あと、隣町の復興はもう終わらせた。24時間突貫工事だ」
「う、っわ……ブラック社長かよ」
アゲハさん、あからさまにドン引きだ。うん私も。
「というわけで。僕はメガネをやる。残りの400体は任せた」
「ん、任された」
「はァ?!聞き違いですか?そんなことできるはずない!」
「ていうかあの肉人形兵、斬撃めっちゃ効くぞ。
多分ただの寄せ集めだからな。どの方向からでも簡単に刃物が通る」
「うわメガネお前さぁ……ただでさえ死肉なのに、雑に扱うとかさぁ……」
「おい君達、我の言葉を聞いてるんですか?!おい!」
「というわけで、コレとコレ道中で拾ってきたけど使う?」
「……コイツはまた、厄介なモノをふたつ寄越すね、お前は」
「もういい!さっさと片付けてしまいます!
“肉人形”!8体召喚!!」
「そうかー無理か残念だなーせっかく拾ってきたのになー」
「オイオイ、誰に言ってんのさ」
「骸の、肉塊の……お前達の!仲間にしてあげなさい!!」
ひッ!あんなに強い“肉人形”が、8体も!
アゲハさんに一斉に襲い掛かって!危ない逃げ……
ザシュ!バスッ!ドサッ!
「あのさぁ、さっきから全然聞いてなかったけどさぁ、
メガネお前、俺を誰だと思ってるんだ!?」
そこには。
細切れになった“肉人形”8体の上に立つ、
右手の巨大な青龍刀を肩に背負い、左手の薪割り鉈を垂れ下げた、
歪な二刀流が異常に良く似合う、
左脚の止血布を朱に染めた、裸足のギャルが居た。
「うっ……ぐッ!」
状況が不利になったと見たメガネが、逃走した。
「あ、待てコイツ!!」
「お前ホントよく逃げるな!」
「待ちなよぉ、おふたりさん」
おばあちゃんが引き留めた。どしたの?!今急ぎだから!
「みんなね、疲れてるだろぉ?
ほら、アメちゃんお食べよ」
驚きに私達3人は、顔を見合わせた。
そして、その甘い塊を口に放り込む。
疲れがふっ飛び、あちこちの傷が楽になる、それだけじゃない。
なんだろう、無限に“力”が湧いてくる感じがする!
「ありがとう、いってきます!」
「ちゃちゃっと、片付けてくる!」
元気よくそう言うと。勇者達2人は外に駆けていった。