第16話 『ババア、奇跡神秘真実夢を最終融合承認す』
「えー!せっかくいい雰囲気だったのに、誰なの、お邪魔者は!!」
話の途中でステラちゃんが割り込んできた。
落ち着こうな、とりあえず今、俺の邪魔をしているのはアンタだ。
「まったくよぉ、馬に蹴られちまえばいいんよぉ」
隣でおばあちゃんまでプンスカしてる。
呑気だなぁ。
この人達、暗殺されかかってたんだけどなぁ……
【 ババア無双 】
第16話
『ババア、奇跡神秘真実夢を最終融合承認す』
~アゲハの話、続き~
窓の外の風景が、地獄に一変していた。
炎に包まれ、激しく破壊の音を立てる町。
そしてちらほらと目に入る、人間と虫の合成みたいな魔物。
こいつらは……こないだアッチの町を襲った奴らだ!!
「行くよ、勇者!!」
そう言い、立ち上がった俺だったが、
「Zzz……」
肝心の相方は。テーブルにもたれかかり、眠りこけていた。
「オイ!!なーに肝心な時に寝てやがる!起きろ!!」
ムリヤリ引っ張り起こし、軽くビンタもくれながら話しかけたが反応がない。
……おかしい。
確かに結構飲んだが、酔いつぶれるほどじゃないし。
何より。どれだけ酔ってようが、勇者を名乗る以上こんな緊急事態に反応しないなんてこと、あるはずがない。
そのとき。
「フフフフ、料理を堪能していただけたようですね」
不敵な笑いとともに、部下を数名連れたコック長がこちらに歩いてきた。
「……ええ、とても堪能したよ。
こちらから声をかける前に、シェフの方から来てくれるとは……
って、お前は!!!」
その、俺の戸惑いに満足げの表情を浮かべた“ソイツ”は。
コック帽を脱ぎ、大仰に胸に添えて会釈をし、
「ようこそ、“転生勇者パーティ”御一行様」
良く知る見慣れた動作で、眼鏡をクイッと上げた。
「め、メガネお前……!!」
裏切り?何故だ?
いや違う、最初から魔物側だったと考える方が自然だ。
魔物襲撃と同時に、俺達だけ毒を喰わされるなんて偶然、ありえない。
そもそもコイツだ、プラチナチケットを用意したのは……
「コイツだけ潰して……一体何が狙いだ!?」
「おやおや、勘違いをなさっているようですね……
ワタシは、二人にきっちり仕込んだのですよ?
それが貴女には効かなかった。
大したものだ、それも“転生の加護”とやらですか」
いちいち話を区切る丁寧口調が、実に癇に障る。
こいつ、こんな喋り方するヤツだったのか。
きっと文章化されたら、きっちり改行されてるんだろうよ。
「ここの従業員に化けさえすれば、一服盛るのも容易ですし。
事前に“ステータスが上がる料理”と吹き込まれておけば、
多少味が変でも「そんなものか」とお食べになるでしょう?」
「くそっ、何を盛りやがった!?」
「貴方達が、お酒を飲まれるのは“知ってました”からね。
ならば“コレ”は実に効果的だ、証拠も残りにくい」
そう言いながら、
このメガネ野郎は、懐から風邪薬を取り出した。
なんて極悪な野郎だ……
酒と風邪薬のコンボなんざ、身近な死の調合ランキングNo,1だ。
「まぁいい。ワタシの目的は既に達成されている。
“貴方達を弱体化し、この町とともに滅ぼす”
そんなことは、副次的目的……本来の目的は、
貴方達をこの町に足止めすることで、
あの町の“転生ご婦人”から引き離すことですからね」
おばあ、ちゃん……から、だと!?
「あの町を手に入れるには……おおっと喋りすぎたようだ。
では。続きのご歓談は、私の部下とでもしていてくださいませ?」
その言葉を契機に。
部下の服が破れ、本来の魔の姿を現した!!
そしてメガネは踵を返し、立ち去ろうとする。
「くそっ、待ちやがれ!!」
「おやおや、はしたないですよレディ。
それに、ワタシに構っている暇はあるんですか?」
7体の“魔族”が、俺にダッシュしてきていた。
ちぃっ!
俺は床一面を覆う高級絨毯を引っ張る。数体の魔族がすッ転んだ。
見逃さない。一体に駆け寄り、
「サッカーやろうぜ、お前ボールな」
左足のインステップキックでふっ飛ばし、もう1体にぶつけた。
あと5体。
近くの席からテーブルクロスを引っ張り、拝借。
倒れて起き上がりながら魔法詠唱しているヤツの頭にブッ被せ、
視界を奪ったままジャンピングニー。
勿論食器は、テーブルの上に並んでいる。
あと4体。
両側から、絹を裂くような悲鳴。
2体が、逃げそびれたお客を人質にとろうとしているようだ。
本日のオードブルは、海鮮を主とした二皿。
両の手それぞれから投ぜられた、机上にあった円月輪と化す一品たち。
壁に突き刺さるオードブルの皿に、魔族の生首が添えられた。
あと2体。
机に残った、ワインをがぶりと口に含む。
飛びかかってきた残りの敵2体に対し、詠唱破棄で発射。
「カロリー魔法・度数超増強!」
悪酔いの苦しさを知れ。
噴射された毒霧を受けた2体の魔物は、くらくらと地に堕ちた。
以上。
瞬殺したとはいえ、メガネの姿はもうない。
だが悔しがっている暇はない。町の救助を……
の前に、コイツだ。
「うへへぇ、あげはたん、へあえあ」
重症中毒の勇者に、強引に水をアホほど飲ませた後。
無慈悲な胃部への発勁。
めり込む掌底、飛び散る胃の内容物。
(絶対にマネしちゃ駄目だぞ)
そして近くの店員さんらしき人間を捕まえ、
「ゴメン、コイツに5分に一度くらい水飲ませてやって。
あと、掃除費用はコイツに請求していいから。
たしか、この町の貴族で“タカなんとか”とかいう名前だった」
そう言い残し、退出した。
名前を聞いたら狼狽えたような気がしたが、気にしている暇はない。
崩れ、瓦礫と化す町並み。
炎を上げる木の柱。
逃げ惑う人々と、それを追う魔物達。
この町にも、冒険者は数多居るし、協力してくれているが……
避難誘導。消火作業。魔物撃退。救助活動。指令指示。
その他その他……
手が足りない。足りなすぎる。
結局、各々ができる最大効率の行動をとり続けるしかない。
俺はひたすら、魔物の数を減らす。減らす。減らす。
そして火の元へ向かい、カロリー吸収、鎮火、鎮火。
救助の指示が間に合わない。避難誘導は任せるしかない。
怯え動揺する町の人は……思うように動けるはずがない。
くそっ、司令塔がいれば……
そして抗い続けること、数時間。
疲労もピーク。
よりによってそのタイミングで、
ボスクラスの巨大な魔物が現れ、町角にて咆哮する。
瓦礫の下で、逃げ遅れた子供が見つかり、恐慌する。
気付いた俺は、死力を振り絞り、特攻する、
……間に合わない!
そのとき。
見覚えのある斬撃が。敵の四肢と首をまとめて切り裂いた。
断末魔も上げる暇なく、崩れ落ちる魔物。
やっと来た……遅いぞ。
崩れた魔物による土煙の中から現れた、子供を抱える影に。
「調子は、どうなん?」
俺は見上げ、問いかけた。
「頭痛と吐き気がひどい」
それは二日酔いだ。
「それに……」
その影は。町の様子を、再度見回した後、
「例えようもなく、胸糞悪い」
土煙が晴れたそこには。
勇者が、
かつて見たことないほどの怒り表情を顕わにしていた。
「この、“勇者”を……タカユズル家次期当主を!
そしてこの町を!!
なめるなよ……!」
そして子供を町民に預け、
近くの高台に駆け上がり、剣を天高く振りかざし。
町全体に通るほどの声で叫んだ。
「貴様ら魔物に、この町を好きにさせるものか!!
町民よ!今、俺と我が家ともに全員、立ち上がれ!
底力と矜持とを!彼奴等に見せてやる時こそ、今だ!!」
おおお……
坊ちゃまだ!坊ちゃまがいつの間にか帰ってきた!知らんうちに!!
よくわからんけどさすが坊ちゃま!!
町民が、その姿に鼓舞され立ち上がった。
的確な指揮、迅速な避難指示と救助活動。
時には会敵する者への援護、また時には自ら率先して敵に切り込む。
獅子奮迅、縦横無尽の次期当主の姿。
みるみるうちに魔物の姿は減っていき、町の恐慌は鎮火していく。
ますます高まる士気。
まさに形勢逆転。
勇者、お前人気者だったんだな……
ていうか、この町の次期当主だったんか……
そして、
流れを我が側のものとしたことを確信した勇者タカユズルが、俺に叫んだ。
「アゲハ!君はおばあちゃんのもとへ!走れ!!」
……
「……」コクリ
俺は頷き。夜道を走り始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
「というわけ、だったんだよ」
話し終えたら、ドッと疲れが出てきた。
「はぇー、大変だったんだねぇ。アメちゃん食べなぁ」
遠慮なく口に放り込む。力が湧いてくる。あーやっぱ最高。
その横で、真っ青になってるステラちゃん。
「な、なんて重要なことを、早く言ってくれないんですかーっ!!」
だから初めから言ってんじゃん!おおごとだって!!
ようやく現状を理解した?二人。
ステラちゃんは町に行き、役場に報告。
「でもパンサーを放っておけない」というおばあちゃん。
なので、当分は俺がおばあちゃんの家に泊まることになった。
隣町は。タカユズル…勇者の、陣頭指揮で再建を始めたらしい。
あいつもがんばってるな。
とりあえず……俺は、
さすがに疲れた……。少しだけ、休ま、せて。
メガネの野郎の、野望は、くだ、け、た……かな?