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【 ババア無双 】  作者: W.A.M
第参章 『ババア、誰が為に戦う』
16/24

第16話 『ババア、奇跡神秘真実夢を最終融合承認す』

「えー!せっかくいい雰囲気だったのに、誰なの、お邪魔者は!!」


 話の途中でステラちゃんが割り込んできた。

 落ち着こうな、とりあえず今、あーしの邪魔をしているのはアンタだ。


「まったくよぉ、馬に蹴られちまえばいいんよぉ」

 隣でおばあちゃんまでプンスカしてる。



 呑気だなぁ。



 この人達、暗殺されかかってたんだけどなぁ……






【 ババア無双 】


 第16話

『ババア、奇跡神秘真実夢を最終融合承認す』






 ~アゲハの話、続き~


 窓の外の風景が、地獄に一変していた。

 炎に包まれ、激しく破壊の音を立てる町。


 そしてちらほらと目に入る、人間と虫の合成みたいな魔物。

 こいつらは……こないだアッチの町を襲った奴らだ!!



「行くよ、勇者!!」

 そう言い、立ち上がった俺だったが、


「Zzz……」

 肝心の相方は。テーブルにもたれかかり、眠りこけていた。



「オイ!!なーに肝心な時に寝てやがる!起きろ!!」

 ムリヤリ引っ張り起こし、軽くビンタもくれながら話しかけたが反応がない。


 ……おかしい。

 確かに結構飲んだが、酔いつぶれるほどじゃないし。

 何より。どれだけ酔ってようが、勇者を名乗る以上こんな緊急事態に反応しないなんてこと、あるはずがない。



 そのとき。



「フフフフ、料理を堪能していただけたようですね」


 不敵な笑いとともに、部下を数名連れたコック長がこちらに歩いてきた。



「……ええ、とても堪能したよ。

 こちらから声をかける前に、シェフの方から来てくれるとは……

 って、お前は!!!」


 その、俺の戸惑いに満足げの表情を浮かべた“ソイツ”は。

 コック帽を脱ぎ、大仰に胸に添えて会釈をし、


「ようこそ、“転生勇者パーティ”御一行様」

 良く知る見慣れた動作で、眼鏡をクイッと上げた。



「め、メガネお前……!!」





 裏切り?何故だ?

 いや違う、最初から魔物側だったと考える方が自然だ。

 魔物襲撃と同時に、俺達だけ毒を喰わされるなんて偶然、ありえない。

 そもそもコイツだ、プラチナチケットを用意したのは……



「コイツだけ潰して……一体何が狙いだ!?」


「おやおや、勘違いをなさっているようですね……

 ワタシは、二人にきっちり仕込んだのですよ?

 それが貴女には効かなかった。

 大したものだ、それも“転生の加護”とやらですか」


 いちいち話を区切る丁寧口調が、実に癇に障る。

 こいつ、こんな喋り方するヤツだったのか。

 きっと文章化されたら、きっちり改行されてるんだろうよ。


「ここの従業員に化けさえすれば、一服盛るのも容易ですし。

 事前に“ステータスが上がる料理”と吹き込まれておけば、

 多少味が変でも「そんなものか」とお食べになるでしょう?」

「くそっ、何を盛りやがった!?」

「貴方達が、お酒を飲まれるのは“知ってました”からね。

 ならば“コレ”は実に効果的だ、証拠も残りにくい」


 そう言いながら、

 このメガネ野郎は、懐から風邪薬を取り出した。


 なんて極悪な野郎だ……

 酒と風邪薬のコンボなんざ、身近な死の調合ランキングNo,1だ。



「まぁいい。ワタシの目的は既に達成されている。

 “貴方達を弱体化し、この町とともに滅ぼす”

 そんなことは、副次的目的……本来の目的は、


 貴方達をこの町に足止めすることで、

 あの町の“転生ご婦人”から引き離すことですからね」



 おばあ、ちゃん……から、だと!?



「あの町を手に入れるには……おおっと喋りすぎたようだ。

 では。続きのご歓談は、私の部下とでもしていてくださいませ?」


 その言葉を契機に。

 部下の服が破れ、本来の魔の姿を現した!!

 そしてメガネは踵を返し、立ち去ろうとする。


「くそっ、待ちやがれ!!」

「おやおや、はしたないですよレディ。

 それに、ワタシに構っている暇はあるんですか?」


 7体の“魔族”が、俺にダッシュしてきていた。

 ちぃっ!





 俺は床一面を覆う高級絨毯を引っ張る。数体の魔族がすッ転んだ。

 見逃さない。一体に駆け寄り、

「サッカーやろうぜ、お前ボールな」

 左足のインステップキックでふっ飛ばし、もう1体にぶつけた。

 あと5体。


 近くの席からテーブルクロスを引っ張り、拝借。

 倒れて起き上がりながら魔法詠唱しているヤツの頭にブッ被せ、

 視界を奪ったままジャンピングニー。

 勿論食器は、テーブルの上に並んでいる。

 あと4体。


 両側から、絹を裂くような悲鳴。

 2体が、逃げそびれたお客を人質にとろうとしているようだ。

 本日のオードブルは、海鮮を主とした二皿。

 両の手それぞれから投ぜられた、机上にあった円月輪と化す一品たち。

 壁に突き刺さるオードブルの皿に、魔族の生首が添えられた。

 あと2体。


 机に残った、ワインをがぶりと口に含む。

 飛びかかってきた残りの敵2体に対し、詠唱破棄で発射。

「カロリー魔法・度数超増強ストロングゼロ!」

 悪酔いの苦しさを知れ。

 噴射された毒霧を受けた2体の魔物は、くらくらと地に堕ちた。

 以上。



 瞬殺したとはいえ、メガネの姿はもうない。

 だが悔しがっている暇はない。町の救助を……


 の前に、コイツだ。


「うへへぇ、あげはたん、へあえあ」

 重症中毒の勇者に、強引に水をアホほど飲ませた後。

 無慈悲な胃部への発勁。

 めり込む掌底、飛び散る胃の内容物。

 (絶対にマネしちゃ駄目だぞ)


 そして近くの店員さんらしき人間を捕まえ、


「ゴメン、コイツに5分に一度くらい水飲ませてやって。

 あと、掃除費用はコイツに請求していいから。

 たしか、この町の貴族で“タカなんとか”とかいう名前だった」


 そう言い残し、退出した。

 名前を聞いたら狼狽えたような気がしたが、気にしている暇はない。





 崩れ、瓦礫と化す町並み。

 炎を上げる木の柱。

 逃げ惑う人々と、それを追う魔物達。


 この町にも、冒険者は数多居るし、協力してくれているが……


 避難誘導。消火作業。魔物撃退。救助活動。指令指示。

 その他その他……


 手が足りない。足りなすぎる。

 結局、各々ができる最大効率の行動をとり続けるしかない。


 俺はひたすら、魔物の数を減らす。減らす。減らす。

 そして火の元へ向かい、カロリー吸収、鎮火、鎮火。


 救助の指示が間に合わない。避難誘導は任せるしかない。

 怯え動揺する町の人は……思うように動けるはずがない。


 くそっ、司令塔がいれば……



 そして抗い続けること、数時間。

 疲労もピーク。


 よりによってそのタイミングで、

 ボスクラスの巨大な魔物が現れ、町角にて咆哮する。

 瓦礫の下で、逃げ遅れた子供が見つかり、恐慌する。

 気付いた俺は、死力を振り絞り、特攻する、

 ……間に合わない!

 

 そのとき。


 見覚えのある斬撃が。敵の四肢と首をまとめて切り裂いた。

 断末魔も上げる暇なく、崩れ落ちる魔物。


 やっと来た……遅いぞ。



 崩れた魔物による土煙の中から現れた、子供を抱える影に。

「調子は、どうなん?」

 俺は見上げ、問いかけた。


「頭痛と吐き気がひどい」

 それは二日酔いだ。


「それに……」


 その影は。町の様子を、再度見回した後、



「例えようもなく、胸糞悪い」

 土煙が晴れたそこには。

 勇者が、

 かつて見たことないほどの怒り表情を顕わにしていた。




「この、“勇者”を……タカユズル家次期当主を!

 そしてこの町を!!

 なめるなよ……!」




 そして子供を町民に預け、

 近くの高台に駆け上がり、剣を天高く振りかざし。

 町全体に通るほどの声で叫んだ。


「貴様ら魔物に、この町を好きにさせるものか!!

 町民よ!今、俺と我が家ともに全員、立ち上がれ!

 底力と矜持とを!彼奴等に見せてやる時こそ、今だ!!」


 おおお……

 坊ちゃまだ!坊ちゃまがいつの間にか帰ってきた!知らんうちに!!

 よくわからんけどさすが坊ちゃま!!


 町民が、その姿に鼓舞され立ち上がった。

 的確な指揮、迅速な避難指示と救助活動。

 時には会敵する者への援護、また時には自ら率先して敵に切り込む。

 獅子奮迅、縦横無尽の次期当主の姿。

 みるみるうちに魔物の姿は減っていき、町の恐慌は鎮火していく。

 ますます高まる士気。

 まさに形勢逆転。


 勇者、お前人気者だったんだな……

 ていうか、この町の次期当主だったんか……



 そして、

 流れを我が側のものとしたことを確信した勇者タカユズルが、俺に叫んだ。


「アゲハ!君はおばあちゃんのもとへ!走れ!!」


 ……


「……」コクリ

 俺は頷き。夜道を走り始めた。




 ◇ ◇ ◇ ◇




「というわけ、だったんだよ」

 話し終えたら、ドッと疲れが出てきた。


「はぇー、大変だったんだねぇ。アメちゃん食べなぁ」

 遠慮なく口に放り込む。力が湧いてくる。あーやっぱ最高。


 その横で、真っ青になってるステラちゃん。

「な、なんて重要なことを、早く言ってくれないんですかーっ!!」

 だから初めから言ってんじゃん!おおごとだって!!





 ようやく現状を理解した?二人。

 ステラちゃんは町に行き、役場に報告。

「でもパンサーを放っておけない」というおばあちゃん。

 なので、当分は俺がおばあちゃんの家に泊まることになった。


 隣町は。タカユズル…勇者の、陣頭指揮で再建を始めたらしい。

 あいつもがんばってるな。



 とりあえず……俺は、

 さすがに疲れた……。少しだけ、休ま、せて。


 メガネの野郎の、野望は、くだ、け、た……かな?


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